【完結】佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

文字の大きさ
38 / 180

38 朝霧の買い物

しおりを挟む
「――お前、もっとゆっくり歩け!」
「足の長さが……」
「うるせー!!」

いちいちイラッとくること言いやがって! 予定通り手前の駅で下りて歩いてはいるのだけども。段々歩行速度の遅くなる俺と、段々早くなる朝霧。
ゆっくり歩いているつもりらしいのが、余計腹立たしい。

「あーもー、タクシー呼ぼうかな」
「さすがにこのくらい歩け」
「けどさあ、このペースだと予定の時間に到着しねえし」
「ホテルは11時半だろう?」
「それまでに色々予定を考えてんだよ!」

おかしいな、もっと早く到着予定だったのに。
この分だと現地到着は9時を過ぎる。せっかくこっちまで出たんだから、行きたい店があるし……。

「んー風呂を削るか……別に今風呂に入る必要はねえし」
「そうしろ」
「お前、自分は入ったからって……つうか、お前シャワー浴びたのに銭湯行く気だったの?」
「佐藤が行くなら」

別行動すりゃいいのに……そう思ったところで、ふと重大なことに気がついた。
俺と、朝霧が一緒に風呂? あの、ガチムチボディの横に……俺?!

「よし、銭湯はやめだ!」

秒速で銭湯を選択肢から外した。
絶対コイツと銭湯なんて行かねえ。死ぬほど目立つし。
頷く朝霧は、どうやら銭湯に乗り気ではなかったらしい。

「なら、買い物と映画くらいは……? けど、映画は2時間くらいあるよな。結構キツイかも。朝霧はなんか予定あったの?」
「ない」

だろうな……。コイツは、本当に何を楽しみに生きてんだ。

「俺、遠慮なくキッチン用品の視察に行くけど、朝霧はその間どうすんの」
「どう、とは」
「お前がキッチン用品見てもしょうがねえだろ? 何も面白いもんはねえよ」
「お前が面白いからいい」
「どういう意味だよ?!」

退屈しても知らねえからな! どうせ映画も何でもいいだろうから、流行りモノでも観るか。それなら早い時間もやっているだろうし。
できれば映画より買い物に時間を割きたいのはやまやまなのだけれど、なぜ映画なのか。それにはれっきとした理由がある。
腹が、減る。ただ、それだけだ。映画だと身動き取れねえから、入る時に買っておかなければ、いくら空腹だろうが何かを飲み食いできない。
俺自身を律するための作戦なのだ。


「――はあ……やっと着いた」
タクシーが許されなかったので、ひたすら歩いて到着したのは、もうすぐ9時になろうかという頃合い。
「急げ急げ! とりあえず映画チケット買って……上映までの時間で店に行くぞ!」
「何を観るんだ?」
「何でもいい! スプラッターなヤツじゃなければ! お前、どういうの見んの?」
聞いてはみたものの、やはりコレといった回答はない。適当に時間の都合が良かった映画を選んで、お目当ての店へ急いだ。

「おお……やっぱ小洒落てんなあ。キッチン系はさ、やっぱどうしても女性向けになるわけ。だからさ、そういう見せ方とかすげえ参考になるんだよな」
こだわりキッチン、をコンセプトに『シンプルかつ可愛い』が特徴のキッチン雑貨が並ぶ。

「ウチ、観葉植物とか置いてねえし……模造品でもあった方がいいか? やっぱ木製の雑貨とキッチン用品って相性いいよな」

別に朝霧に向けて話しているわけでもなく、独り言と言うには大きく、ぶつぶつ話しながら目を皿のようにして歩き回る。
ちょっと可愛い系の置物とか、布地とか、買っておくべきか。

完全に没頭してうろついてしばらく、従順についてきていた朝霧がふらっと離れたと思ったら、何かを鷲掴んで戻って来た。

「佐藤、これどうだ?」
「……かわいいけど。お前、こういうの趣味なわけ?」

むんずと無造作に掴まれて顔を歪めているのは、多分犬……ポメラニアンのぬいぐるみだろうか。デフォルメされ、もちもち手触りのよさそうな丸っこいぬいぐるみだ。朝霧が持っていると小さく見えるけど、バスケットボールくらいのサイズ感はある。
渡されるままに受け取ってもちもちさせていると、朝霧が肩を震わせていた。

「なんだよ?」
「お前に、似てる」
「は?!」

思わず手の中のぬいぐるみと目を合わせた。
もちもち愛らしくつぶらな瞳。
……ど、どんな視点で見たら、これと俺が似てると思うんだ?!

「こういう犬がいるだろう」
「ポメラニアン?」
「佐藤と、似てる」
「全然分かんねえよ?!」

これは褒められ……褒め……てはないな、きっとな。キャンキャンうるさいって言いたいのか?  

「だったら、お前はコレだろ! 持ってみろよ!」
「俺が……?」
「あっはは! 似てる似てる!」

犬種は知らねえけど、ちょうどいいのがあった。耳をピンと立てた黒っぽい犬のぬいぐるみ。
もちもち感がどうにも朝霧とはそぐわないけれど、まあ笑えるからいい。
納得いかない顔で見つめるもんだから、それがまた笑いを誘う。

そんな余計なことに気を逸らせつつ、大急ぎで買い物を済ませた頃には、もう上映間近。
駆け込むように席へ着いたから、ポップコーンやジュースの誘惑に惑う暇もなかった。
そして、とても気になるのが朝霧の手にある大きな袋。
ふんわりふくらんだ不自然な形。
……あのさ、お前もしかしてぬいぐるみ買った?

これは絶対撮影して、七瀬さんと宮城さんに見せてやらねばなるまい。
俺の中に熱い使命感がたぎったのだった。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました

水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。 彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。 ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。 李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。 運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。 だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。 過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。 東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...