彼女は私の、ぬいぐるみ

彼女は私の、ぬいぐるみ

　昔から、ぬいぐるみが好きだった。子供時代、ベッドで一緒に寝ていた時の安心感は大きいもので、気が付けば私は十代になっても、ぬいぐるみが隣となりに居いないと満足に眠れなくなっていた。

　このままだと大人になっても、ぬいぐるみに依存いぞんしたまま私は生きていくのでは？　それは何というか、恥ずかしい。ぬいぐるみ無なしでも夜、眠れるようになりたい。そう思うのだけど、その方法が私には思いつかなかった。



「そうかー。そういう悩みがあるんだねー」

　私の悩みを聴いてくれている、古くからの親友である彼女が、嬉うれしそうに笑っている。何が、そんなに嬉うれしいの。訝いぶかしむ私に彼女が続ける。

「眠る時に、ぬいぐるみ以外の物があればいいんでしょ？　なら今度の週末、私が隣となりで寝てあげる」

　つまり彼女が言うには。禁煙きんえんや禁酒きんしゅのような依存症いぞんしょうの治療ちりょうは、段階的に少しずつ、他のものに置おき換かえていくのが良いのだと。そういう事らしかった。

「最初は週に一度ずつ、私が貴女あなたの、ぬいぐるみ代がわりになるの。そして最終的には、私が居ないと生きていけないようにしてあげる」

　冗談なのか本気なのか分からない。自信たっぷりの彼女を見ていると本当に、そうなりそうな気がする。実は彼女から「好き」と、私は告白されていて、その答えは保留中ほりゅうちゅうだった。そして、彼女が言うような未来も悪くなさそうだとは思っていた。



　そして週末、彼女は私の家に来て泊とまる事になって。就寝しゅうしんの前に、「先に、お風呂ふろに入らせて。貴女あなたに取って最高の、ぬいぐるみになって見せるから」と言って譲ゆずらなかった。言われた通りにして、私もお風呂ふろから上がる。私の部屋に行くと既すでに明あかりは消されていて、すっぽりと彼女はベッドの中に居いた。

　私もベッドに入る。「ねぇ、知ってる？」と彼女が言ってきて、更さらに続けた。

「ぬいぐるみってね、服を着きないんだよ？」

　……冗談だよね？　私は手を伸ばして、彼女の温ぬくもりと感触かんしょくを確かめた。