帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第三章『坑夫』

1 猫ちゃん、ツルハシで隕石の中から脱出を試みる

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 吾輩、猫なので眠る事が多い。そして寝る事が多いと、夢を見る機会も多くなる。

 その夢を面白いものにしたいと思うのは、当然のきではないだろうか。なので吾輩、以前から夢見術を研究してきた。夢の内容をコントロールする技術である。

 自己流だが吾輩には才能があったようで、夢の中で自由に動けるし、夢の内容に干渉できる。だけども全てをコントロールできる訳ではなくて、現在の吾輩は夢の中で遭難していた。

 遭難というと山や海での事件を思い浮かべるかも知れないが、夢なので、そんな普通の事態ではない。吾輩、宇宙空間みたいな無重力状態で浮かんでいて、宇宙服みたいな恰好だった。

 宇宙服というか、正確にはパワードスーツであろうか。人間と同じように後ろ足二本を下に向けて(無重力なので上なのか下なのか分からないが)、前足二本は両手となってツルハシを握っているのが今の吾輩である。周囲は真っ暗で、頭に付いたライトで照らすと岩盤が見える。

 見えるというか、岩盤しか見えない。宇宙空間で隕石の中に閉じ込められてるようである。幸い、ある程度のスペースはあって行動は可能だ。

「龍之介くん、龍之介くん。聞こえますかー」

 スーツには無線が付いている。吾輩、自力での脱出は半ば諦めて、彼に連絡をした。

「聞こえます聞こえます。状況を教えてください吾輩さん、どうぞー」

「ツルハシを持って岩の中に閉じ込められてるね。ああ、ツルハシって分かるかな?」

「分かりますよー。『ドル〇ーガの塔』の攻略本に載ってましたから」

 主人が龍之介くんに買った本の中に入っていたらしい。何が役に立つのか分からないものである。どうでもいいが、ゲームのタイトル名は小説内で伏字にした方が良いのだろうかと吾輩はか考えた。

「そちらは、どうなのかな龍之介くん。君は今、寝ているの起きているの?」

「うつらうつらしてますね。半分、寝ているような状態です」

「なら夢の外へは、君の方が近い位置に居る訳だ。そっちに向かっていけば出られるかな」

 吾輩、両手として使える前足で、ツルハシを振って岩盤を掘る。夢だからかバターみたいに簡単に掘り進めた。テレパシーで龍之介くんの位置は大まかに分かるのである。

「会話を続けてくれないか龍之介くん。まだ脱出までは長そうで退屈なんだ」

「はいはい。吾輩さん、猫なのにツルハシが持てるんですね」

「夢の中だからね。マンガの猫型ロボットは何でも持てるし、パンダだって笹をつかむさ」

 ドラマ化もされたマンガの猫村さんは包丁で料理をしていた。ある程度、サイズが大きくなれば肉球で猫も物を掴めるのだろう。

 吾輩は無重力の中で浮かんでいる。パワードスーツの背中から空気が噴き出して前進する。普通に考えれば、この程度の推進力で岩を掘り進める訳がないのだが、夢の中は都合がい。

「リアリティが必要ないというのは、ありがたいね。小説もそうだよ。大切なのはテーマさ」

「文学論ですか、吾輩さん」

「こうやってると、漱石先生が書いた、『坑夫こうふ』を思い出すよ。銅山どうざんって知ってるかな?」

「銅が取れる山ですか。ツルハシで掘って銅を採掘するんですね」

「吾輩も実際に見た事はないからね。だから詳しくは無いけど、その銅山が舞台の話で」

『坑夫』は、漱石先生の作品としてはマイナーかも知れないが、職業作家として書き始めてから二作目の小説である。この作品が新聞で連載され始めた、その前年には足尾銅山で坑夫、つまり銅山でツルハシを持って働いていた労働者達が暴動を起こしている。

 作品舞台の銅山というのは、足尾銅山がモデルであるらしい。まあ龍之介くんにそこまでは語らない。
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