136 / 164
136 旅行計画
しおりを挟む
「やっぱさ、直前すぎんだよ……空いてねえ~!」
中々ヒットしない空き室に音を上げ、ぱたんとひっくり返った。
そりゃそうだよな、年始なんて大多数の日本人が休みの日。しかも雪見温泉なんて、まさに冬に人気がある宿。そうそう空いてない。
「ちょっとずらすか……俺ら3、4日辺りも休みだろ? ド正月よりはマシじゃねえ?」
「行けるなら、いつでも」
機嫌のいい朝霧も、せっせとPCを使って宿の検索に余念がない。
ちら、と画面を覗いて、思わずむせた。
「ちょ、お前……高すぎるわ?! 何つう値段の見てんだよ?!」
「高い方が空いてるかと」
「桁が違うわ!!」
俺が奮発と思う額より、ひとつ、下手したらふたつ桁が多い。石油王じゃねえんだからな?!
「ずっと旅行に行ってない分を足せば、こんなものかと」
「海外旅行に行けるわ!」
マジで金に頓着しねえな……いくら貯金あるんだろ。
とりあえず、高級スイートとか泊まらねえから。
「ひとまず、雪見温泉が絶対。あと、せっかくだから雰囲気ある飯とか食いたいよな。他には……ホテルより和風って感じのとこが良くねえ?」
「いいな」
とりあえず闇雲にあたっても見つからないと踏んで、まずは宿を絞ろうということになり、条件を挙げているところだ。
朝霧からは全然意見が出ねえけど。
「んーアメニティはどうでもいいし……あ、部屋付き露天風呂だってさ! そんなのもあんのか」
「それがいい」
何でも良さそうに頷くばかりだった朝霧が、急に身を乗り出して驚いた。
「え、ああ……確かに。お前死ぬほど目立つだろうし、万が一全裸画像なんか出回ったらヤバイもんな」
「それは犯罪だろ」
「犯罪でもやるやつはやるんだぞ? お前、無頓着すぎるから、気を付けた方がいいと思う」
すっかり忘れてたけど、こいつ目立つ。特に、脱いだら。
悪ふざけで撮られた画像がSNSで拡散、とかマズすぎる……これは部屋付きか、貸し切り風呂にせねば。
「そうなると、候補が一気に絞れてくるな。値段はちょっと……アレだけど」
「俺が払う」
「なんでだよ……払えるわ」
軽い旅行、というには高いけれど。でも、面白そうじゃねえ? 部屋付き露天風呂なんてさ。
「お、こことか穴場っぽい。その代わり、周りに何もねえ! ジジババの聖地みたいなとこだな」
「何もなかったら、困らないか?」
「まあな。けど宿でゆっくり温泉を楽しむなら、それでいいのかもな」
観光地も何もない、コンビニすら怪しそうな場所。
だけど「全室露天風呂付き離れ」は中々魅力的だ。
退屈、するだろうか。
ちら、と見た朝霧が画面を前に口角を上げていて、吹き出しそうになる。
遊園地に行く前の子供みたいだ。
「にやつきすぎだろ。空いてるみたいだし、ここにするか?」
「……ああ」
ふいっと顔を隠した朝霧が可笑しくて、遠慮なく笑う。
そうだな、俺ら毎日家にいるし。別にそれが退屈だと思ったことねえな。
「何もねえけど……その分、お前がゆっくり休めるかもな」
「俺が?」
「だってお前、ストイックすぎだし。強制休暇みたいでいいんじゃね? 筋トレするなよ」
「いや、多少は……」
やっぱやるつもりだったな?! この分だと、早朝からランニングにも行きそうだ。雪降ってるっつうのに。
「あー、でも、ここだと車でしか行けねえ。お前がずっと運転になるな……どうする? すげえ疲れると思うぞ」
「それがいい」
「何がいいんだよ」
即答されて苦笑した。俺が運転できればいいけどなあ……さすがにそんな山奥の運転とか怖すぎる。
「あの、直線で広くて高速じゃなくて、人が出てこないとこなら……代われると思うぞ」
「そんな所なら、代わらなくていい」
今度は朝霧が吹き出して、俺を見た。
「ナオを乗せて走りたい。楽しかった」
「……ああ、神社の時?」
頷いてふわっと笑う朝霧に、ぐっと詰まる。
お前はさ、表現がストレートなんだよ。普通、そんなどストレートに物事を言わないからな?
「まあ、お前がそれでいいなら……。じゃあ、もうここで宿とるぞ? 何時間も運転するけど、いいんだな?」
「ああ」
よし、と無事に予約を入れ、もう出発まで何日もないことに気持ちが焦る。
「タオル類はあるって書いてたよな?! 買い出し行かねえと! 何がいる?」
「道中食うもの」
「一番どうでもいいな?! そんなもん途中で買え!」
弾む心を隠さないお前の顔と、無駄かもしれねえけど、必死に抑える俺。
ああ、楽しみだよ。
すげえ、楽しみ。
別に今日行く必要もねえのに、二人してスーパーへ出かけるほどには。
「お前、旅行用歯ブラシ持ってる?」
「持ってる。けど、買う」
「なんでだよ?!」
「遠征用のは持って行きたくない」
そんな言葉に、どきりとするほどには。
特別、なんだな。
そうだな、お前との旅行は特別だ。
オリンピックに出るだろうアスリートの、わくわく顔を眺めて静かに笑った。
中々ヒットしない空き室に音を上げ、ぱたんとひっくり返った。
そりゃそうだよな、年始なんて大多数の日本人が休みの日。しかも雪見温泉なんて、まさに冬に人気がある宿。そうそう空いてない。
「ちょっとずらすか……俺ら3、4日辺りも休みだろ? ド正月よりはマシじゃねえ?」
「行けるなら、いつでも」
機嫌のいい朝霧も、せっせとPCを使って宿の検索に余念がない。
ちら、と画面を覗いて、思わずむせた。
「ちょ、お前……高すぎるわ?! 何つう値段の見てんだよ?!」
「高い方が空いてるかと」
「桁が違うわ!!」
俺が奮発と思う額より、ひとつ、下手したらふたつ桁が多い。石油王じゃねえんだからな?!
「ずっと旅行に行ってない分を足せば、こんなものかと」
「海外旅行に行けるわ!」
マジで金に頓着しねえな……いくら貯金あるんだろ。
とりあえず、高級スイートとか泊まらねえから。
「ひとまず、雪見温泉が絶対。あと、せっかくだから雰囲気ある飯とか食いたいよな。他には……ホテルより和風って感じのとこが良くねえ?」
「いいな」
とりあえず闇雲にあたっても見つからないと踏んで、まずは宿を絞ろうということになり、条件を挙げているところだ。
朝霧からは全然意見が出ねえけど。
「んーアメニティはどうでもいいし……あ、部屋付き露天風呂だってさ! そんなのもあんのか」
「それがいい」
何でも良さそうに頷くばかりだった朝霧が、急に身を乗り出して驚いた。
「え、ああ……確かに。お前死ぬほど目立つだろうし、万が一全裸画像なんか出回ったらヤバイもんな」
「それは犯罪だろ」
「犯罪でもやるやつはやるんだぞ? お前、無頓着すぎるから、気を付けた方がいいと思う」
すっかり忘れてたけど、こいつ目立つ。特に、脱いだら。
悪ふざけで撮られた画像がSNSで拡散、とかマズすぎる……これは部屋付きか、貸し切り風呂にせねば。
「そうなると、候補が一気に絞れてくるな。値段はちょっと……アレだけど」
「俺が払う」
「なんでだよ……払えるわ」
軽い旅行、というには高いけれど。でも、面白そうじゃねえ? 部屋付き露天風呂なんてさ。
「お、こことか穴場っぽい。その代わり、周りに何もねえ! ジジババの聖地みたいなとこだな」
「何もなかったら、困らないか?」
「まあな。けど宿でゆっくり温泉を楽しむなら、それでいいのかもな」
観光地も何もない、コンビニすら怪しそうな場所。
だけど「全室露天風呂付き離れ」は中々魅力的だ。
退屈、するだろうか。
ちら、と見た朝霧が画面を前に口角を上げていて、吹き出しそうになる。
遊園地に行く前の子供みたいだ。
「にやつきすぎだろ。空いてるみたいだし、ここにするか?」
「……ああ」
ふいっと顔を隠した朝霧が可笑しくて、遠慮なく笑う。
そうだな、俺ら毎日家にいるし。別にそれが退屈だと思ったことねえな。
「何もねえけど……その分、お前がゆっくり休めるかもな」
「俺が?」
「だってお前、ストイックすぎだし。強制休暇みたいでいいんじゃね? 筋トレするなよ」
「いや、多少は……」
やっぱやるつもりだったな?! この分だと、早朝からランニングにも行きそうだ。雪降ってるっつうのに。
「あー、でも、ここだと車でしか行けねえ。お前がずっと運転になるな……どうする? すげえ疲れると思うぞ」
「それがいい」
「何がいいんだよ」
即答されて苦笑した。俺が運転できればいいけどなあ……さすがにそんな山奥の運転とか怖すぎる。
「あの、直線で広くて高速じゃなくて、人が出てこないとこなら……代われると思うぞ」
「そんな所なら、代わらなくていい」
今度は朝霧が吹き出して、俺を見た。
「ナオを乗せて走りたい。楽しかった」
「……ああ、神社の時?」
頷いてふわっと笑う朝霧に、ぐっと詰まる。
お前はさ、表現がストレートなんだよ。普通、そんなどストレートに物事を言わないからな?
「まあ、お前がそれでいいなら……。じゃあ、もうここで宿とるぞ? 何時間も運転するけど、いいんだな?」
「ああ」
よし、と無事に予約を入れ、もう出発まで何日もないことに気持ちが焦る。
「タオル類はあるって書いてたよな?! 買い出し行かねえと! 何がいる?」
「道中食うもの」
「一番どうでもいいな?! そんなもん途中で買え!」
弾む心を隠さないお前の顔と、無駄かもしれねえけど、必死に抑える俺。
ああ、楽しみだよ。
すげえ、楽しみ。
別に今日行く必要もねえのに、二人してスーパーへ出かけるほどには。
「お前、旅行用歯ブラシ持ってる?」
「持ってる。けど、買う」
「なんでだよ?!」
「遠征用のは持って行きたくない」
そんな言葉に、どきりとするほどには。
特別、なんだな。
そうだな、お前との旅行は特別だ。
オリンピックに出るだろうアスリートの、わくわく顔を眺めて静かに笑った。
110
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる