37 / 180
37 理由
しおりを挟む
朝霧に身を任せていると、デカい体にガードされて良い感じに電車内に居場所を作ることができた。うむうむ、中々やるではないか。
寒かったのが嘘のように、人の熱気で電車内は暖かい。人間の体温って、中々馬鹿に出来ない温度なんだな。
……なんてどうでもいいことを考えていて、すげえ混んでいる割りに結構余裕だな、と気がついた。
おかしい。窮屈ではあるけど、俺の周囲に空間がある。かつて経験した満員電車と全然違う。
そういえば、朝霧はどこだ?
「……」
「なんだ?」
首を巡らせると、ぴたりと俺の後ろについている朝霧。そうか、こいつがいるから。
朝霧が確保した空間の分、俺にゆとりがある。
「場所、変わってやろうか?」
きっと、朝霧が収まりたかったはずの空間だろう。次の駅到着時にでも、と提案してみたら、ふっと笑われた。
「何のために?」
「何って……こっちの方が楽だろ? 俺ばっか楽してんの悪いかと思って」
「お前はそこにいろ」
「そりゃ、いいけど」
朝霧ってそんなに気の利いたヤツだっけ?
それこそ何のために、じゃねえ? なんて考えたところで、ふと理由に思い当たってしまった。
「お前……俺がその、アレに合うとか思ってるわけ?!」
この混雑した電車内で禁句を言うワケにもいかず、小声で怒鳴るという器用なことをしながら、キッと背後の朝霧を睨み付ける。
だからお前、俺の背後にいるわけ?!
「バレたか」
「あるわけねえだろ! ボウヤじゃねえんだぞ!」
「確かに、あれは高校生くらいに見えた」
ひ、人が気にしていることを! 背が低いということは、必然的に幼く見られるものなのだ。お前には一生縁のない悩みだな!
そもそも、立派に大人社会で生きている今、もう痴漢なんぞ合うわけがない。
「あのな、万が一、億が一、そんなことがあったとして、俺が対処できないわけねえだろ」
「気付かないのにか?」
痛いところを突かれてウッと口を閉じた。
それは、早々に朝霧が追っ払ったからだろう。その時だって、きっと俺は気付いていたら対処できたけどな。
「……気付かないなら、それはそれで被害にあってないのと同じじゃねえ?」
「同じじゃない」
なんでお前がムッとするんだ。
まあいい、俺が快適空間を独占できるなら、それはそれでいい。
「けど、それだったらさー、この状況だとお前が疑われるんじゃねえ? つうかお前こそ、気をつけねえとな? えん罪でも大騒動だぞ」
俺に貼り付いた朝霧をからかうと、そうか、と笑って身じろぎの気配がした。
「なら、疑われないようにしておく」
俺の顔の両横に、太い腕が二本。
壁と網棚に手を置いた朝霧。そうだな、手を見える位置に置いておくというのは大事な心がけだ。そこに間違いはない。ないけど……。
「俺を間に入れるな!」
「お前がちょうどそこにいる」
「やめろやめろ、格好悪いわ」
いわゆる壁ドン、に相当近い状況なわけで。近いというかそのものというか、ただ俺が背中を向けているから助かっているだけで。
「大丈夫だ、誰にも見えん。俺で隠れるからな」
言われて、確かに? と思ってしまうのが腹立たしい。傍目には朝霧が一人で立っているように見えるだろうよ!
これだけ人がいるのに静かな満員電車の中、小声でやり合っていても目立つ。
周囲の視線が気になって、渋々口を噤んだ。
快適な満員電車の中、俺を守るように囲む二本の腕。
ふと、本当にコレが俺を守るためだったら。
だったら、もしかして朝霧ってこのために俺と同じ電車に――。
別に、嬉しくない。俺は女子じゃないから、余計なことはするなと言いたい。
――だけど、ただ。
こいつが俺のために予定を変えて行動したのなら、それはそれで……まあ、ちょっとした優越感ってやつだ。
寒かったのが嘘のように、人の熱気で電車内は暖かい。人間の体温って、中々馬鹿に出来ない温度なんだな。
……なんてどうでもいいことを考えていて、すげえ混んでいる割りに結構余裕だな、と気がついた。
おかしい。窮屈ではあるけど、俺の周囲に空間がある。かつて経験した満員電車と全然違う。
そういえば、朝霧はどこだ?
「……」
「なんだ?」
首を巡らせると、ぴたりと俺の後ろについている朝霧。そうか、こいつがいるから。
朝霧が確保した空間の分、俺にゆとりがある。
「場所、変わってやろうか?」
きっと、朝霧が収まりたかったはずの空間だろう。次の駅到着時にでも、と提案してみたら、ふっと笑われた。
「何のために?」
「何って……こっちの方が楽だろ? 俺ばっか楽してんの悪いかと思って」
「お前はそこにいろ」
「そりゃ、いいけど」
朝霧ってそんなに気の利いたヤツだっけ?
それこそ何のために、じゃねえ? なんて考えたところで、ふと理由に思い当たってしまった。
「お前……俺がその、アレに合うとか思ってるわけ?!」
この混雑した電車内で禁句を言うワケにもいかず、小声で怒鳴るという器用なことをしながら、キッと背後の朝霧を睨み付ける。
だからお前、俺の背後にいるわけ?!
「バレたか」
「あるわけねえだろ! ボウヤじゃねえんだぞ!」
「確かに、あれは高校生くらいに見えた」
ひ、人が気にしていることを! 背が低いということは、必然的に幼く見られるものなのだ。お前には一生縁のない悩みだな!
そもそも、立派に大人社会で生きている今、もう痴漢なんぞ合うわけがない。
「あのな、万が一、億が一、そんなことがあったとして、俺が対処できないわけねえだろ」
「気付かないのにか?」
痛いところを突かれてウッと口を閉じた。
それは、早々に朝霧が追っ払ったからだろう。その時だって、きっと俺は気付いていたら対処できたけどな。
「……気付かないなら、それはそれで被害にあってないのと同じじゃねえ?」
「同じじゃない」
なんでお前がムッとするんだ。
まあいい、俺が快適空間を独占できるなら、それはそれでいい。
「けど、それだったらさー、この状況だとお前が疑われるんじゃねえ? つうかお前こそ、気をつけねえとな? えん罪でも大騒動だぞ」
俺に貼り付いた朝霧をからかうと、そうか、と笑って身じろぎの気配がした。
「なら、疑われないようにしておく」
俺の顔の両横に、太い腕が二本。
壁と網棚に手を置いた朝霧。そうだな、手を見える位置に置いておくというのは大事な心がけだ。そこに間違いはない。ないけど……。
「俺を間に入れるな!」
「お前がちょうどそこにいる」
「やめろやめろ、格好悪いわ」
いわゆる壁ドン、に相当近い状況なわけで。近いというかそのものというか、ただ俺が背中を向けているから助かっているだけで。
「大丈夫だ、誰にも見えん。俺で隠れるからな」
言われて、確かに? と思ってしまうのが腹立たしい。傍目には朝霧が一人で立っているように見えるだろうよ!
これだけ人がいるのに静かな満員電車の中、小声でやり合っていても目立つ。
周囲の視線が気になって、渋々口を噤んだ。
快適な満員電車の中、俺を守るように囲む二本の腕。
ふと、本当にコレが俺を守るためだったら。
だったら、もしかして朝霧ってこのために俺と同じ電車に――。
別に、嬉しくない。俺は女子じゃないから、余計なことはするなと言いたい。
――だけど、ただ。
こいつが俺のために予定を変えて行動したのなら、それはそれで……まあ、ちょっとした優越感ってやつだ。
65
あなたにおすすめの小説
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました
水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。
彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。
ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。
李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。
運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。
だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。
過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。
東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる