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第一章 A・B・C・D
A雄の涙
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自分のお腹にいる子は実はB子の子どもではなく、C子の子どもではないか。
その可能性にA雄が気づいたのは、C子と音信不通になってから1週間後だった。C子との性交渉の際、自分でコンドームに穴をあけていたのをすっかり忘れていた。
「ごめんなさい、お腹の子はB子の子どもじゃないかもしれない。」
そうB子に告白したとき、彼女は「はあ?」と目を見開いてA雄に詰め寄った。
「それって、他の女と避妊しないでセックスしてたってこと?」
「うん……」
A雄は全て話した。半年前からB子と同時進行でC子と付き合うようになり、C子のほうが好きになったこと、C子の子どもならば生みたいこと、など。
「C子も妊娠してたから、C子のお腹の子が僕の子どもだと思っていたけど、もしかしたらC子のほうは別の男の子どもの可能性もある。中絶費用だけ請求されて、C子と連絡が取れなくなっちゃったんだ。」
B子は怒った。
「何で私の子なら生みたくないのに、そのクソ女の子なら生みたいのよ。わけわかんない!」
「だってさ、C子も浮気してたとしたら、僕に本当のことは言えなかったと思うんだ。でも、ちょっとくらいの浮気なら許そうと思ってたし。」
「バカ、もしC子が別の男の子を妊娠してたとしたら、その男とも子どもができるようなセックスしてるんだよ? あんた、遊ばれてたんだ。」
A雄は頭を下げた。
「それで、申し訳ないんだけど、B子の細胞をください。」
「どういうこと? DNA鑑定するの??」
「うん、やっぱりどっちの子なのかはっきりさせないと。」
「分かった。それは私も明確にしたい。」
B子は了承した。A雄はまた深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけします。結果を見て今後のことをよく考えたいと思います。」
ある日、二人は病院へ行き、A雄は採血され、B子は口腔内の細胞を採取された。
「結果が出るのは2週間後ですので、2週間後にまたお越しください。」
そう病院スタッフに言われ、二人は病院を後にした。
その夜、B子は悩んだ。今まで、A雄のお腹の子どもが自分の子どもだと信じ切っていたので、A雄を説得して結婚しようと考えていた。しかし、お腹の子が全く知らない女の子どもだとすると少々話は違う。
ただ、お腹の子どもに罪はない。B子がおろせと言うのは違う気がする。A雄にはシングルファーザーになる覚悟があるのだろうか? どうもその覚悟はないようだ。A雄はまだどこかで相手の女に期待しているようだ。バカなA雄。女が一旦嫌いになったら、もう復縁できる可能性はゼロに近いのに。
2週間後、二人は再び病院へ行った。こころなしか病院スタッフが気まずそうな顔をして書類をA雄に手渡した。
「これが結果になりますが、医師の説明を聞いていかれますか?」
聞かなくても分かった。書類の一枚目に大きくゼロと書いてあるからだ。しかし、二人は念の為、医師の説明を受けることにした。
小部屋に通された二人は、医師からこう告げられた。
「あー、もう分かってると思うが、A雄さんのお腹の子は完全にB子さんとは別の女性の子だ。」
A雄は医師をまっすぐ見ていた。B子は「やっぱり。」と言って肩を落としている。
「B子さんのDNAには、この部分に特徴があるんだが、お腹の子どもにはその特徴が全くない。」
医師は図で説明を始めたが、B子は全く頭に入らなかった。一方でA雄は真面目に頷きながら医師の説明を受けていた。
医師は最後にこう締めくくった。
「まあ、これから二人で色々話すことはあるだろうが、せっかく授かった命だ。どうかだいじにして欲しい。」
病院を出た二人は、近くのカフェに入った。A雄はオレンジジュースを、B子はコーヒーを頼んだ。
「これからどうするの?」
B子はまっすぐA雄を見つめて言った。
「産むよ! 先生もああ言ってるし。」
「けどさ、そのC子って女と連絡ついたの?」
A雄は大きく首を横に振った。
「全然。だけど、C子の実家も知ってるし、お父さんやお母さんに会いに行こうと思うんだ。」
B子は頭を抱えた。
「お父さんやお母さんは当事者じゃないでしょう? まずC子がどうしたいか、よ。そして、C子と連絡がつかない、それが全てでしょ!」
A雄は項垂れた。
「でも。C子だって僕がC子の子どもを妊娠したと聞いたら気が変わるかもしれないし。」
「分かった、一度その内容のメールをC子に送ってみなさいよ! それで返事がないなら諦めなさい。」
「うん、そうする。」
A雄は帰宅すると、次のようなメールをC子に送った。
「C子さん
実は、僕はC子さんの子どもを妊娠したようです。病院で調べてもらって、それは確実になりました。もし、C子さんが浮気をしていて他の男の子どもを妊娠していたのならば、そのことは僕は許すつもりです。だから、僕と結婚しませんか? とにかく一度話がしたいです。返事ください。
A雄」
しかし、1週間経っても2週間経っても、C子からの返信はなかった。
そのうちにB子から電話があった。
「どう? C子から連絡はあった??」
「ないよ、どうしよう。」
B子は言った。
「ねえ、もうこの際、誰の子でもいいから、結婚しない?」
「え?」
A雄は驚いた。
「B子の子どもじゃないんだよ? それでもいいの??」
「私の子どもじゃないかもしれないけど、A雄の子どもであることは間違いないでしょ? それなら私、やっていける気がする。」
「B子、君って人は……」
A雄は電話の向こうで泣いていた。
その後、二人は双方の実家に挨拶に行った。もちろん、お腹の子どもがB子の実子ではないことは内緒だ。A雄の両親は予想通り少し渋い顔をしていたが、B子の実家は歓迎ムードだった。
「いやー、うちのB子は29にもなって仕事一辺倒で、結婚できるかどうか心配していたが、ついに彼氏が子どもを授かったか。」
これは父親のコメント。
「B子はますます仕事を頑張らないとね! 私もお父さんが妊娠したとき、子どものためにがむしゃらに働いたものだわ。」
これは母親のコメントだ。
「B子のお父さんとお母さん、本当にいい人たちだね。これなら僕、うまくやっていけそう。」
A雄はB子に言った。
「そうそう、うちのお父さんは先輩妊夫なんだから、困ったことがあれば何でも聞けばいいのよ。」
そのB子の発言を聞いたB子の父親は言った。
「B子の言うようにしなさい。A雄くん、案ずるより産むが易し、と言うぞ。腹かっさばくなんてどうってことない。アッハッハッハッハッ!」
A雄は感涙を流した。
二人はA雄が安定期に入ってから、両家親族だけを招いたこじんまりとした結婚式を挙げた。
「お腹の大きな新郎さんなのね。」
B子の親族の中にはそんな陰口を叩く者もいたが、基本的に式は終始和やかなムードであった。
「赤ちゃん生まれたら、私おばさんとして可愛がっちゃうんだろうなあ。」
A雄の妹は兄のお腹を見て言った。A雄のマタニティタキシードは腹がパツンパツンである。B子の姉の息子はA雄のお腹を撫でた。
「ここに赤ちゃんがいるんだねー。」
「そうだよ。あとちょっとしたら生まれるよ。」
A雄はにこやかに対応した。
正直なところ、当初A雄はC子のことを忘れてB子と結婚生活を送ることができるのか不安があったが、両家親族のほとんどは優しくしてくれ(A雄の母親だけはどうも納得していないようだったが)、またB子の寛大さ、強さもあって、大丈夫な気がしたのだった。
「B子、これから家族三人で頑張って行こうね!」
A雄がそう言うとB子は、「何を今更!」と笑った。
その可能性にA雄が気づいたのは、C子と音信不通になってから1週間後だった。C子との性交渉の際、自分でコンドームに穴をあけていたのをすっかり忘れていた。
「ごめんなさい、お腹の子はB子の子どもじゃないかもしれない。」
そうB子に告白したとき、彼女は「はあ?」と目を見開いてA雄に詰め寄った。
「それって、他の女と避妊しないでセックスしてたってこと?」
「うん……」
A雄は全て話した。半年前からB子と同時進行でC子と付き合うようになり、C子のほうが好きになったこと、C子の子どもならば生みたいこと、など。
「C子も妊娠してたから、C子のお腹の子が僕の子どもだと思っていたけど、もしかしたらC子のほうは別の男の子どもの可能性もある。中絶費用だけ請求されて、C子と連絡が取れなくなっちゃったんだ。」
B子は怒った。
「何で私の子なら生みたくないのに、そのクソ女の子なら生みたいのよ。わけわかんない!」
「だってさ、C子も浮気してたとしたら、僕に本当のことは言えなかったと思うんだ。でも、ちょっとくらいの浮気なら許そうと思ってたし。」
「バカ、もしC子が別の男の子を妊娠してたとしたら、その男とも子どもができるようなセックスしてるんだよ? あんた、遊ばれてたんだ。」
A雄は頭を下げた。
「それで、申し訳ないんだけど、B子の細胞をください。」
「どういうこと? DNA鑑定するの??」
「うん、やっぱりどっちの子なのかはっきりさせないと。」
「分かった。それは私も明確にしたい。」
B子は了承した。A雄はまた深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけします。結果を見て今後のことをよく考えたいと思います。」
ある日、二人は病院へ行き、A雄は採血され、B子は口腔内の細胞を採取された。
「結果が出るのは2週間後ですので、2週間後にまたお越しください。」
そう病院スタッフに言われ、二人は病院を後にした。
その夜、B子は悩んだ。今まで、A雄のお腹の子どもが自分の子どもだと信じ切っていたので、A雄を説得して結婚しようと考えていた。しかし、お腹の子が全く知らない女の子どもだとすると少々話は違う。
ただ、お腹の子どもに罪はない。B子がおろせと言うのは違う気がする。A雄にはシングルファーザーになる覚悟があるのだろうか? どうもその覚悟はないようだ。A雄はまだどこかで相手の女に期待しているようだ。バカなA雄。女が一旦嫌いになったら、もう復縁できる可能性はゼロに近いのに。
2週間後、二人は再び病院へ行った。こころなしか病院スタッフが気まずそうな顔をして書類をA雄に手渡した。
「これが結果になりますが、医師の説明を聞いていかれますか?」
聞かなくても分かった。書類の一枚目に大きくゼロと書いてあるからだ。しかし、二人は念の為、医師の説明を受けることにした。
小部屋に通された二人は、医師からこう告げられた。
「あー、もう分かってると思うが、A雄さんのお腹の子は完全にB子さんとは別の女性の子だ。」
A雄は医師をまっすぐ見ていた。B子は「やっぱり。」と言って肩を落としている。
「B子さんのDNAには、この部分に特徴があるんだが、お腹の子どもにはその特徴が全くない。」
医師は図で説明を始めたが、B子は全く頭に入らなかった。一方でA雄は真面目に頷きながら医師の説明を受けていた。
医師は最後にこう締めくくった。
「まあ、これから二人で色々話すことはあるだろうが、せっかく授かった命だ。どうかだいじにして欲しい。」
病院を出た二人は、近くのカフェに入った。A雄はオレンジジュースを、B子はコーヒーを頼んだ。
「これからどうするの?」
B子はまっすぐA雄を見つめて言った。
「産むよ! 先生もああ言ってるし。」
「けどさ、そのC子って女と連絡ついたの?」
A雄は大きく首を横に振った。
「全然。だけど、C子の実家も知ってるし、お父さんやお母さんに会いに行こうと思うんだ。」
B子は頭を抱えた。
「お父さんやお母さんは当事者じゃないでしょう? まずC子がどうしたいか、よ。そして、C子と連絡がつかない、それが全てでしょ!」
A雄は項垂れた。
「でも。C子だって僕がC子の子どもを妊娠したと聞いたら気が変わるかもしれないし。」
「分かった、一度その内容のメールをC子に送ってみなさいよ! それで返事がないなら諦めなさい。」
「うん、そうする。」
A雄は帰宅すると、次のようなメールをC子に送った。
「C子さん
実は、僕はC子さんの子どもを妊娠したようです。病院で調べてもらって、それは確実になりました。もし、C子さんが浮気をしていて他の男の子どもを妊娠していたのならば、そのことは僕は許すつもりです。だから、僕と結婚しませんか? とにかく一度話がしたいです。返事ください。
A雄」
しかし、1週間経っても2週間経っても、C子からの返信はなかった。
そのうちにB子から電話があった。
「どう? C子から連絡はあった??」
「ないよ、どうしよう。」
B子は言った。
「ねえ、もうこの際、誰の子でもいいから、結婚しない?」
「え?」
A雄は驚いた。
「B子の子どもじゃないんだよ? それでもいいの??」
「私の子どもじゃないかもしれないけど、A雄の子どもであることは間違いないでしょ? それなら私、やっていける気がする。」
「B子、君って人は……」
A雄は電話の向こうで泣いていた。
その後、二人は双方の実家に挨拶に行った。もちろん、お腹の子どもがB子の実子ではないことは内緒だ。A雄の両親は予想通り少し渋い顔をしていたが、B子の実家は歓迎ムードだった。
「いやー、うちのB子は29にもなって仕事一辺倒で、結婚できるかどうか心配していたが、ついに彼氏が子どもを授かったか。」
これは父親のコメント。
「B子はますます仕事を頑張らないとね! 私もお父さんが妊娠したとき、子どものためにがむしゃらに働いたものだわ。」
これは母親のコメントだ。
「B子のお父さんとお母さん、本当にいい人たちだね。これなら僕、うまくやっていけそう。」
A雄はB子に言った。
「そうそう、うちのお父さんは先輩妊夫なんだから、困ったことがあれば何でも聞けばいいのよ。」
そのB子の発言を聞いたB子の父親は言った。
「B子の言うようにしなさい。A雄くん、案ずるより産むが易し、と言うぞ。腹かっさばくなんてどうってことない。アッハッハッハッハッ!」
A雄は感涙を流した。
二人はA雄が安定期に入ってから、両家親族だけを招いたこじんまりとした結婚式を挙げた。
「お腹の大きな新郎さんなのね。」
B子の親族の中にはそんな陰口を叩く者もいたが、基本的に式は終始和やかなムードであった。
「赤ちゃん生まれたら、私おばさんとして可愛がっちゃうんだろうなあ。」
A雄の妹は兄のお腹を見て言った。A雄のマタニティタキシードは腹がパツンパツンである。B子の姉の息子はA雄のお腹を撫でた。
「ここに赤ちゃんがいるんだねー。」
「そうだよ。あとちょっとしたら生まれるよ。」
A雄はにこやかに対応した。
正直なところ、当初A雄はC子のことを忘れてB子と結婚生活を送ることができるのか不安があったが、両家親族のほとんどは優しくしてくれ(A雄の母親だけはどうも納得していないようだったが)、またB子の寛大さ、強さもあって、大丈夫な気がしたのだった。
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