男の妊娠。

ユンボイナ

文字の大きさ
1 / 47
第一章 A・B・C・D

男女四人のあれこれ

しおりを挟む
 2323年ころ、「真の男女平等を!」とのフェミニストの願いがついに叶った。政府がこっそり日本人の品種改良を続けた結果、男女50パーセントずつの確率で妊娠するようになったのだ。
 つまり、従来、出産は女性の役割とされてきたが、2050年ころから突然変異で男性の中で妊娠・出産する者が現れ、270年ほど経つとその確率が女性と同じになった。妊娠・出産する男性の遺伝子を、政府が全国の産科病院を通じて内密に赤ちゃんに組み込んだ結果である。

 なぜ日本政府がそのようなことをしたか。それは望まない妊娠や中絶の件数を減らし、また性犯罪を減らすためであると言われている。事実、男性も妊娠する可能性があるということで、男性が性交渉に慎重になったため、効果はそれなりにあった。
 なお、どういうメカニズムで精子と卵子が男性の体内で結合するかは謎のままだが、男性が妊娠すると赤ちゃんを外に出す穴がないため、男性の出産は常に帝王切開となる。

 さて、ここに一組の男女カップルがいた。A雄とB子である。
「なんか僕、吐き気がするんだけど。」
「ただの食べ過ぎじゃなくて? 一応妊娠検査薬買ってみる??」
A雄には大いに心当たりがあった。一か月ほど前、夏祭りに行った後に酒を飲んで盛り上がり、避妊するのも忘れてB子と妊娠するようなことをしてしまったのだ。
「つわりかも。もし妊娠してたらどうしよう。」
A雄は泣きそうな顔をしてB子を見つめた。
「そのときは産んでよ。結婚しましょう!」
B子はA雄に言った。しかし、A雄は浮かない顔をした。
「僕まだ24歳だよ? お腹切るなんて嫌だ!」
B子は呆れた顔をした。
「男が痛みに弱いのは昔からっていうけど、ほんとうなのね。大丈夫、麻酔かけて切るんだし、ちゃんとくっつくんだから!」
「けど、麻酔の切れた後が痛いって聞くよ。お父さんも妹を産んだ時にすごく痛かったって。」
A雄は母親から生まれたが、その妹は父親から生まれたのだった。
「まあ、いずれにせよ、今から薬局で妊娠検査薬買ってくるわね。」

 B子は自宅マンションを出ると、歩いてすぐのところにある薬局へ行った。
「すみません、妊娠検査薬ありますか?」
薬局のおばさんはニコニコ顔をしている。
「一回分入ってるのと、二回分入ってるのがあるけど、どっちがいいかしら?」
「一回分でいいです!」
おばさんは棚からピンク色の箱を取り出してB子に手渡した。
「はい、700円ね。」
B子は電子マネーで代金を支払うと、紙袋に入れてもらった妊娠検査薬を持って自宅に戻った。
「ほら、これ。説明書よく読んで使ってね。」
B子は紙袋をA雄に渡した。

 「ほんとに妊娠してたらどうしよう。」
A雄がなおグズグズ言っているので、B子は怒った。
「うるさい、なるようにしかならないでしょ! さっさと検査してきなさい。」
ちなみに、この時代の妊娠検査薬も、採尿部に尿をかけるものである。その辺はまだ進歩していないのだ。A雄は検査薬を持って渋々トイレに行った。

 A雄がトイレから5分経っても10分経っても出て来ないので、心配したB子はトイレのドアをノックした。
「A雄、結果は出た?」
呼びかけにも応答しない。B子が耳を澄ませると、すすり泣くような声が聞こえた。やっぱり。
「妊娠してたんだ?」
B子が問いかけると、すすり泣きが号泣に変わった。
 しばらくして、トイレから出てきたA雄をB子が慰めた。
「大丈夫だよ、まずは病院に行って診てもらおうよ。父子手帳もらったら、今度は二人でA雄のお父さんお母さんに挨拶しに行こう?」
「この時代にできちゃった婚なんて、お父さんお母さんになんて言われるか…」
A雄は渋っていた。そしてこう言った。
「今回はごめん、おろさせてほしいんだ!」
B子はびっくりしていた。
「何で? せっかく私たちのところに赤ちゃんが来てくれたんだよ。産んでよ、ねぇ。」
A雄はB子に向かって両手を合わせて頭を下げた。
「ほんとにごめん、まだ産む心の準備ができないよ。」
「何言ってるの、本当は私と結婚するのが嫌なんでしょう?」
B子が叫んだとき、A雄の携帯電話が鳴った。
「ちょっと電話に出てくるね。」
A雄は走って部屋の外に出た。

 「もしもし。」
「もしもし、C子だけど。」
C子はA雄がB子と同時に付き合っている女性だ。実はA雄にとってはC子のほうが本命だった。
「私、妊娠したみたい。」
「え、マジで?」
A雄は言葉とは裏腹に喜んでいた。
「責任取るよ、結婚しよう。」
しかし、C子はあまり嬉しくなさそうだった。
「えーと、私、今結婚するのは不安なのね。まだA雄くんって給料少ないみたいだし、私も学生だし。」
「大丈夫だよ、バイト掛け持ちしてでも稼いでくるよ。」
「ごめんなさい、今回は中絶費用だけ出してもらっていいかな?」
「そんな!」
「お願い、学生の身でお父さんやお母さんにも言えないし、お金もないし、中絶費用だけ出してよ。出してくれないなら別れる。」
「それは困る。明日にでも話し合おう?」
「中絶は私が決めたことなの。後で口座をメールするから、そこに30万円振り込んでね?」
 電話は切れた。A雄としては、何としてもC子を説得して、結婚にこぎつけたい。一方、B子とは別れるつもりだ。もっともその前にA雄は自分が中絶しなくてはいけなかった。

 その頃、C子はため息をついていた。昨日、彼氏のD夫(30)にはこう言われた。
「ねぇ、君と僕、同時に妊娠するってことは、どっちかが浮気してるってことだよね? そして僕は浮気なんかしていない。ってことは君が浮気したんじゃないか。」
C子は否定しなかった。どうせDNA検査をすればバレてしまうからだ。
 経緯としては、うっかりD夫に妊娠報告をしたところ、D夫から、「僕も妊娠したんだけど。」と告げられ、修羅場になったのだった。
 C子はさんざんD夫に責められたが、D夫が「僕は何があっても君の子どもを産む!」と言い張ったため、C子は自身の堕胎とD夫との結婚を決意したのだった。
「私、責任とって結婚するよ。」
C子が言うと、D夫は微笑みながら言った。
「ありがとう。でも君の妊娠は僕の責任じゃないから、堕胎費用は浮気相手に請求してくれ。」

 半年後、D夫のお腹はかなり大きくなった。C子は何とかうまくA雄から30万円を巻き上げて中絶し、音信不通にした。その上でD夫と入籍した。
「ねぇ、お腹の子は女の子だよ。君にそっくりな子が生まれるといいな。」
D夫はそろそろ産休に入るというので、C子は大学を休学してアルバイトに出るようになった。
「Cちゃん、僕のために本当にごめんね。」
そうD夫は言ったが、申し訳なさそうではない。もちろん、半年前にC子が浮気して妊娠までしていたということがあるからだ。C子は、「どうってことないよ。」と言いつつも、ハタチやそこらで彼氏を妊娠させて結婚せざるを得なくなった自分の身を憂えていた。
 C子は回想する。あのとき、D夫は毎回コンドームを付けていたはずだ。ということは、コンドームに穴をあけられていたのか。そこまでして自分と結婚したかったD夫の執念を思うと気分が悪くなる。事実、D夫が毎日何十通ものメールをよこし、夜は長電話をかけてくるのにうんざりして、A雄と浮気していたのだ。
 A雄もちょっとメソメソしたところがあり、またまだC子が学生だということもあって、C子は毎回性交渉の際にはA雄に避妊するよう頼んでいた。なのにC子は妊娠した。ということは、A雄もコンドームに穴をあけていたのか。どっちの男も最低だ。
「私のこれからの人生、しつこいD夫と子どもに捧げなきゃいけないのか……」
C子は暗くなってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...