現実的な愛の妄想

タロウ

文字の大きさ
11 / 15

11

しおりを挟む
 「……っ、はぁ……あ、あぁ……っ!」
 絶頂が止まらず、私は息も絶え絶えに誠一の肩へしがみついた。
 背中が反るたび、喉から声が零れる。
 彼の体を掴んで、汗のにじむ首筋に額を押しつける。

 「……誠一さん……っ、中に……欲しい……」
 耳元でそう囁くと、彼の動きが一瞬止まった。

 「……さすがに、それは……」
 ためらう声。
 理性と責任感が、最後の一線を守ろうとする。

 「やだ……っ」
 震える声で縋りつく。
 「中にくれなきゃ……もう満足できない……っ」

 潤んだ瞳を見上げて訴えると、彼は大きく息を吐いた。
 「……本当に。最高に困った人ですね」
 苦笑交じりに言い、次の瞬間、唇を塞がれた。

 濃厚に、深く。
 舌を絡め、喉の奥まで舐め尽くすようなキス。
 「んんっ……んぅ……っ」
 声も息も飲み込まれて、熱だけが口腔に溢れる。

 そして、奥へと一気に打ち込まれた。
 「――っ、ひぁぁぁっ!」
 衝撃と同時に、熱いものが内側で弾ける。
 中が灼けるように満たされ、奥を擦られるたび快感が爆発した。

 「奈緒さん……っ、一緒に……っ!」
 耳元で囁かれる声と同時に、私もまた絶頂に攫われる。
 「っ、あぁぁっ、んんんっ……!」
 腰が勝手に震え、爪が背中に食い込む。
 同時に、彼の熱が深く注がれていく感覚が、胸の奥を震わせた。

 誠一は吐息を荒げながらも、腰を止めなかった。
 爆ぜた後の熱を押し込み、ゆるゆると奥をこねるように擦る。
 「んぁっ……っ、ふぁ……だめ、また……っ!」
 痙攣が再び強くなり、絶頂の余波が重なっていく。
 「……まだ、いけるんですね」
 彼の囁きに、震える声しか返せなかった。

 「ひっ……あ、んんっ……!」
 涙混じりの嬌声が口から零れ、また彼の舌に塞がれる。
 熱いキスで呼吸も奪われ、甘い責め苦に再び沈んでいく。
 唇が重なるたび、全身が火照り、絡みついたまま溶け合っていく。

 爆ぜた後の余韻でさえ、彼は私を追い込んだ。
 奥の奥まで満たされ、震える身体を抱きしめられながら――
 私はただ、誠一にすべてを委ねていた。

何度目かの絶頂を終えて、ぐったりと彼の胸に抱きついていた。
 汗で張りつく肌の感触すら、心地よい。
 「……まだ、入ってますよ」
 誠一の茶化す声に、軽く唇を尖らせて見せる。

 そのとき。
 「……ぐぅ」
 静かな部屋に、間の抜けた音が響いた。

 「……え?」
 誠一の目が丸くなり、私は顔を真っ赤にした。
 「ち、違……っ! 今のは……」
 「ははっ……奈緒さんのお腹ですね」
 恥ずかしさでシーツに潜り込む私を、彼は笑いながら抱き寄せる。

 「……ご飯、行きますか」
 耳元に囁かれ、思わず噴き出した。
 「……はい」

ホテルを出ると、夕暮れが街を染めていた。
 腕時計を見ると、もう十八時を過ぎている。
 「……一日、あっという間でしたね」
 誠一が苦笑すると、私は思わず吹き出した。
 「そりゃあ、あんなに……」
 途中で言葉を飲み込み、耳まで赤くなる。
 彼は小さく笑いながら歩調を合わせてくれる。

 ホテル街を抜け、少し歩いた先の和食屋に入った。
 テーブル席に案内され、温かいお茶が運ばれてくる。
 「今日は……なんだか妙にお腹が減りました」
 「そりゃあ、あんなに……動いてれば」
 互いに言葉を濁しながらも笑い合う。

 メニューを広げると、自然と会話が弾んだ。
 「奈緒さんは魚と肉、どっち派ですか?」
 「んー……普段は魚の方が多いです。でも今日は……ガッツリいきたいですね」
 「じゃあ、牛すき焼き定食にしましょうか。僕は焼き魚にします」
 「逆じゃないんですか?」
 「いや、あなたが欲しいものを頼むのが一番ですから」
 「……そういうの、ずるいですよ」
 笑いながら注文を済ませる。

 料理が運ばれてくると、二人同時に箸を手に取った。
 「いただきます」
 声を揃えて言うと、自然と目が合ってしまう。
 頬が熱くなり、慌ててご飯を口に運んだ。

 「奈緒さんは、普段どんな仕事なんです?」
 「事務系です。書類整理とか、システム入力とか。地味ですけど、嫌いじゃないです」
 「真面目そうですもんね」
 「褒めてます?」
 「もちろん」
 軽い言葉に、心臓が跳ねる。

 「誠一さんは営業って言ってましたよね。やっぱり得意なんですか」
 「得意というより……やらざるを得ない、ですかね。数字に追われるのは正直しんどい」
 「分かります。どの仕事も、数字ってつきまといますよね」
 「でも、今日みたいに“喜んでもらえた”って分かる方が、ずっとやりがいを感じます」
 言葉の意味に気づき、顔が熱くなる。彼も慌てて咳払いした。

 定食をつつきながら、他愛ない話題が続く。
 子供の頃の好きな遊び、旅行の話、最近見た映画の話。
 不思議なくらい自然に会話が続き、笑い声が絶えなかった。

 食後、店を出るとすっかり夜になっていた。
 駅へ向かう道を並んで歩く。
 「……今日は楽しかったです」
 私が言うと、誠一は少し俯き加減で微笑む。
 「僕も。……また、会えますか」
 「はい。……ぜひ」

 別れ際、ほんの一瞬だけ手が触れ合った。
 指先に残った温もりが、胸の奥に甘く沁みる。
 「じゃあ……また」
 互いに名残惜しさを抱えながら、駅の人混みに消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...