あなたのためなら

天海月

文字の大きさ
13 / 37

12(side アメリア)

黒い痣の情報はなかなか見つからなかった。

やはり噂で聞いた、あの方の魅了が消えずに残っているからなのかしら?

セルヴィス様の番を騙り、処刑されて亡くなったという、あの方。

美しく知的で魅力的な女性だったという。

彼女を失ったセルヴィス様は、随分荒れていたとも聞いた。

当時、幼かった私はほとんどその事件のことを覚えてはいなかったし、箝口令も布かれていて、今となっては詳細まではわからない。

けれど、経緯はどうあれ、セルヴィス様があの方を愛していたという事は真実だと感じた。

今までずっと、彼が私に気持ちを向けてくれない事はとても辛いと思っていたし、今だってそう思っている。

しかし、愛している人の命を、直接では無いにしても自分の手で奪わなくてはならないような、残酷なことがあったにも関わらず、何も無かったようなふりをして生きなくてはならない彼の立場を思うと、やり切れないとも思った。


まだ魅了魔術が消えていないのかどうかということは、問題の本質ではなかった。

きっと、あの黒い痣は今でも彼が彼女のことを愛していて、忘れることなど到底できないという印なのだ。

彼女でなくては、彼を満たすことはできない。

対になる痣を持っているだけの番など、彼にとっては初めから不要だったのだ。

だから、あの痣は私の全てを拒絶するような黒であり続けるに違いない。

まるで彼の心を代弁しているように。

私は彼のことが少しだけ解って嬉しいような気もしたが、同時に解らなければ良かったとも思った。


あんな人など好きにならなければ良かった。

会わなければよかった。

そもそもこんな痣など無ければ・・・。

そうすれば、こんなやり場のないような苦しい気持ちになることなど無かったというのに。


そう思う気持ちとは裏腹に、もしかしたら、まだ私が愛される可能性は少しくらいはあるのではないかという、根拠のない浅ましい期待も消し去ることができない。

我ながら、哀れな女だと思う。

あれだけ何度も明確に、私に気持ちが無いことは思い知らされているというのに。

いい加減どこまでも諦めが悪い自分に嫌気がさす。


いつのまにか、生きている事にすら疲れてしまった。

客観的に見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ないような、空想めいた期待だけが、今の私を生きながらえさせている、たった一つの貧弱な錨だった。

多分、この思いすら無くしてしまったら、ここに留まっている事すらできそうにない。

私の全ては、嵐の晩に外に出された蝋燭の火のように、簡単に消えてしまうだろう。

そんな気がした。
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。 何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。 生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。 「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」 過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。 まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。