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言葉にするには、あまりにも

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 自分のくせきらいだ。すぐにからまってほどけなくなる。なら髪を伸ばさなければ手入ていれもらくなのに、そうしたくないのだからわれながらおろかしい。
 たぶん私は、背伸せのびをしたかったのだ。大人のような恋愛に昔からあこがれていて、たけわないヒールをいて。そして全力で走ってはころぶような恋ばかりで。そんな失恋のたびに、本当にベタだけど、よく髪を切っては泣いた。
 面倒めんどうな私の恋も髪も無くなってしまえばいい。そう思っては、またおろかしい恋をかえす。そして今日も、やはり私は髪を切ってもらいながら泣いていた。

「まだ泣いてるの? ちょっとウンザリなんですけど」
「……だれのせいだよ」

 私のくせあざやかに切る、彼女は美容師だ。おんなきで、これまで複数の客に手を出しては泣かせてきた。今は私が泣かされている。

「泣くような、たいしたカットはしてないでしょ? 式は一か月後なんだから。当日は私が、素敵すてきな髪型にしてあげる」
「いいよ、気張きばらなくて。私の髪、貴女あなたみたいに綺麗きれいじゃないから」
「何、言ってるの! 私から見れば、貴女あなたくせの方がきやすくてえるんだから。美容師の結婚相手が、みすぼらしい髪型だなんてゆるさないからね。私のとなりに立つんだから、最高にかがやいてもらうわよ!」

 数多かずおおくの女子を泣かせてきた彼女が、最終的にえらんだパートナーが、なぜ私だったのか。彼女いわく、「貴女が一番、あきらめがわるかったから」だそうだ。何だよ、それ。もっと格好かっこうよくかれたかったよ。

「あー、また泣いちゃって。ほらほら、かがみの前で笑ってごらん。ただで髪を切ってくれる、こんな素敵すてきな私とむすばれる感想は?」

 私は、これまでの恋を思う。からまってはほどけなくなる、恋もくせも。すべては彼女に愛されるため、必要だったのかな。彼女に振り回されて腹立はらだたしくて、そしてうれしくてうれしくて。

「……ぐちゃぐちゃだよぉ」

 からまる私を彼女がほどく。この幸福は、とても言葉にできない。
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