ゼロのダンジョン、進化中!

真弓りの

文字の大きさ
11 / 26
ヘタレマスターに召喚されたんだが

それぞれの役割

しおりを挟む
魔法の基礎は反復練習だ。

体内を巡る魔力を一カ所に集め、放出する。まずはそれが出来ないと、どんな魔法も使えない。

ルリはさっきのスライムにその基礎を教えているらしい。真剣に話しているルリの前で、始終スライムはプルプルしつつ、時々飛び跳ねて見せている。あの動きはなんなんだろうな。


「わかった? じゃあ、出来るまでやめちゃダメよ?」


ついに説明が終わったのか、ルリがそう言い置いて、こちらに戻ってきた。思いのほか上機嫌だ。


「あのスライムちゃん、分かってんのか分かってないのか謎だけど、すごい頑張ってプルプルしてるわ~」


そう言ってくすくすと笑っている。ちょっと可愛くなってきたらしい。

そこに「マスター!!」「聞こえますかぁ~?」華やかな、可愛らしい声が響く。

モニターを見れば、地下一階のロビーから、シルキーちゃん達が手を振りながらぴょんぴょん飛んで「気付いてアピール」していた。

そんな巨乳で飛び跳ねたら、目のやり場に困るんだが。

ほら見ろ、ゼロが真っ赤になってるじゃないか。うちのマスターはウブなんだ。ちと自重するように後で言っとかないとな……。

気を取り直し、ゼロが尋ねる。


「なに? どうかした?」

「カフェが整ってきました~! 料理も作ってみたのでぇ、味見がてらお昼にしませんかぁ~!?」


おお、それは楽しみだ。ぜひ行かねば!

出て来たのはカフェらしい軽食が多かった。家庭的な優しい味だが、盛り付けが色鮮やかで綺麗だ。ただの野菜サラダでも、器と盛り付け次第でオシャレに見える。俺達は褒めまくりながらデザートまで完食した。中でもアップルパイは絶品だ。甘すぎず、シナモンの香りが効いている。

ただ、ここは冒険者たちの訓練所になるわけだから、客になるのは駆け出しとは言え冒険者が圧倒的に多い。ガッツリ食べたい彼らからすると、量もメニューも物足りないだろう。

エルフやシルキー達とは食う量がそもそも違うしな。一品あたりの量を増やし、ステーキなどの肉料理をメニューに増やすようにアドバイスする。

元気のいいシルキーの中では、大人しくて目立たない水色の髪の子が、真剣な顔でメモをとっていた。

あまりに真剣な様子を不思議に思って見ていると、さっきモニターの向こうでブンブン手をふっていた、オレンジ色の髪のシルキーが、元気良く話しかけてきた。


「料理はあの子がほとんど考えたんですよ! デザート系は桜色の髪の子。皆得意なとこを活かして、助けあってやってます!」



彼女は一人一人の得意な事を、嬉しそうに説明する。きっと彼女がまとめ役になっているのだろう。一通り説明し終わると、彼女はゼロに向き直った。


「それでマスターにお願いがあるんです。エルフさんたちとも話したんですけど、私たちにも名前を付けてくれませんか?」


人数が多いから互いを呼び合うのにも困るし、お客様から聞かれた時にはもっと困る……言われてみればその通りだ。受付やカフェなら死ぬような事もなさそうだし、いいんじゃないか?

ゼロも同意見らしく、珍しくあっさりと名前をつけた。

8人のシルキーたちは、桜、若葉、ひまわり、オレンジ、いちご、桃、桔梗、紫陽花。髪色で覚え易いように決めたんだろう。

まとめ役はオレンジ、だな。覚えた。

彼女たちは、互いに名前を呼び合っては笑い合う。とても楽しそうだ。たかが半日で、強固なチームワークが出来あがっている。


「うん、やっぱりこのフロアは、シルキーたちに任せて大丈夫みたいだね!」


満足な様子で頷くと、ゼロはエルフたちを連れて、ご褒美ルームへ移動した。

ご褒美ルームは今はまだ、洞窟のようなだだっ広い空間に、大きな回復の温泉と、聖なる泉があるだけの、素っ気ない空間だ。まぁ、スライムが2匹隠れてはいるが。

ゼロはそこに、温泉を中心にしたエルフ達の故郷のような森と、花が咲き乱れる草原を造りあげた。もちろんダンジョンの中だから、上を見るとむき出しの岩肌で違和感は拭えないが。

それでも冒険者からすると、薄暗いダンジョンを歩き回り、自分のレベルからすると強敵であるボスを倒すと、この美しい草原に来るわけだ。

なかなかの空間だろう。


エルフ達も嬉しそうに顔をほころばせている。シルキーちゃんたちのようにはしゃぐのではなく、穏やかに笑い合っているのが印象的だ。

美形揃いの彼らには、ダンジョンをクリアした冒険者へのプレゼンターを任せる予定だが、ゼロには他にも考えがあるみたいだ。


「皆はエルフだから、基本的には弓と魔法が得意なんだよね? どんな魔法が得意だとか、他の戦闘スキルもあるとか、教えてくれない?」


ゼロの問いかけに、長身で俺よりも濃いめの銀髪の男が口火を切る。


「私は風属性の魔法が得意だ。戦闘系のスキルは弓も含めあまり得意じゃないな」

うん、いかにもインテリタイプだ。彼はエアルと名付けられた。


「オレ、ナイフ得意だよ! オレは魔法のほうがキライだな~」

やんちゃそうな短髪巻き毛の男はエッジ。


「俺は弓が一番得意かな。あとは投具ならなんでも。的を狙う系が得意だね」

やや長めのサラサラヘアに爽やかな笑顔の男はダーツ。


ゼロはうんうんと頷きながら、熱心に特技を聞いてはそれにそった名付けをしている。

プレゼンターになんで特技が必要なのか、俺にはいまひとつ分かりかねるが、この様子ならゼロ的にまぁ満足出来る内容なんだろう。次は女性陣の聞き取りだ。


「わたくし、回復魔法と水属性の魔法が得意ですわ」

おお! エルフの初期レベルで2系統いけるのは頼もしい。淡い水色の長髪が美しい彼女は、ミズキと名付けられた。


「あたしは剣の方がいいな。魔法は肉体強化しか知らない。エルフでは珍しく肉弾戦タイプ!」

ポニーテールの胸までスレンダーな元気娘はヤイバ。


「わ、私、木属性魔法で……補助系が、得意です……」

会った頃のゼロばりに挙動不審なおどおど娘はコノハ。肩までのふわふわヘアに堂々の巨乳だ。


「良かった、結構バラけてるね。皆にはダンジョンクリアの副賞として、冒険者の1日家庭教師をして貰いたいんだよね」


ゼロの言葉に、エルフ達は唖然としている。そんなの、俺でも驚くわ。

冒険者と戦うもんだと思って召喚されたら、戦うんじゃなくてプレゼントをあげるんだと言われたあげく家庭教師とくれば、そりゃ驚かないほうがおかしい。


「それで皆には、教え方のプロ! ハイエルフのルリから教え方をレクチャーして貰います!」


ええっ!? と驚いているのはもちろんルリだ。初耳だろう。俺も驚いた。


「あっ、戦闘系スキルの人はハクが先生ね。まずは先生から教え方のOKを貰ったら、僕のとこに来てね。で、僕に教えてみて、僕がそのスキルを習得できたら合格!」


ムチャ振り過ぎだろう! 俺、そもそも他人に何か教えた事ないし!

それにゼロが習得できたらって、なにその合格基準。

そもそも人には向き不向きがあってだな……言っちゃ悪いがゼロ……おまえ、正直言って戦闘系スキル、できそうなイメージ一切ないぞ?

難易度高くないか!?


俺たちの困惑を一切気にもとめず、じゃあ頑張ってねと言いおいて、ゼロはユキを連れてご褒美ルームを出ていってしまった。

残されたルリと俺は、途方に暮れてお互いに顔を見合わせる。まぁでも、やるしかないのか……?

つーか、家庭教師が出来るように教えるって……。

戸惑い気味の俺達とは対照的に、エルフたちはやる気まんまんだ。彼らも早くマスターであるゼロに認められたいんだろう。その日俺たちは、深夜までエルフたちの特訓に付き合わされた。


クタクタに疲れてマスタールームに戻ると、ゼロが満面の笑顔で出迎えてくれる。


「お疲れさま!どう?いい感じ?」

「どうもこうもないわよ~! あの子たち、ムダに張り切っちゃって。こっちがもう大丈夫って言っても全然聞かないのよ~!」


そう。ゼロの前で恥をかきたくないのか、彼らは自分たちでハードルをかなり高くあげていた。俺たちはそれに付き合わされていたわけだ。


「そっか、皆頑張ってくれたんだね! 明日が楽しみだな」


腹ペコの俺たちに食事を用意しながら、ゼロは本当に嬉しそうに笑っている。


「今日ね、僕も頑張ったよ? 二人がいない間にカエンに稽古付けて貰ったし」


カエンが「よう」と腕をあげ、俺と目が合うと何かをポイと投げてきた。もちろん難なく受け止めはしたが。

なんなんだよ急に、危ねえなもう。

って思ったらコレ、ダンジョンコアじゃねえか! こんな大事なモン、投げんじゃねぇよ!

文句を言おうと思ったら、カエンは俺の腕の中のダンジョンコアをビシッと指さしてこう言った。


「ハク、お前メシ食う間、それ大事に抱えてな」


意味がわからない。

カエンのニヤニヤ顔を見て、俺はゲンナリした。こんな顔をしている時は要注意だ、ろくな事がない。


「いや、出来るだけ……そうだな、寝る時も肌身離さずだ。コアはこの部屋から出せねえだろうから、お前今日からこの部屋でコア抱いて寝な」

「なんでだよ!!」


意味不明な話にさすがにキレた俺に、ゼロが事情を説明してくれた。


「確かにその方がいいかも。あのね、ダンジョンコアに属性をつけたいんだ」


なんでも俺たちを待っている間に、カエンとゼロの二人でダンジョンをもっと強化出来る方法がないかと検討していたら、面白い方法を見つけたらしい。

コアに属性をつける事でダンジョン自体にも属性がつき、さらにコア自体にも特殊能力がつくんだと。確かにそれはまぁ、興味をそそられはするが。


「そんで、どうすれば属性がつくかコアに聞いたら、何かの属性を吸収し続けて、一定量を超したらって言うじゃねえか」

「もう、やってみたくて!」


ああ……またゼロの目が生き生きしてる。これは多分もう止められない。俺はため息と共に、ダンジョンコアを母鳥レベルで抱き続ける覚悟をした。


「ダンジョンコアをマスタールームから出すのは危険過ぎるからな、この部屋だけにしろよ。あとハクは、魔力に余裕がある時はコアに注いどけ」


言うだけ言うと、カエンはおもむろに席を立つ。今日はシゴキはなしかとほっとしていたら、カエンはなぜか俺に近づいてきて、肩をポンと叩いて顔を寄せる。

耳元で囁かれた言葉にぞっとする。


「信用してくれるのは嬉しいが、マスターひとりにすんなよ。ゼロなんざオレ様が本気出しゃ瞬殺だぜ?」


そのままカエンはその場からフッと姿を消した。オレは、カエンが消えた空間を見つめて呆然と立ち尽くす。

……本当に、カエンの言う通りだ。

自分の迂闊さを呪いながら、俺は二度とゼロの側を離れるまい、と誓った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...