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十月の転校生 探偵志望だった同級生の話
唯一の接点
しおりを挟むその日私が図書委員の仕事を終えた後、昇降口で渡里君と会った。
数時間前の一件があったので、「ぷいっ」とされてしまったけれど、そこで思い切って話しかけてみた。
「あの、さっき描いてたあの絵、『探偵物語』の工藤俊作だよね?ドラマの」
渡里君はそこで目を丸くして私の顔を見た。
「分かったの?」
「すぐ分かった。上手だったもん」
モジャ髪、帽子、派手なシャツという「記号」で分かっただけで、顔がそっくりに描けていたわけではないけれど、上手は上手だった。
渡里君はまた顔を真っ赤にしたけれど、うれしそうに「そんなこと、初めて言われた」とも言った。
それ以降、渡里君と私は急接近――したわけではない。何しろ人見知り同士だし、そこはそうそう簡単に改まるものではないのだ。
ただ渡里君にしてみると、私は転校先で初めてまともに口を利いたクラスメートだったようで、誰かに何かを聞かなければいけないときは、真っ先に私に質問してくるようになったし、機会があると何となく口を利くようにはなった。
人見知り男子のくせに女子にそうそう話しかけられるものか?という疑問を持つ方もおいでだろうが、人見知りというのは、異性だろうが同性だろうが、話し慣れていないものに対しては構えるものだから、そこはあまり関係ない(というか、関係ないというタイプもいる)のだ。
「あーっ、渡里のやつ女子に話しかけてる。ナンパだナンパ」みたいに言うお調子者には、カスミちゃんタイプが「男子、うるさいよっ」と一喝してくれるし、不思議とからかわれることもあまりなかった。
時々「付き合っているの?」と聞いてくる女子がいたけれど、「けっこう話が合うだけだよ」と言うと、それ以上は追及されなかった。陰キャ同士の会話には、カケラも興味がなかったのだろう。
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