お江戸物語 藤恋歌

らんふぁ

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十七話

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....…時は遡る。


長崎屋の話とは、太夫の気が晴れるように、外へ連れ出したらどうか?と言う提案だった。


無論、太夫が実は恋わずらいなどとは箝口令を引かれている。


客には気鬱の病で通していた。


医者にも大金を払って固く口止めしてある。


白雪太夫が、他の男を想っての病などと、贔屓の旦那達に知られたら、とんだ興ざめだからだ。


そもそも彼女が想いを寄せる相手が、客の一人なら、喉を物が通らない程思い詰める筈が無い。


“主様、逢えなくてわちきは寂しくありんす”

などと書かれた手紙で一つで、喜んでスッ飛んで来るだろう。


第一、それなら籐兵衛にも分かる。


まず始めに、太夫が恋しているのではないかと勘づいた遣り手のお梅……海千山千の彼女の目を逃れる事など、この見世では不可能に近い。


そして絵師の柳泉老人は『おなごの胸の内をペラペラ喋り散らす程、儂は耄碌はしておりませんでな』といっかな口を割らない。


太夫の恋の相手は誰なのか……。


頭が痛い思いの籐兵衛だが、贔屓の客はそんな事とは露知らず、彼女に次々と見舞いの品々を贈っていた矢先の長崎屋からの話だった。


「紅葉も見頃の季節だ。いっそ外の空気でも吸ったら、太夫の気も少しは晴れるのでは無いかねぇ……吉原一の白雪太夫だと言っても籠の鳥なのは間違いないからね。勿論、綺麗な鳥が逃げたりしないよう、この長崎屋が請け合いますよ」


花魁を吉原から外界に出せば、足抜きと言う逃亡の怖れがある。

その様な女を外に出せと言える客は、普段から信用があり、又莫大な保証金を支払うのが慣わしであった。


長崎屋は贔屓の中でも年配の客で、粋で知られ人柄も練れており、金払いも良い。


太夫も好意的な客である。


それに長崎屋はどちらかと言えば、彼女と同襟するよりも共に一緒に、博識で機知に富んだ会話などで、楽しく時を過ごしたい様子だった。


『年のせいか、最近はあっちの方はトンとねぇ……』などと冗談混じりに言うくらいである。


そうだ。


確かに太夫を外に出して、気晴らしをさせてやるなら、相手は長崎屋が良い。


具合の良くない彼女に、自分の想いをぶつけるだけの客では……。


たまには違った所で太夫と……なぞと考えられたら、今の彼女は耐えられまい。


籐兵衛の中で、パチパチいう算盤勘定と、外に出て太夫が少しでも元気になればと言う親心が混じり合う。


ありがたい申し出に彼は笑顔になった。「そうですな……長崎屋さんのせっかくの提案だ。検討して見ましょうか」





「……吉原の外にでありんすか?長崎屋様と?」布団から身を起こした白雪は思いがけない話に目を丸くした。


「そうだよ。少しでも、お前の気が晴れるのではと話を持ちかけて下さったのだ」


彼女の目が潤んだ。「………わちきのような者に、ほんにありがたい話でありんすなぁ……」

本当に嬉しそうな微笑を浮かべたその様子に藤兵衛はホッとする。「では、進めて良いね?」


白雪太夫は頷いた。

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