11 / 144
首席騎士様は、颯爽と現れる
しおりを挟む
きっと間に合う、結界に逃げ込めるってそう思ったのに、まるで周りの総てがスローモーションになったみたい。
こんなに僅かな距離なのに、結界に指先が触れるまでがやけにゆっくりに感じられる。背後で魔物が草を蹴る音が、生々しく耳に響いた。
まさか、死なないよね? あたし。
縁起でもない考えが、瞬間、脳裏をよぎった。
「させるかっ!」
突然の叫び声と共に聞こえたのは、肉と骨を断つ音、魔物の断末魔。同時に、あたしの体は思いっきり突き飛ばされて、結界の中に勢いよく転がり込んでいた。
なんとか体勢を立て直して振り返ったら、首席騎士様が血まみれの剣を右手に掲げたまま、左手で風の刃を無数に生み出し、一斉に魔物に叩き込んでいた。
すごい……。
剣も魔法も、ダブルで使えるんだ。
圧巻の戦闘センスに、もうただ茫然と見守る事しかできない。
首席騎士様は、もう何の魔物だったのかすら判別がつかないほど完全に息の根を止められた魔物を一瞥すると、ヒュッと音を立てて剣を振り、血糊を落として剣を鞘に納める。
そして、無表情のまま結界の中に悠然と帰還した。
「あ、あの、ありがとうござ……」
「結界の外に出るなと言ってあっただろう!」
「っ」
結界が震えるほどの怒声だった。
「死にたいのか!」
さらに怒鳴られて、思わず涙がじんわりと浮かんでしまった。
自分が情けなくて。
ただでさえ何の役にもたたないのに。せっかく結界だって張ってくれたのに。言いつけさえ守れないで、結果、迷惑をかけるだなんて。
自分のダメさ加減が嫌になる。
「……その、すまん」
あたしが泣いてしまったからだろう、首席騎士様は、なんとも気まずそうに目を逸らす。
「違……っ、あたし、ごめんなさい……」
最悪だ、しかも気を遣わせてしまった。涙を止めようと思うのに、溢さないようにするので精いっぱいだ。
申し訳ないと思っているのに、命が助かったという安心感や、帰って来てくれたという嬉しさもやっぱりどこかにあって、どうしても込み上げてくるものが抑えられない。
「すまん」
「違うんです……ほんと、すみません」
ちくしょう、涙よ止まれ。これ以上、首席騎士様に気まずい思いをさせてどうするつもりだ、自分に言い聞かせてぐっと顔をあげる。
そして、思いっきり頭を下げた。
「ごめんなさい! もう絶対に結界から出たりしません! ……あと、本当に助けてくれてありがとうございました」
「あ、ああ」
あたしの勢いに、首席騎士様は少し驚いたようだけれど、視線をあちこちに泳がせたあと、ぽつりと一言、こう口にした。
「君は、魔力が高いだろう」
「……?」
確かにあたし、魔力だけは豊富にあるけど、急になんでその話? 首席騎士様が何を言いたいのかは分からぬまま、とりあえずあたしは首肯した。
こんなに僅かな距離なのに、結界に指先が触れるまでがやけにゆっくりに感じられる。背後で魔物が草を蹴る音が、生々しく耳に響いた。
まさか、死なないよね? あたし。
縁起でもない考えが、瞬間、脳裏をよぎった。
「させるかっ!」
突然の叫び声と共に聞こえたのは、肉と骨を断つ音、魔物の断末魔。同時に、あたしの体は思いっきり突き飛ばされて、結界の中に勢いよく転がり込んでいた。
なんとか体勢を立て直して振り返ったら、首席騎士様が血まみれの剣を右手に掲げたまま、左手で風の刃を無数に生み出し、一斉に魔物に叩き込んでいた。
すごい……。
剣も魔法も、ダブルで使えるんだ。
圧巻の戦闘センスに、もうただ茫然と見守る事しかできない。
首席騎士様は、もう何の魔物だったのかすら判別がつかないほど完全に息の根を止められた魔物を一瞥すると、ヒュッと音を立てて剣を振り、血糊を落として剣を鞘に納める。
そして、無表情のまま結界の中に悠然と帰還した。
「あ、あの、ありがとうござ……」
「結界の外に出るなと言ってあっただろう!」
「っ」
結界が震えるほどの怒声だった。
「死にたいのか!」
さらに怒鳴られて、思わず涙がじんわりと浮かんでしまった。
自分が情けなくて。
ただでさえ何の役にもたたないのに。せっかく結界だって張ってくれたのに。言いつけさえ守れないで、結果、迷惑をかけるだなんて。
自分のダメさ加減が嫌になる。
「……その、すまん」
あたしが泣いてしまったからだろう、首席騎士様は、なんとも気まずそうに目を逸らす。
「違……っ、あたし、ごめんなさい……」
最悪だ、しかも気を遣わせてしまった。涙を止めようと思うのに、溢さないようにするので精いっぱいだ。
申し訳ないと思っているのに、命が助かったという安心感や、帰って来てくれたという嬉しさもやっぱりどこかにあって、どうしても込み上げてくるものが抑えられない。
「すまん」
「違うんです……ほんと、すみません」
ちくしょう、涙よ止まれ。これ以上、首席騎士様に気まずい思いをさせてどうするつもりだ、自分に言い聞かせてぐっと顔をあげる。
そして、思いっきり頭を下げた。
「ごめんなさい! もう絶対に結界から出たりしません! ……あと、本当に助けてくれてありがとうございました」
「あ、ああ」
あたしの勢いに、首席騎士様は少し驚いたようだけれど、視線をあちこちに泳がせたあと、ぽつりと一言、こう口にした。
「君は、魔力が高いだろう」
「……?」
確かにあたし、魔力だけは豊富にあるけど、急になんでその話? 首席騎士様が何を言いたいのかは分からぬまま、とりあえずあたしは首肯した。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる