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2 佐藤と朝霧
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――本当、どうしてこうなったのか。
高い身長、意志の強そうな口元に、切れ長の鋭い目。
スッと高い鼻梁と、清潔感ある短い黒髪。なるほど、確かに男前だ。
「営業課内勤の朝霧……朝霧 涼です。このたびはご迷惑をおかけします」
そう言って頭を下げた彼を、ぼんやりと見上げた。
これが、噂の朝霧さん。
けどな、自己紹介はソレなのか。営業内勤は事実だろうけど、もっと他に言うべきことがあるだろう? 南翔電機アスリート部、アクアチーム期待の星……朝霧 涼君?
彼は、一般社員とは事情が違う。
俺の勤める南翔電機はスポーツ振興にも力を入れているらしく、アスリート部が存在する。そこには現在水泳、卓球、陸上の選手が在籍していたはずだ。当然、ただの部活じゃあない。目指せオリンピックだ。
つまり朝霧さんは営業部ではあるけど、競泳で活躍中のアスリートでもある。この見た目だから、熱心な勧誘の末、入社となった暁には社内が浮き足立っていたものだ。
なんでこんな大企業とも言えないような弊社に入ってくれたんだろうなあ。
ちら、と隣の上司に視線をやった。
七瀬さん……絶対、朝霧ファンでしょ。好きですよね、こういう質実剛健タイプ。
事の経緯をなんとなく把握して、視線に恨みを込めておく。
「朝霧君、広報の七瀬よ。こっちはナ……佐藤君」
バシッと背中を叩かれ、我に返ってぺこりと頭を下げた。
「広報課・PR部の佐藤 直です! あのー、朝霧さんは本当にいいんですか?」
「いい、とは?」
「その、私と……ええと、ルームシェアですよ?」
なんでそんな普通に受け入れてらっしゃる? 嫌でしょ? 誰が好き好んで他人と暮らしたいと思うのか。一部そういう人種がいるのは知っているけれど、少なくとも彼はそうではないだろう。
「こちらとしては、無理をお願いする立場なので……。俺、あまり部屋にいませんし、本当に寝床を貸していただけるだけでありがたいです」
言葉の割りに、あんまり申し訳なさそうじゃないんだよな。威風堂々として、ガッチリ合わせられた視線から強者オーラをビシバシ感じる。
自称小動物タイプの俺なんて、視線を逸らさないのが精一杯だというのに。
「何よ、二人共固いわね。同い年でしょ? 同世代でルームシェアなんて、きっと楽しいわよ!」
一人嬉しそうな上司が、ぽんぽんと俺たちの肩を叩いた。
「朝霧君も、今日はもう上がれるんでしょ? ひとまず、親交を深めるために飲みにでも行っておいで! 私のおごりよ!」
「え、マジですか!」
ぽんと渡された1万円にまんまと釣られた俺は、いい笑顔で朝霧さんを引っ張って行ったのだった。
◇
「えー、朝霧さん、もっといいとこに住んでるもんだと……あ、すみません」
酒で軽くなった口を滑らせ、慌てて謝罪する。
なんでも、今回彼が路頭に迷う羽目になったのは、彼の住んでいた賃貸が立て直しの必要に迫られたからだとか。
まさか、そんなボロい賃貸に住んでいるとは思わなかった。
「いえ。俺、本当に家は寝るだけなんで。だから、すぐ次も見つかると思います」
「あー、そういうタイプなんですか! 意外だなあ、スポーツ選手とかってこう、色々と羽振りがいいイメージでしたよ! そもそも、俺の所じゃなくても、モテるんだからいくらでも彼女とか……」
自分のセリフに、自分で致命傷を負って酒を呷った。そうだよ、俺と違ってこの野郎はきっといくらでも、誰でも選び放題だろ!
「そうでもないです」
それは、どの言葉に対してかな?! 酒の力で段々饒舌になる俺と比較して、朝霧さんはずーっと淡々としている。どちらかと言わなくても無口、無表情なタイプらしい。
「朝霧さん、結構酒強いんすね? 全然酔ってないでしょ」
俺だけ酔ってるのが気に食わなくて、まだ飲みかけのグラスになみなみとビールをつぎ足してやった。
「……佐藤さんは、そろそろ飲まない方が」
切れ長の目が、眉をひそめてまじまじ俺を見下ろした。
「俺も、割りと強いんですよ? 赤くなるだけで」
うん、少しだけ見栄を張った。強くはない。ただ、弱いというほどでもない。
「だってせっかくオゴリなんだから、使いきりたいじゃないですか!」
「だったら俺が。あと、もっと食います」
「え、まだ食うの?」
アスリートすげえ。どうやら、赤い顔でへらへらしている俺を見て不安に駆られたらしい。伝票を確認して、次々注文を始めた。
「ちょ、ちょっと! 俺もウーロンハイ!」
「佐藤さん、それで最後にしましょう」
完全に酔っ払い相手の対応に、不貞腐れて瓶ビールを手元に引き寄せておく。
ちょっと最初のペースが速かっただけで、大した量飲んでない。仕方ないだろう、こんな無口男と飲むんだから、俺が饒舌にならねば。
~~~~~~
本日はあと数話投稿します!
高い身長、意志の強そうな口元に、切れ長の鋭い目。
スッと高い鼻梁と、清潔感ある短い黒髪。なるほど、確かに男前だ。
「営業課内勤の朝霧……朝霧 涼です。このたびはご迷惑をおかけします」
そう言って頭を下げた彼を、ぼんやりと見上げた。
これが、噂の朝霧さん。
けどな、自己紹介はソレなのか。営業内勤は事実だろうけど、もっと他に言うべきことがあるだろう? 南翔電機アスリート部、アクアチーム期待の星……朝霧 涼君?
彼は、一般社員とは事情が違う。
俺の勤める南翔電機はスポーツ振興にも力を入れているらしく、アスリート部が存在する。そこには現在水泳、卓球、陸上の選手が在籍していたはずだ。当然、ただの部活じゃあない。目指せオリンピックだ。
つまり朝霧さんは営業部ではあるけど、競泳で活躍中のアスリートでもある。この見た目だから、熱心な勧誘の末、入社となった暁には社内が浮き足立っていたものだ。
なんでこんな大企業とも言えないような弊社に入ってくれたんだろうなあ。
ちら、と隣の上司に視線をやった。
七瀬さん……絶対、朝霧ファンでしょ。好きですよね、こういう質実剛健タイプ。
事の経緯をなんとなく把握して、視線に恨みを込めておく。
「朝霧君、広報の七瀬よ。こっちはナ……佐藤君」
バシッと背中を叩かれ、我に返ってぺこりと頭を下げた。
「広報課・PR部の佐藤 直です! あのー、朝霧さんは本当にいいんですか?」
「いい、とは?」
「その、私と……ええと、ルームシェアですよ?」
なんでそんな普通に受け入れてらっしゃる? 嫌でしょ? 誰が好き好んで他人と暮らしたいと思うのか。一部そういう人種がいるのは知っているけれど、少なくとも彼はそうではないだろう。
「こちらとしては、無理をお願いする立場なので……。俺、あまり部屋にいませんし、本当に寝床を貸していただけるだけでありがたいです」
言葉の割りに、あんまり申し訳なさそうじゃないんだよな。威風堂々として、ガッチリ合わせられた視線から強者オーラをビシバシ感じる。
自称小動物タイプの俺なんて、視線を逸らさないのが精一杯だというのに。
「何よ、二人共固いわね。同い年でしょ? 同世代でルームシェアなんて、きっと楽しいわよ!」
一人嬉しそうな上司が、ぽんぽんと俺たちの肩を叩いた。
「朝霧君も、今日はもう上がれるんでしょ? ひとまず、親交を深めるために飲みにでも行っておいで! 私のおごりよ!」
「え、マジですか!」
ぽんと渡された1万円にまんまと釣られた俺は、いい笑顔で朝霧さんを引っ張って行ったのだった。
◇
「えー、朝霧さん、もっといいとこに住んでるもんだと……あ、すみません」
酒で軽くなった口を滑らせ、慌てて謝罪する。
なんでも、今回彼が路頭に迷う羽目になったのは、彼の住んでいた賃貸が立て直しの必要に迫られたからだとか。
まさか、そんなボロい賃貸に住んでいるとは思わなかった。
「いえ。俺、本当に家は寝るだけなんで。だから、すぐ次も見つかると思います」
「あー、そういうタイプなんですか! 意外だなあ、スポーツ選手とかってこう、色々と羽振りがいいイメージでしたよ! そもそも、俺の所じゃなくても、モテるんだからいくらでも彼女とか……」
自分のセリフに、自分で致命傷を負って酒を呷った。そうだよ、俺と違ってこの野郎はきっといくらでも、誰でも選び放題だろ!
「そうでもないです」
それは、どの言葉に対してかな?! 酒の力で段々饒舌になる俺と比較して、朝霧さんはずーっと淡々としている。どちらかと言わなくても無口、無表情なタイプらしい。
「朝霧さん、結構酒強いんすね? 全然酔ってないでしょ」
俺だけ酔ってるのが気に食わなくて、まだ飲みかけのグラスになみなみとビールをつぎ足してやった。
「……佐藤さんは、そろそろ飲まない方が」
切れ長の目が、眉をひそめてまじまじ俺を見下ろした。
「俺も、割りと強いんですよ? 赤くなるだけで」
うん、少しだけ見栄を張った。強くはない。ただ、弱いというほどでもない。
「だってせっかくオゴリなんだから、使いきりたいじゃないですか!」
「だったら俺が。あと、もっと食います」
「え、まだ食うの?」
アスリートすげえ。どうやら、赤い顔でへらへらしている俺を見て不安に駆られたらしい。伝票を確認して、次々注文を始めた。
「ちょ、ちょっと! 俺もウーロンハイ!」
「佐藤さん、それで最後にしましょう」
完全に酔っ払い相手の対応に、不貞腐れて瓶ビールを手元に引き寄せておく。
ちょっと最初のペースが速かっただけで、大した量飲んでない。仕方ないだろう、こんな無口男と飲むんだから、俺が饒舌にならねば。
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本日はあと数話投稿します!
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