18 / 64
第三章『坑夫』
1 猫ちゃん、ツルハシで隕石の中から脱出を試みる
しおりを挟む
吾輩、猫なので眠る事が多い。そして寝る事が多いと、夢を見る機会も多くなる。
その夢を面白いものにしたいと思うのは、当然の成り行きではないだろうか。なので吾輩、以前から夢見術を研究してきた。夢の内容をコントロールする技術である。
自己流だが吾輩には才能があったようで、夢の中で自由に動けるし、夢の内容に干渉できる。だけども全てをコントロールできる訳ではなくて、現在の吾輩は夢の中で遭難していた。
遭難というと山や海での事件を思い浮かべるかも知れないが、夢なので、そんな普通の事態ではない。吾輩、宇宙空間みたいな無重力状態で浮かんでいて、宇宙服みたいな恰好だった。
宇宙服というか、正確にはパワードスーツであろうか。人間と同じように後ろ足二本を下に向けて(無重力なので上なのか下なのか分からないが)、前足二本は両手となってツルハシを握っているのが今の吾輩である。周囲は真っ暗で、頭に付いたライトで照らすと岩盤が見える。
見えるというか、岩盤しか見えない。宇宙空間で隕石の中に閉じ込められてるようである。幸い、ある程度のスペースはあって行動は可能だ。
「龍之介くん、龍之介くん。聞こえますかー」
スーツには無線が付いている。吾輩、自力での脱出は半ば諦めて、彼に連絡をした。
「聞こえます聞こえます。状況を教えてください吾輩さん、どうぞー」
「ツルハシを持って岩の中に閉じ込められてるね。ああ、ツルハシって分かるかな?」
「分かりますよー。『ドル〇ーガの塔』の攻略本に載ってましたから」
主人が龍之介くんに買った本の中に入っていたらしい。何が役に立つのか分からないものである。どうでもいいが、ゲームのタイトル名は小説内で伏字にした方が良いのだろうかと吾輩は何故か考えた。
「そちらは、どうなのかな龍之介くん。君は今、寝ているの起きているの?」
「うつらうつらしてますね。半分、寝ているような状態です」
「なら夢の外へは、君の方が近い位置に居る訳だ。そっちに向かっていけば出られるかな」
吾輩、両手として使える前足で、ツルハシを振って岩盤を掘る。夢だからかバターみたいに簡単に掘り進めた。テレパシーで龍之介くんの位置は大まかに分かるのである。
「会話を続けてくれないか龍之介くん。まだ脱出までは長そうで退屈なんだ」
「はいはい。吾輩さん、猫なのにツルハシが持てるんですね」
「夢の中だからね。マンガの猫型ロボットは何でも持てるし、パンダだって笹を掴むさ」
ドラマ化もされたマンガの猫村さんは包丁で料理をしていた。ある程度、サイズが大きくなれば肉球で猫も物を掴めるのだろう。
吾輩は無重力の中で浮かんでいる。パワードスーツの背中から空気が噴き出して前進する。普通に考えれば、この程度の推進力で岩を掘り進める訳がないのだが、夢の中は都合が良い。
「リアリティが必要ないというのは、ありがたいね。小説もそうだよ。大切なのはテーマさ」
「文学論ですか、吾輩さん」
「こうやってると、漱石先生が書いた、『坑夫』を思い出すよ。銅山って知ってるかな?」
「銅が取れる山ですか。ツルハシで掘って銅を採掘するんですね」
「吾輩も実際に見た事はないからね。だから詳しくは無いけど、その銅山が舞台の話で」
『坑夫』は、漱石先生の作品としてはマイナーかも知れないが、職業作家として書き始めてから二作目の小説である。この作品が新聞で連載され始めた、その前年には足尾銅山で坑夫、つまり銅山でツルハシを持って働いていた労働者達が暴動を起こしている。
作品舞台の銅山というのは、足尾銅山がモデルであるらしい。まあ龍之介くんにそこまでは語らない。
その夢を面白いものにしたいと思うのは、当然の成り行きではないだろうか。なので吾輩、以前から夢見術を研究してきた。夢の内容をコントロールする技術である。
自己流だが吾輩には才能があったようで、夢の中で自由に動けるし、夢の内容に干渉できる。だけども全てをコントロールできる訳ではなくて、現在の吾輩は夢の中で遭難していた。
遭難というと山や海での事件を思い浮かべるかも知れないが、夢なので、そんな普通の事態ではない。吾輩、宇宙空間みたいな無重力状態で浮かんでいて、宇宙服みたいな恰好だった。
宇宙服というか、正確にはパワードスーツであろうか。人間と同じように後ろ足二本を下に向けて(無重力なので上なのか下なのか分からないが)、前足二本は両手となってツルハシを握っているのが今の吾輩である。周囲は真っ暗で、頭に付いたライトで照らすと岩盤が見える。
見えるというか、岩盤しか見えない。宇宙空間で隕石の中に閉じ込められてるようである。幸い、ある程度のスペースはあって行動は可能だ。
「龍之介くん、龍之介くん。聞こえますかー」
スーツには無線が付いている。吾輩、自力での脱出は半ば諦めて、彼に連絡をした。
「聞こえます聞こえます。状況を教えてください吾輩さん、どうぞー」
「ツルハシを持って岩の中に閉じ込められてるね。ああ、ツルハシって分かるかな?」
「分かりますよー。『ドル〇ーガの塔』の攻略本に載ってましたから」
主人が龍之介くんに買った本の中に入っていたらしい。何が役に立つのか分からないものである。どうでもいいが、ゲームのタイトル名は小説内で伏字にした方が良いのだろうかと吾輩は何故か考えた。
「そちらは、どうなのかな龍之介くん。君は今、寝ているの起きているの?」
「うつらうつらしてますね。半分、寝ているような状態です」
「なら夢の外へは、君の方が近い位置に居る訳だ。そっちに向かっていけば出られるかな」
吾輩、両手として使える前足で、ツルハシを振って岩盤を掘る。夢だからかバターみたいに簡単に掘り進めた。テレパシーで龍之介くんの位置は大まかに分かるのである。
「会話を続けてくれないか龍之介くん。まだ脱出までは長そうで退屈なんだ」
「はいはい。吾輩さん、猫なのにツルハシが持てるんですね」
「夢の中だからね。マンガの猫型ロボットは何でも持てるし、パンダだって笹を掴むさ」
ドラマ化もされたマンガの猫村さんは包丁で料理をしていた。ある程度、サイズが大きくなれば肉球で猫も物を掴めるのだろう。
吾輩は無重力の中で浮かんでいる。パワードスーツの背中から空気が噴き出して前進する。普通に考えれば、この程度の推進力で岩を掘り進める訳がないのだが、夢の中は都合が良い。
「リアリティが必要ないというのは、ありがたいね。小説もそうだよ。大切なのはテーマさ」
「文学論ですか、吾輩さん」
「こうやってると、漱石先生が書いた、『坑夫』を思い出すよ。銅山って知ってるかな?」
「銅が取れる山ですか。ツルハシで掘って銅を採掘するんですね」
「吾輩も実際に見た事はないからね。だから詳しくは無いけど、その銅山が舞台の話で」
『坑夫』は、漱石先生の作品としてはマイナーかも知れないが、職業作家として書き始めてから二作目の小説である。この作品が新聞で連載され始めた、その前年には足尾銅山で坑夫、つまり銅山でツルハシを持って働いていた労働者達が暴動を起こしている。
作品舞台の銅山というのは、足尾銅山がモデルであるらしい。まあ龍之介くんにそこまでは語らない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる