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ところでその実、どうなんだ?

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いやいや、おっさん達、ゆずに肩入れしすぎだから。アイツ、超ご機嫌で採取に繰り出してったんだからな? 今めっちゃ狼狽えてるのは、むしろ俺だから!

そうは思ったものの、もちろん口には出せない。それ言ったら多分、俺はスマキにされるからだ。


「まぁまぁ、待て待て」


急にプラグ王子が場を納めにかかった。相手が王子だからだろうか、非難轟々だったおっさんどもも、急に鉾を収める。やっぱりアレか、長いものには巻かれろってことか。


「肝心の君の気持ちを聞いていなかった。君がゆずちゃんを嫌いなら、無理強いはよくないよな」


ニッコリとプラグ王子が微笑む。

急に常識的なこと言い出しやがって、逆に怖い。


「嫌いなら一緒には暮らしてねえよ。ただアイツは、ガキの頃からの幼馴染で、そんな風に考えたことも無かったっていうか」


もはやガキの頃の面影なんか、皆無だけどな。


「うんうん、それで」

「それでって」

「アホだな、君は。今考えればいいだろう。幼馴染といえど、今となっては立派なレディだ。可愛いとか、他の男に取られたくないとか、そういう思いがあるんじゃないのか?」


プラグ王子のご高説に、囃すような口笛やら指笛やらが飛びまくる。

このやろう、そこまで俺を追い詰める気なら、こっちだって奥の手を出してやる。こちとらお前が幼馴染のミリーちゃんに惚れてること、お見通しなんだからな!

今頃はまさに食堂の看板娘と小国でも一国の王子だからって、身分差に悩んでる最中だろう、そうだろう!

お前のその言葉、そっくりそのまま返してやるわ!つーかそのウジウジした迷いに、この手で引導を渡してくれるわ!


「お、お前だってミリーちゃんのこと、好きなんじゃないのか!?」

「あれ? よく知ってたね。そうそう、実は僕もちょっと前まで悩んでいたんだ。幼馴染って厄介だよね。でも考えに考えて、ミリーのこと本当に大切だって分かったから。これは恋愛の先輩からのアドバイスだと思ってよ」


あああ~~~ちくしょう! 既に乗り越えてやがった! これじゃあ逆効果じゃねえか。

内心悶絶する俺に、プラグ王子はニッコリと笑いかけてくる。


「まぁ、君もゆっくりと考えてごらんよ。幸いこの村のみんなは、ゆずちゃんの健気な気持ちを知っているからね。多分君が答えを出すまでは、ヤキモキしながらも見守ってくれるだろう」


いやいやいや、王子サマ……後ろのおっさん達、めっちゃ殺気立ってるから!


「皆さんももうしばらく、この腰抜けが覚悟を決めるまで待ってやってくださいね。ゆずちゃんは待つつもりみたいだから、彼女の気持ちを尊重しましょう」

「そうだな。ゆずちゃんに感謝しろよ」


プラグ王子とアデラールが念押ししてくれたからか、ようやくおっさん達が「しょうがねえなあ」と、その包囲網を解いてくれた。強大な圧がなくなって、俺はようやっと大きく息をつく。


ゆずによって追い詰められたというのに、ゆずに感謝しろとは皮肉なモンだ。

もはやこの村に、俺の安息の場所はないのか。
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