帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第五章『それから』

1 猫ちゃん、戦場に行く

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 眠りにくと、そこは戦場であった。こういう表現は普通、『目が覚めると、そこは戦場であった』となるのだろうが、吾輩の場合は夢の中での出来事なのだから仕方ない。

 では戦場というと、さぞ悲劇的な場面があったのだろうと思われるかも知れないが、そんな事は全く無かった。何と言うのか、のっぺりとした絵の中に居る感覚だ。テレビゲームの画面の中に居る、という表現が最も正しいのだろう。

 何故、ここが戦場と分かるのかと言えば、いかにも軍用機というようなヘリコプターなどが空を飛んでいるからだった。ついでに西洋の龍も飛んでいる。そういう設定なのだろうか。

「ここは何ですかね、吾輩さん」

 草原に居た吾輩は、隣の龍之介くんから声を掛けられる。吾輩、彼が居た事に今、気が付いた。彼も吾輩も、事態がみ込めずに呆然と立っている。この状況は不味まずいであろう。

「龍之介くん、まずはせるんだ。向こうに大きな岩があるから、そこまで匍匐ほふく前進!」

「はい、吾輩さん」

 ここが戦場であれば、何処どこから撃たれてもおかしくはない。まずは遮蔽物しゃへいぶつの側に行くのがセオリーであろう。吾輩と龍之介くん、腹這はらばいで移動する。猫と幼児は、こういう動きが得意だ。

 ずりずりと草の上を這って、岩の側に辿たどく。そこから辺りを見回すと、どうやら吾輩と龍之介くんは包囲されているらしい。眼だけではなく、猫の耳と鼻とテレパシーがそう告げる。

「囲まれてますねー、吾輩さん」

「龍之介くんも分かるかい。半径キロ圏内けんないに、我々の敵らしい人間が大勢おおぜい、居るね」

 何で夢の中で、こんな事になっているのか分からない。吾輩、夢見術で自分の夢はある程度、コントロールできるはずなのだ。自宅のパソコンがコンピューターウィルスにおかされたような状態であろうか。龍之介くんが巻き込まれてしまっている状況なのが、内心で吾輩をあせらせる。

 さらに奇妙な事に、吾輩達を囲んでいる連中には、あまり敵意というものが感じられなかった。その辺りは吾輩、テレパシーで分かる。むしろ吾輩達を使って、何かの遊戯ゆうぎを始めようとしているような雰囲気であった。上官の指令を待っているらしく、連中は現在、動かない。

 すると突然、天空から声がした。現実には有り得ない程、広範囲に響く声である。

『はーい、今から戦ってもらいまーす。標的は猫ちゃんと、その隣に居る赤ちゃんです』

 声は女性のものである。吾輩、この声に聞き覚えがあった。夢の中で会った、小説の神様だ。

「お知り合いの方ですか、吾輩さん」

 うめくような吾輩の反応を見て、不思議そうに龍之介くんが尋ねてくる。

「何だろうね……会ったのは一回だけなんだけれど」

『ここは夢の中なので、どんなにダメージを受けても危険は無いでーす。猫ちゃん達を倒した参加者の方には、ご褒美ほうびにエロエロ淫夢いんむを見せちゃいますので、頑張ってくださいね』

 うおぉー、と周囲からりのような雄叫おたけびが上がる。参加者とやらが喜んでいるらしい。

「エロエロ淫夢って何ですかね、吾輩さん」

「たぶん君は知らなくていい事だよ、龍之介くん」

 子供の前で、何を言っているのだろうかアレは。何してくれているのだ神様。

『公平をすために、猫ちゃん達にも武器は渡しますからね。では、ゲーム開始!』

 吾輩の近くに、木で出来た箱が出現した。この中に武器とやらが入っているのだろう。おそらくは銃などの、殺傷さっしょう道具が。それを龍之介くんの前で使えというのだろうか。

「……この箱はけない。大丈夫だよ、龍之介くんの事は吾輩が守る」

「吾輩さん……」

 何かを言おうとして、龍之介くんは言葉を止めた。

「移動しよう。このまま敵の攻撃を待っていたら、事態が悪くなるだけだ。いておいで」
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