27 / 65
二十七話
しおりを挟む
何やら意味ありげである。
「どういう意味ですかな?」
「いえね、看板の白雪太夫がお座敷にも出られない、寝たり起きたりじゃあ、鈴代屋さんの米櫃だって干上がってしまうんじゃないかと思ってねぇ。太夫には、さぞかし金がかかっているんじゃないか?」
「……だったら何なんです?」
山城屋はニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべた。「ですからね、今が売り時じゃないかと。花は萎れてからは、商品にならんでしょう?あの方は出来れば太夫を身請けしたいと言いなさってるのさ」
確かに今まで身請けの話が無かった訳ではないが……。
白雪には全くその気が無かったし、藤兵衛とて、今が盛りの彼女を手離す気は無かった。
身請け話でも、あのような相手では最悪と言っていい。
だが、如才なく考えているフリをする。
よし、少しは見込みがありそうだ、と見た山城屋は満足げに「ま、良く考えて下さいな。白雪太夫が今までのようにならなかったら、おたくに取っても悪い話ではない筈だからね。何せ、相手はある藩のご家老様。不自由はさせぬとの仰せだ。では太夫に宜しく」
山城屋が帰った後、大量の塩をまいた藤兵衛は太夫の元に行き、今の話を伝えた。
真っ青になった白雪は、めいっぱい嫌がった。「いやでありんす!どうしても、と言われるなら、わちきはいっそ死んだ方がマシでありんす!舌を噛みきってでも!あんなお座敷は……もう、もう、こりごりでありんす!」ハアハアと息まで切らせる有り様に籐兵衛は慌てて宥めにかかる。
身体が弱った太夫に、こんな興奮は良くない。
「分かった。分かった。確かに困り者の客だからね。ウチとしてもありがたくない」
「親父様、この通りでありんす」彼女は白い華奢な両手を合わせて、主を拝んだ。
「ならば、あのような事を言われないように、早く元の太夫に戻っておくれよ」
太夫を寝かせた彼は、まるで懇願するように言った。
「……あい」
そこへバタバタとが伊之助が藤兵衛を呼びに来た。「旦那様、すぐ来て下せぇ。南町同心の神野様と才蔵親分がお見えです。何でも長崎屋さんがゆんべ襲われたとかって……」
「!」
悪い知らせに驚愕した太夫は、再び身を起こし、藤兵衛の方は彼を問い詰めた。「な、何ですと!?それで、命は?怪我は?」
「幸い、長崎屋さんには怪我はありやせん。松永右京様が襲って来た四人を叩き斬ったそうで。……あのお侍様、昨日は人助けの1日でしたね」おかしそうにつけ足した。
「どういう意味ですかな?」
「いえね、看板の白雪太夫がお座敷にも出られない、寝たり起きたりじゃあ、鈴代屋さんの米櫃だって干上がってしまうんじゃないかと思ってねぇ。太夫には、さぞかし金がかかっているんじゃないか?」
「……だったら何なんです?」
山城屋はニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべた。「ですからね、今が売り時じゃないかと。花は萎れてからは、商品にならんでしょう?あの方は出来れば太夫を身請けしたいと言いなさってるのさ」
確かに今まで身請けの話が無かった訳ではないが……。
白雪には全くその気が無かったし、藤兵衛とて、今が盛りの彼女を手離す気は無かった。
身請け話でも、あのような相手では最悪と言っていい。
だが、如才なく考えているフリをする。
よし、少しは見込みがありそうだ、と見た山城屋は満足げに「ま、良く考えて下さいな。白雪太夫が今までのようにならなかったら、おたくに取っても悪い話ではない筈だからね。何せ、相手はある藩のご家老様。不自由はさせぬとの仰せだ。では太夫に宜しく」
山城屋が帰った後、大量の塩をまいた藤兵衛は太夫の元に行き、今の話を伝えた。
真っ青になった白雪は、めいっぱい嫌がった。「いやでありんす!どうしても、と言われるなら、わちきはいっそ死んだ方がマシでありんす!舌を噛みきってでも!あんなお座敷は……もう、もう、こりごりでありんす!」ハアハアと息まで切らせる有り様に籐兵衛は慌てて宥めにかかる。
身体が弱った太夫に、こんな興奮は良くない。
「分かった。分かった。確かに困り者の客だからね。ウチとしてもありがたくない」
「親父様、この通りでありんす」彼女は白い華奢な両手を合わせて、主を拝んだ。
「ならば、あのような事を言われないように、早く元の太夫に戻っておくれよ」
太夫を寝かせた彼は、まるで懇願するように言った。
「……あい」
そこへバタバタとが伊之助が藤兵衛を呼びに来た。「旦那様、すぐ来て下せぇ。南町同心の神野様と才蔵親分がお見えです。何でも長崎屋さんがゆんべ襲われたとかって……」
「!」
悪い知らせに驚愕した太夫は、再び身を起こし、藤兵衛の方は彼を問い詰めた。「な、何ですと!?それで、命は?怪我は?」
「幸い、長崎屋さんには怪我はありやせん。松永右京様が襲って来た四人を叩き斬ったそうで。……あのお侍様、昨日は人助けの1日でしたね」おかしそうにつけ足した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【完結】『江戸めぐり ご馳走道中 ~お香と文吉の東海道味巡り~』
月影 朔
歴史・時代
読めばお腹が減る!食と人情の東海道味巡り、開幕!
自由を求め家を飛び出した、食い道楽で腕っぷし自慢の元武家娘・お香。
料理の知識は確かだが、とある事件で自信を失った気弱な元料理人・文吉。
正反対の二人が偶然出会い、共に旅を始めたのは、天下の街道・東海道!
行く先々の宿場町で二人が出会うのは、その土地ならではの絶品ご当地料理や豊かな食材、そして様々な悩みを抱えた人々。
料理を巡る親子喧嘩、失われた秘伝の味、食材に隠された秘密、旅人たちの些細な揉め事まで――
お香の持ち前の豪快な行動力と、文吉の豊富な食の知識、そして二人の「料理」の力が、人々の閉ざされた心を開き、事件を解決へと導いていきます。時にはお香の隠された剣の腕が炸裂することも…!?
読めば目の前に湯気立つ料理が見えるよう!
香りまで伝わるような鮮やかな料理描写、笑いと涙あふれる人情ドラマ、そして個性豊かなお香と文吉のやり取りに、ページをめくる手が止まらない!
旅の目的は美味しいものを食べること? それとも過去を乗り越えること?
二人の絆はどのように深まっていくのか。そして、それぞれが抱える過去の謎も、旅と共に少しずつ明らかになっていきます。
笑って泣けて、お腹が空く――新たな食時代劇ロードムービー、ここに開幕!
さあ、お香と文吉と一緒に、舌と腹で東海道五十三次を旅しましょう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる