バイトの後輩があまりにもショタで困る

のりたまご飯

文字の大きさ
9 / 32
第一章 澄清

クリスマスデート大作戦⑤

しおりを挟む
りょうやが、たった今、目の前で彼女にフラれた。
そんな事実が、俺には信じられなかった。
あんなに嬉しそうな顔でデートに行くと意気揚々に話していたりょうやが。

すると、耳につけたままの盗聴器から、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
誰でもないりょうやの幼い声だが。


…俺はどうすればいい?
後輩がすすりなくのをただ盗聴しているだけの変質者に、俺はなりたくない。
そう思うと、いつの間にか足を動かしていた。

ベンチの前まで行くと、座りながら腕を組んで、その上にうつ伏せになり丸まっているりょうやが見えた。
茶色のコートには、雪が降り積もっているように見える。
丸まっている姿は、まるで冬の寒さに凍える子犬のようだった。

りょうやを横目に見ながら、俺は彼女さんが座っていたところに腰を下ろす。
どうやら気づいていないようだ。
小さくて弱々しい鳴き声が、刻々と俺の胸を締め付ける。

「りょうや」

「ぐす、、、えっ、、先輩…?」

りょうやが顔を上げて俺に気づくと、俺はそっと、りょうやを頭から抱きしめた。
どうしてそうしたのか、俺もはっきりとわからない。母性本能などという曖昧なものではない気がする。
ただ、後輩を慰めてあげたい、といったところだろうか。

「な、なんでっ…ぐすっ、ここ、、お台b…、ば、ばいとは…」

「そんなこと気にしなくていいから。」

「でもぉっ、な、ばいっ…ひっく、、ぼくっ、、」

「今は泣いてスッキリしようぜ」

「...」

しばらく黙り込んだ後、りょうやは俺の胸の中で。大きな声をあげながら泣いた。
わんわんと、自分の中にある感情を吐き出しながら。
俺も黙って背中をさすりながら、ぎゅっと抱きしめた。
正直彼女にふられるなどという感情は人生で一度も知らない。
恋愛アニメぐらいの知識量しかない俺は、ただ抱きしめてあげるのが一番だと思った。

波の音を聞きながら、サラサラと舞う雪の結晶が髪におちる。
たまには後輩をただ抱きしめるクリスマスイブも、いいものだなと俺は思った。

5分後、りょうやの嗚咽も落ち着いてくると、俺はそっと抱きしめていた手を離した。

「飲み行こうぜ。俺奢りで。」

「…はい」

「立てるか?」

「…はい」

壊れたステレオみたいにただ返事をするりょうや。
俺たちは黙ってスタスタと駅の方向へと歩いていく。

周りには手を繋いだり肩を抱いたりするカップルも歩いている。
ショッピングモールのあたりに着くと、クリスマスの陽気な音楽とともにフェスが行われていたが、それを横目に俺たちは駅への連絡通路を歩いて駅の中へと入った。
電車に乗っても、りょうやは始終無言でしたを向いていた。
スッキリしたはずなんだがな…もっとなんか言ってあげればよかったのか…?

こんな状況は初めてなもんで、なんて声をかければいいのか俺にもわからない。
電車を降り、りょうやの自宅の最寄り駅から出ると、雪はさらに大きくなっていた。
高架下にある適当な居酒屋に入る。店内は賑わっており、二人席に案内される。
とりあえず生ビールを2本注文する。
店員の年齢確認にはりょうやは応じ、確認は取れたようだが、やはり彼女さんに言われたことをひきづっているのだろう。

ビールが届いた。
すると俺がジョッキに入った黄色いしゅわしゅわとした液体を、数口飲み込むと、りょうやも同じように口の中に流し込んだ。
ちなみにりょうやとは何度か飲みに行ったことがある。見た目に反して酒にはかなり強い。ビール数ジョッキは余裕のようだ。

お店に入ってから30分。りょうやは…やけ酒をしていた。

「なんなんですかぁっ!!なんで僕がふられないといけないぃっ、ぐすっ、んですかぁ!!」

「一回落ち着けって…な?」

周りからすると、失恋した中学生が暴言を吐きながら酒を飲んでいるようにしか見えない。
周りの視線が痛い。頼むから早く落ち着いてくれ

「落ち着いていられないですよっ!うええんんんっ…」

泣きながらジョッキに入っている残りのビールをグビグビと飲む。

「ぷはぁっ、ううぅっ、ぐすぐす…」

からになったジョッキ瓶を机に打ち付けると、店員にあと1つ生ビールを注文した。

「先輩の奢りですからねっ、、ひっく…」

「わかったよ…」

「っていうか~!なんで先輩がっ…さっきぃ、いたんですか」

「まあ色々あってだな。」

「しかも、、わざわざ一人で泣いてる時にぃっ、もおっ!」

「…」

何に怒っているのか分からない。
俺なんも悪いこともしてないよな?
そうだよな?

「先輩ぃ…」

「んあ?」

「もういっそ…、ぐす…、先輩が…僕を守ってくれないですか」

「…どういう意味だ」

「そんなのわからないです!」


結局りょうやは生ビール5杯と10品以上のおつまみを軽々と平げ、机に突っ伏して寝てしまった。
結局愚痴しか聞いてやれなかったような気がする。もう少し励ますような話をしてあげたかったが、あいにく俺はそんな才能を持ち合わせていない。
何度もこいつとは飲みに行ったが、やはり中学生のような幼い顔を赤く染めるのは罪悪感がある。

しかしこいつ、やっぱり可愛い。
店長や鈴音が釘付けになるのもわかる気がする。
断っておくが俺は断じてショタコンでもホモでもない。


時計はすでに10時を過ぎていたので、会計をして、りょうやをおんぶして家に向かう。小さいので簡単に背負えた。

さっきまで強かった雪は、飲んでいる間に止んでしまったようだ。
積雪した地面で滑らないように注意して歩く。
数分間上り坂気味の歩道を歩くと、アパートに到着だ。
本人はまだぐっすり寝ているようなので、2階までそのまま背負い、カバンの中に入っていた鍵でドアを開ける。

急いでいたからなのか、家の中は散らかっていた。
机にはデートプランなるものも見える。
こんなに準備していたのにな…、と可哀想になった。

まだ起きる気配もないので、とりあえずベッドに放置して勝手に着替えを漁る。
適当なTシャツとズボンを取ると、本人のズボンとシャツを脱がせて着替えさせる。
男同士だからこんぐらいはな。でも流石にパンツはやめておいた。うん。

布団を被せて、部屋の暖房をつける。
すると、

「先輩ぃ…」

というような声が聞こえた。
振り返ると、相変わらず赤く染まった顔ですやすやと寝ている。
寝言か。と思い、返事はしないでおいた。

部屋の鍵を閉め、外のポストに入れておく。
盗まれることは流石にないだろう。こんな聖夜に部屋の鍵を盗みにくるやつはサンタぐらいだ。
おっと、これはサンタへの誹謗中傷に当たるのか。


「…俺が守ってあげる、、か」

その言葉の意味を考えながら、俺は雪が降り積もる道を踏みしめ家路に着いた。

続く
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...