仔狐さくら、九尾を目指す

真弓りの

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ねえ、どうしたら元気が出るの……。

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もう! 信じらんない、聡ったらバカなんじゃないの!?

なに部屋中盛大にべたべただらけにしてくれちゃってるのよ。ただでさえ体調悪い雅人おにーさんに余計なお仕事増やさないでちょうだい!

プリプリ怒ってはみたものの、雅人おにーさんがあんまり真剣な顔でまだダラダラとこぼれているコーラを見つめてるから、あたし、だんだん心配になってきたの。

ねえ、雅人おにーさん、大丈夫……?

ちょっとでも元気を出して欲しくて足元にスリ……とすり寄ったら、ハッとしたように雅人おにーさんはあたしの頭をなでてくれた。


「なあ聡、このコーラみたいな感じって、どういう意味だ?」


まだ不安そうな顔で、雅人おにーさんが聡に尋ねる。聡はうーんと唸ってから口を開いた。


「お前さ、霊力の出力調節とか習っただろ?」

「うん」


聡に言われるまでもなく、百合香おばーちゃん酷いって思うくらい、雅人おにーさんはしごかれてたよ?


「今はその調節が完全にバカになってるらしい」

「え、嘘!」

「マジで。ちょっと霊力絞ってみ」


すぐさま雅人おにーさんがやってみようとするけれど。

ああ、なんてことなの。

本当ね。本当ね、聡。本当にあのダラダラと泡がこぼれるコーラみたい。

何度も何度もチャレンジしてる雅人おにーさんの顔がどんどん青くなってくるの。そうよね、だって霊力が絞られもしなければ大きくもならないんだもの。

あんなに百合香おばーちゃんに毎日毎日ギリッギリに鍛えられてやっと身に着けたのに、それが全然できなくなってるだなんて。


「嘘だろ……ひとっつも、調節、できない……」


呆然と呟いて、コーラのせいでべったべたの床に力なく座り込む雅人おにーさんは、とっても悲しそうに見えた。これまたべったべたのテーブルに肘をついて、そのままその腕で頭を抱えてしまう。

可哀想で。

だってこんなに落ち込んだ雅人おにーさんなんて、見たことがないんだもの。さっきまでよりも、ずっとずっと悲しそう。

どうしよう。

ねえ、どうしたら元気が出るの……。

あたしまで悲しくなって、雅人おにーさんの胡坐の中にまあるくなる。すこしでも、雅人おにーさんの傍に居たかった。

だって、怖い時、悲しい時、ママがくっついてくれてたら、あたしなんだか幸せな気持ちになったんだもの。

雅人おにーさんも、そんな風に幸せな気持ちになってくれればいいのに。

聡まで慰めるみたいに雅人おにーさんの肩をポンポンと優しく叩いていた。


「分かっただろ? 壊れた蛇口っほど盛大に霊気を垂れ流してるわけじゃねぇけどさ、今のお前はダラダラ霊気が漏れ出すし、調節どころか止めることも出来ねぇの」

「……これ、仕事が回せるなんてレベルじゃないよな」

「普通に歩ってて厄介な霊に絡まれるレベルだってさ。大学にいる間は俺ができるだけ一緒にいるからさ、お前あんまり外とか出歩くなよ」
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