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首席騎士様は、困惑する

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首席騎士様、まだあれを気にしていたのか。逆に申し訳ない。


「だって、あれはあたしが悪かったから。泣いちゃったのは、自分が情けなかったのと、首席騎士様が助けてくれたのが嬉しかったからで……首席騎士様が気にするようなことは何も!」


しょんぼりしてしまった首席騎士様の姿にこっちが驚いてしまって、慌ててそう言ったら、首席騎士様はかすかに微笑んでくれた。


「……ありがとう」


なぜかお礼を言われて、あたしの方がどぎまぎする。そして首席騎士様は、思い出したようにこう言った。


「ところでその、さっきから気になっているんだが、首席騎士、とはまさか俺の事か?」

「はい」


何をいまさら、当たり前だよと思ったら、首席騎士様は思いっきり微妙な顔をする。


「そう呼ばれるのは困るんだが」

「えっ!? でも学校中の人がほぼそう呼んでると思うんですけど」


あたしの返しに、首席騎士様は絶望したような顔をした。分かりやすく落ち込んでしまった首席騎士様の姿に、なんだか申し訳なくなってしまう。


「あの、もしかして今まで、気づいてませんでした?」

「……いや、そう言われれば思いあたるふしは山ほどある」


なんだか遠い目をしているけど、多分これ、噂話で言われてても、面と向かっては言われてないってパターンなんだろうなぁ。ううむ、いらぬショックを与えてしまった。


「なんか、あの、ごめんなさい」


とりあえず謝ったあたしに、首席騎士様は「いや、すまん」と目を伏せる。

なんでも、騎士団で首席騎士とか筆頭騎士とか呼ばれるのは、騎士の中でも最も力のある、名誉な呼び名なんですって。


「そんなあだ名で呼ばれていることが親父や兄貴に知られたら……」


なんて言って、首席騎士様は真剣に悩んでいるようだった。知られたらやっぱりマズイんだろうか。

お父様は確か、騎士団長ですもんね。お兄様もそういえば次期騎士団長の筆頭候補ですもんね。リアル首席騎士ってことか。

それは確かに心中複雑だわ。

なんだか申し訳なくなってきて、あたしは「あの、違う呼び方のほうがいいですか?」と聞かざるを得なくなってしまった。

首席騎士様って呼ぶの、結構気に入ってたんだけどなぁ。


「リカルドでも、リックでも、シャウトルでも、好きに呼んでくれ」


でも、首席騎士様がホッとしたような顔をしてくれたから、もうそれでいい気がしてきた。リックはさすがに砕け過ぎで呼べる気がしない。なんせ首席騎士様はお貴族様だもの。

ここは無難に。


「じゃあ、リカルド様って呼びますね。あたしのことはユーリンって呼んでください」

「わかった。ありがとう、ユーリン」


表情はさほど動かないものの、それでも首席騎士様……じゃない、リカルド様は丁寧にお礼を言ってくれる。お貴族様だっていうのに、やっぱり不思議と腰が低くていい人だ。

あたしじゃ大したことはできないけれど、この演習の間で少しは役に立って仲良くなれるといいのにな。
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