佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

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136 旅行計画

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「やっぱさ、直前すぎんだよ……空いてねえ~!」

中々ヒットしない空き室に音を上げ、ぱたんとひっくり返った。
そりゃそうだよな、年始なんて大多数の日本人が休みの日。しかも雪見温泉なんて、まさに冬に人気がある宿。そうそう空いてない。

「ちょっとずらすか……俺ら3、4日辺りも休みだろ? ド正月よりはマシじゃねえ?」
「行けるなら、いつでも」

機嫌のいい朝霧も、せっせとPCを使って宿の検索に余念がない。
ちら、と画面を覗いて、思わずむせた。

「ちょ、お前……高すぎるわ?! 何つう値段の見てんだよ?!」
「高い方が空いてるかと」
「桁が違うわ!!」

俺が奮発と思う額より、ひとつ、下手したらふたつ桁が多い。石油王じゃねえんだからな?!

「ずっと旅行に行ってない分を足せば、こんなものかと」
「海外旅行に行けるわ!」

マジで金に頓着しねえな……いくら貯金あるんだろ。
とりあえず、高級スイートとか泊まらねえから。

「ひとまず、雪見温泉が絶対。あと、せっかくだから雰囲気ある飯とか食いたいよな。他には……ホテルより和風って感じのとこが良くねえ?」
「いいな」

とりあえず闇雲にあたっても見つからないと踏んで、まずは宿を絞ろうということになり、条件を挙げているところだ。
朝霧からは全然意見が出ねえけど。

「んーアメニティはどうでもいいし……あ、部屋付き露天風呂だってさ! そんなのもあんのか」
「それがいい」

何でも良さそうに頷くばかりだった朝霧が、急に身を乗り出して驚いた。

「え、ああ……確かに。お前死ぬほど目立つだろうし、万が一全裸画像なんか出回ったらヤバイもんな」
「それは犯罪だろ」
「犯罪でもやるやつはやるんだぞ? お前、無頓着すぎるから、気を付けた方がいいと思う」

すっかり忘れてたけど、こいつ目立つ。特に、脱いだら。
悪ふざけで撮られた画像がSNSで拡散、とかマズすぎる……これは部屋付きか、貸し切り風呂にせねば。

「そうなると、候補が一気に絞れてくるな。値段はちょっと……アレだけど」
「俺が払う」
「なんでだよ……払えるわ」

軽い旅行、というには高いけれど。でも、面白そうじゃねえ? 部屋付き露天風呂なんてさ。

「お、こことか穴場っぽい。その代わり、周りに何もねえ! ジジババの聖地みたいなとこだな」
「何もなかったら、困らないか?」
「まあな。けど宿でゆっくり温泉を楽しむなら、それでいいのかもな」

観光地も何もない、コンビニすら怪しそうな場所。
だけど「全室露天風呂付き離れ」は中々魅力的だ。
退屈、するだろうか。
ちら、と見た朝霧が画面を前に口角を上げていて、吹き出しそうになる。
遊園地に行く前の子供みたいだ。

「にやつきすぎだろ。空いてるみたいだし、ここにするか?」
「……ああ」

ふいっと顔を隠した朝霧が可笑しくて、遠慮なく笑う。
そうだな、俺ら毎日家にいるし。別にそれが退屈だと思ったことねえな。

「何もねえけど……その分、お前がゆっくり休めるかもな」
「俺が?」
「だってお前、ストイックすぎだし。強制休暇みたいでいいんじゃね? 筋トレするなよ」
「いや、多少は……」

やっぱやるつもりだったな?! この分だと、早朝からランニングにも行きそうだ。雪降ってるっつうのに。

「あー、でも、ここだと車でしか行けねえ。お前がずっと運転になるな……どうする? すげえ疲れると思うぞ」
「それがいい」
「何がいいんだよ」

即答されて苦笑した。俺が運転できればいいけどなあ……さすがにそんな山奥の運転とか怖すぎる。

「あの、直線で広くて高速じゃなくて、人が出てこないとこなら……代われると思うぞ」
「そんな所なら、代わらなくていい」

今度は朝霧が吹き出して、俺を見た。

「ナオを乗せて走りたい。楽しかった」
「……ああ、神社の時?」

頷いてふわっと笑う朝霧に、ぐっと詰まる。
お前はさ、表現がストレートなんだよ。普通、そんなどストレートに物事を言わないからな?

「まあ、お前がそれでいいなら……。じゃあ、もうここで宿とるぞ? 何時間も運転するけど、いいんだな?」
「ああ」

よし、と無事に予約を入れ、もう出発まで何日もないことに気持ちが焦る。

「タオル類はあるって書いてたよな?! 買い出し行かねえと! 何がいる?」
「道中食うもの」
「一番どうでもいいな?! そんなもん途中で買え!」

弾む心を隠さないお前の顔と、無駄かもしれねえけど、必死に抑える俺。
ああ、楽しみだよ。
すげえ、楽しみ。
別に今日行く必要もねえのに、二人してスーパーへ出かけるほどには。

「お前、旅行用歯ブラシ持ってる?」
「持ってる。けど、買う」
「なんでだよ?!」
「遠征用のは持って行きたくない」

そんな言葉に、どきりとするほどには。
特別、なんだな。
そうだな、お前との旅行は特別だ。
オリンピックに出るだろうアスリートの、わくわく顔を眺めて静かに笑った。
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