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第三章 生まれた子どもたちの行方~その一
育児放棄⑴
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D夫は実家に戻っていた。現在、F実はほとんど母U子が仕事を辞めて面倒を見ている。D夫は結局会社には育休明けに復帰したため、今も勤務している。
C子とは調停離婚することになった。もちろん、理由は「子どもであるF実がC子の子どもでないこと」だった。D夫は「私的なDNA検査だから間違えている」と主張したが、再度調停内でDNA鑑定を実施したところ、やはりF実とC子の母子関係はほぼゼロだということだった。調停の中で、F実はC子の子ではないこと以外に、C子とD夫は離婚をすること、慰謝料・財産分与などはゼロとすることが決まった。
さて、F実の母親について、D夫は当時の自分の行動を振り返ったが、一つだけ思い当たる節があった。それは、会社の慰安旅行に行った際、同性の同僚に連れられて深夜に現地のソープランドに繰り出したときだ。あの店は確かにNS(ノースキン)店だった。
D夫はその同僚に、会社の昼休みに尋ねた。
「君は妊娠してないよな。」
「してないよ。何で?」
D夫は、F実が妻のC子の子どもではないこと、他に心当たりがあるとすればそのソープランドの女性しかないことを話した。
「あー、でもNSの子もさすがにピルは服用してると思うんだ。妊娠したりさせたりしたら嫌でしょ?」
D夫は首を傾げた。
「ピルって何だ?」
「馬鹿、避妊薬だよ。そんなことも知らないのか! 俺は念のためのんで行ったよ。」
24世紀では男性用ピルも市販されていた。もっとも、一部のピルでは連続服用の副作用で長期間精子が形成されなくなるといったケースも発生し、男性側の評判はイマイチだ。ただ、風俗通いをする男性の中では必需品となっており、D夫も存在については知っている。
「女の人用のピルもあるんだなあ。」
同僚は笑った。
「歴史的にはそっちの方が先だ!」
「じゃあ、もう一つ、恥を忍んで聞いていい?」
D夫は尋ねた。
「生でやっても外に出せば妊娠しないはずだよね?」
同僚は呆れ顔になった。
「お前は本当に馬鹿だな。外出しで妊娠が完全に防げるはずないじゃないか!」
24世紀だというのに、D夫の避妊知識は大昔のところでストップしていたのだった。
「何だ、じゃあ完全にあの風俗嬢がピルをのんでなかったせいだ!」
早速D夫はソープランドにクレームの電話を入れた。
「お宅の風俗嬢のせいで妊娠して子どもが生まれた!」
「兄さん、どうしたんですか? うちは自由恋愛ですからなあ。」
D夫は声のボリュームを上げる。
「店には責任がないということですか?!」
「そらそうや、自由恋愛やもん。」
ソープランドの店員はこう言い放った。D夫はなおも責める。
「お宅に在籍しているVが原因なんですよ?」
「Vですか、その子、もう辞めましてん。」
「Vの本名とか住所とか、今の店とか……」
「個人情報は一切教えられまへん。」
店員はキッパリ言った。
「じゃあ、私に泣き寝入りしろと?!」
「泣き寝入り、て、あんたが避妊しとらんのが悪い。あんまりしつこいと業務妨害で警察に通報するど?」
電話はガチャリと切られた。
D夫は自分の知識不足が招いた事態であることは頭では理解していた。しかし、この腹立ちをどこへぶつけたらいいのか。会社から帰宅したD夫は、F実を見てU子に言った。
「ママ、F実は風俗嬢の子だ。可愛がる必要ないよ。」
「D夫ちゃん、それはどういうこと?」
D夫は二年ほど前に会社の旅行で、同僚と一緒にソープランドに行ったこと、その店がNS店だったことをU子に話した。
「んまあ、そんなところにD夫ちゃんを連れて行く同僚の人が悪いわよ。」
U子は眉間にシワを寄せて言った。そうだ、事前に避妊知識をレクチャーしないまま、自分をソープに連れて行ったあいつが悪い、とD夫は思った。しかし、そのまま同僚に文句を言ったところでバカにされるのがオチだろう。
「そんなことだから、僕はもうF実の顔を見たくないんだ。」
U子はさすがにこう言ってたしなめた。
「でも、生まれてきた子どもに罪はないわよ。半分はD夫ちゃんの遺伝子なんでしょう?」
「そう言われても、風俗嬢の子なんて嫌だよ。ママ、F実をどこか養子に出せないかな。」
「んまあっ、あれだけ可愛がってたのに……。」
D夫は、好きだったC子の子どもだからこそ、F実に愛情を注げたということが分かった。よく分からない風俗嬢の子では、顔も見たくなくなってしまったのだ。自分のミスで生まれてきた子だということもあるし、風俗嬢への差別意識も大いにあった。それらのことから、D夫はもうすっかりF実のことが嫌になったのだ。だからといって、F実をC子に押し付けることもできなかったし、せいぜい母親に面倒を見させることしかできないのだった。
母親であるU子としては、まさか還暦近くなって子育てを再開する羽目になるとは思わなかった。しかし、可愛い孫ではあるのでどうにか育てるつもりはある。事実、D夫がF実を連れて実家に戻ってきたときには、F実は全くU子に懐かず泣いてばかりいたが、一歳を過ぎた今では「ばーば」と言って後ろをついて歩くようになった。こうなると可愛いものである。
ちなみに、U子はできちゃった婚でD夫を奪って行ったC子が大嫌いである。だから、今回離婚となったことは満足であるし、またF実の母親がC子ではないということも内心喜んでいる。
「まあ、D夫ちゃんも帰ってきたし、孫のF実も私に懐いてきたし、結果オーライね。」
U子は二回目の久しぶりの子育てを大いに楽しんでいた。
しかし、半年ほど経ったある日、D夫が帰宅すると信じられないようなことを言い出した。
「ママ、聞いて! もうママには迷惑をかけなくて済むよ。F実の親になってくれる人を見つけられるかもしれないんだ。」
「えっ?」
D夫は通勤用のカバンからパンフレットを取り出した。そこには、「特別養子縁組を支援します」と大きな文字で書いてあった。
C子とは調停離婚することになった。もちろん、理由は「子どもであるF実がC子の子どもでないこと」だった。D夫は「私的なDNA検査だから間違えている」と主張したが、再度調停内でDNA鑑定を実施したところ、やはりF実とC子の母子関係はほぼゼロだということだった。調停の中で、F実はC子の子ではないこと以外に、C子とD夫は離婚をすること、慰謝料・財産分与などはゼロとすることが決まった。
さて、F実の母親について、D夫は当時の自分の行動を振り返ったが、一つだけ思い当たる節があった。それは、会社の慰安旅行に行った際、同性の同僚に連れられて深夜に現地のソープランドに繰り出したときだ。あの店は確かにNS(ノースキン)店だった。
D夫はその同僚に、会社の昼休みに尋ねた。
「君は妊娠してないよな。」
「してないよ。何で?」
D夫は、F実が妻のC子の子どもではないこと、他に心当たりがあるとすればそのソープランドの女性しかないことを話した。
「あー、でもNSの子もさすがにピルは服用してると思うんだ。妊娠したりさせたりしたら嫌でしょ?」
D夫は首を傾げた。
「ピルって何だ?」
「馬鹿、避妊薬だよ。そんなことも知らないのか! 俺は念のためのんで行ったよ。」
24世紀では男性用ピルも市販されていた。もっとも、一部のピルでは連続服用の副作用で長期間精子が形成されなくなるといったケースも発生し、男性側の評判はイマイチだ。ただ、風俗通いをする男性の中では必需品となっており、D夫も存在については知っている。
「女の人用のピルもあるんだなあ。」
同僚は笑った。
「歴史的にはそっちの方が先だ!」
「じゃあ、もう一つ、恥を忍んで聞いていい?」
D夫は尋ねた。
「生でやっても外に出せば妊娠しないはずだよね?」
同僚は呆れ顔になった。
「お前は本当に馬鹿だな。外出しで妊娠が完全に防げるはずないじゃないか!」
24世紀だというのに、D夫の避妊知識は大昔のところでストップしていたのだった。
「何だ、じゃあ完全にあの風俗嬢がピルをのんでなかったせいだ!」
早速D夫はソープランドにクレームの電話を入れた。
「お宅の風俗嬢のせいで妊娠して子どもが生まれた!」
「兄さん、どうしたんですか? うちは自由恋愛ですからなあ。」
D夫は声のボリュームを上げる。
「店には責任がないということですか?!」
「そらそうや、自由恋愛やもん。」
ソープランドの店員はこう言い放った。D夫はなおも責める。
「お宅に在籍しているVが原因なんですよ?」
「Vですか、その子、もう辞めましてん。」
「Vの本名とか住所とか、今の店とか……」
「個人情報は一切教えられまへん。」
店員はキッパリ言った。
「じゃあ、私に泣き寝入りしろと?!」
「泣き寝入り、て、あんたが避妊しとらんのが悪い。あんまりしつこいと業務妨害で警察に通報するど?」
電話はガチャリと切られた。
D夫は自分の知識不足が招いた事態であることは頭では理解していた。しかし、この腹立ちをどこへぶつけたらいいのか。会社から帰宅したD夫は、F実を見てU子に言った。
「ママ、F実は風俗嬢の子だ。可愛がる必要ないよ。」
「D夫ちゃん、それはどういうこと?」
D夫は二年ほど前に会社の旅行で、同僚と一緒にソープランドに行ったこと、その店がNS店だったことをU子に話した。
「んまあ、そんなところにD夫ちゃんを連れて行く同僚の人が悪いわよ。」
U子は眉間にシワを寄せて言った。そうだ、事前に避妊知識をレクチャーしないまま、自分をソープに連れて行ったあいつが悪い、とD夫は思った。しかし、そのまま同僚に文句を言ったところでバカにされるのがオチだろう。
「そんなことだから、僕はもうF実の顔を見たくないんだ。」
U子はさすがにこう言ってたしなめた。
「でも、生まれてきた子どもに罪はないわよ。半分はD夫ちゃんの遺伝子なんでしょう?」
「そう言われても、風俗嬢の子なんて嫌だよ。ママ、F実をどこか養子に出せないかな。」
「んまあっ、あれだけ可愛がってたのに……。」
D夫は、好きだったC子の子どもだからこそ、F実に愛情を注げたということが分かった。よく分からない風俗嬢の子では、顔も見たくなくなってしまったのだ。自分のミスで生まれてきた子だということもあるし、風俗嬢への差別意識も大いにあった。それらのことから、D夫はもうすっかりF実のことが嫌になったのだ。だからといって、F実をC子に押し付けることもできなかったし、せいぜい母親に面倒を見させることしかできないのだった。
母親であるU子としては、まさか還暦近くなって子育てを再開する羽目になるとは思わなかった。しかし、可愛い孫ではあるのでどうにか育てるつもりはある。事実、D夫がF実を連れて実家に戻ってきたときには、F実は全くU子に懐かず泣いてばかりいたが、一歳を過ぎた今では「ばーば」と言って後ろをついて歩くようになった。こうなると可愛いものである。
ちなみに、U子はできちゃった婚でD夫を奪って行ったC子が大嫌いである。だから、今回離婚となったことは満足であるし、またF実の母親がC子ではないということも内心喜んでいる。
「まあ、D夫ちゃんも帰ってきたし、孫のF実も私に懐いてきたし、結果オーライね。」
U子は二回目の久しぶりの子育てを大いに楽しんでいた。
しかし、半年ほど経ったある日、D夫が帰宅すると信じられないようなことを言い出した。
「ママ、聞いて! もうママには迷惑をかけなくて済むよ。F実の親になってくれる人を見つけられるかもしれないんだ。」
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