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番外編
あの夏の百合の丘で
跪くナーヴェ。
彼は百合の花を一輪、アメリアにそっと差し出す。
「どうか、私と生涯を共に過ごしていただけませんか、愛しい人」
彼の柔らかい日差しの様な翡翠色の眼差しに、彼女は頬を赤らめて答えた。
「はい・・・」
◇
「自覚がなかったとは思うのだけれど、君が百合の花をくれたのを覚えているかい?」
「ええ」
「知っているかい?あれは、竜の求婚の作法だったんだよ。私はあのときずいぶん驚いてしまって・・・」
ナーヴェの耳が熱を持つ。
「まぁ、だからあの時あんなに困った顔をなさったのね」
と言って、アメリアは笑った。
ナーヴェは急に真剣な顔になった。
「どうか、もう一度私にやり直させてほしい」
このままではどうも格好がつかないということらしかった。
空は雲一つなく晴れ渡り、日差しが強い日だった。
今日は二人が初めて出会った、あの百合が咲き誇る丘にある小さな神殿で、二人だけの結婚式を挙げなおす。
お忍びで平民の普段着の二人は、些細な小物だが、お互いの色を身に着けている。
アメリアは翡翠色の髪飾りを、ナーヴェは銀色のクラバットを。
身なりはつつましく、二人を祝う招待客もただの一人もそこには居なかったが、セルヴィスとの豪奢な式では感じることが出来なかった温かな気持ちでアメリアは満たされた。
二人の視線はずっとお互いを見つめたままで、まるでそこだけ時間が止まっているようだった。
定刻を告げる塔の鐘が鳴り響いた。
二人はハッとした。
「そろそろ行こうか」
ナーヴェが微笑みながらアメリアの手を引く。
二人は、丘の上にある百合畑の裏ひっそりと存在している、名もない墓に百合の花を三本供えた。
三本の百合は、弔意を表す。
セルヴィスは王族の墓には埋葬されていない。
ナーヴェの計らいで、王都にある公の墓には魔術で作られた彼の遺体の模造品が埋められていた。
本当の彼はこの墓の下に眠っている。
彼が密かに持ち続けていた、罪人として遺骸を焼き尽くされ灰すらも残らなかった彼の最愛の人の遺髪と共に。
「やっと、お二人は一緒になれたのですね・・・」
感慨深そうにアメリアが言った。
ナーヴェは無言で頷いた後、
「馬車を待たせているから、戻ろうか?」
と言った。
「そうですね」
アメリアが答える。
二人は去っていった。
丘の裏手にある海側の崖から、潮風が上がり、ざわざわと音を立てながら百合畑を吹き抜けていった。
ナーヴェは静かに微笑みを浮かべた。
今度こそ、お幸せに
兄上・・・
彼は百合の花を一輪、アメリアにそっと差し出す。
「どうか、私と生涯を共に過ごしていただけませんか、愛しい人」
彼の柔らかい日差しの様な翡翠色の眼差しに、彼女は頬を赤らめて答えた。
「はい・・・」
◇
「自覚がなかったとは思うのだけれど、君が百合の花をくれたのを覚えているかい?」
「ええ」
「知っているかい?あれは、竜の求婚の作法だったんだよ。私はあのときずいぶん驚いてしまって・・・」
ナーヴェの耳が熱を持つ。
「まぁ、だからあの時あんなに困った顔をなさったのね」
と言って、アメリアは笑った。
ナーヴェは急に真剣な顔になった。
「どうか、もう一度私にやり直させてほしい」
このままではどうも格好がつかないということらしかった。
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今日は二人が初めて出会った、あの百合が咲き誇る丘にある小さな神殿で、二人だけの結婚式を挙げなおす。
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アメリアは翡翠色の髪飾りを、ナーヴェは銀色のクラバットを。
身なりはつつましく、二人を祝う招待客もただの一人もそこには居なかったが、セルヴィスとの豪奢な式では感じることが出来なかった温かな気持ちでアメリアは満たされた。
二人の視線はずっとお互いを見つめたままで、まるでそこだけ時間が止まっているようだった。
定刻を告げる塔の鐘が鳴り響いた。
二人はハッとした。
「そろそろ行こうか」
ナーヴェが微笑みながらアメリアの手を引く。
二人は、丘の上にある百合畑の裏ひっそりと存在している、名もない墓に百合の花を三本供えた。
三本の百合は、弔意を表す。
セルヴィスは王族の墓には埋葬されていない。
ナーヴェの計らいで、王都にある公の墓には魔術で作られた彼の遺体の模造品が埋められていた。
本当の彼はこの墓の下に眠っている。
彼が密かに持ち続けていた、罪人として遺骸を焼き尽くされ灰すらも残らなかった彼の最愛の人の遺髪と共に。
「やっと、お二人は一緒になれたのですね・・・」
感慨深そうにアメリアが言った。
ナーヴェは無言で頷いた後、
「馬車を待たせているから、戻ろうか?」
と言った。
「そうですね」
アメリアが答える。
二人は去っていった。
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ナーヴェは静かに微笑みを浮かべた。
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