短編集「つばなれまえ」

あおみなみ

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栗林の見える部屋 マミちゃんにとっての「銀の匙」は、緑と紫のペンでした。

工夫

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 最初は絵を描いて遊びました。
「緑と紫」という、スーパーのほうれん草と結束テープみたいな組み合わせのペンですが、チラシの裏にいろいろと描いていました。

 人の顔を描くときは、顔の輪郭を緑にして髪の毛を紫にしたり、その逆にしたり、いろいろと試してみました。
 家族、友達、園の先生などなど、思いつくままに描いてみると、不思議な話ですが、顔が緑で髪が紫かその逆か、描く前に、自分の中でイメージが湧いてくるのです。目、鼻、口、うまく説明はできないのですが、何色で描くべきか、その場でぱっと判断できました。マミちゃんがその言葉を知っていたら、「しっくりくる」と言っていたことでしょう。

 もちろん単色で全部描くこともありました。
 同じ「たちばな組」で仲よしの、ちょっと大人っぽいエミちゃんは、紫一色が似合うと思いました。
 意地悪なヤスシ君を全部緑色で描いたら、何だかカッパみたいに憎めない顔になって、マミちゃんは自分で描いた絵を見て笑ってしまいました。

◇◇◇

 絵を描くのも飽きて、次に漫画を読むことにしました。
 マミちゃんはひらがなは読めたし、その漫画は全ての漢字にルビが振ってあるので、読むだけは読むことができますが、意味の分からない言葉もたくさんあります。
 時々親戚のお姉さんが見せてくれる『のぞみ』とか『月刊フレンズ』みたいなきれいな少女漫画ではなく、少年漫画でした。
 絵は汚い(とマミちゃんの目には映りました)し、怖い顔をした男の人が誰かを殴ったり、ちょっとエッチなシーンがあったりして、マミちゃんはあんまり読みたくないなと思ってすぐに閉じました。

 雑誌を閉じると、あくびがでて、知らずにまぶたも落ちてきました

「…ちゃん。マミちゃん…」
「ん…」

 つい転寝をしていたら、おばあちゃんがマミちゃんの肩を揺すり、名前を呼んでいました。

「終わったよ。おうちに帰ろうね」
「終わった?何が?」
「おしごと」

 外はすっかり暗くなっていて、おばあちゃんがつけたらしく、部屋には電気がついていました。
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