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カフェオレボウル【千弦と聡二】
種明かしまで、あと少し?【終】
しおりを挟む【聡二】
3月1日にひっそりと上梓された俺の新刊。
名入れのためと称して、フルネームを漢字で教えてもらえたのもラッキーだった。
「佐倉千弦」というらしい。
堅い字面だが、誠実そうですっきりした、とてもいい名前だと思う。
本当ならば、千弦が来てくれたらその場でサインして渡したいところだが、「ふざけないで!」と言われそうな気もする。
あらかじめ日付、サイン、そしてメッセージを書き入れて来店を待つと、彼女は7日に来てくれた。
「お誕生日おめでとう。約束の本だよ」
そう言いながら、いつものカフェオレボウルと一緒に差し出すと、チヅルは目を丸くした。
「これ、出たばかりの新刊じゃないですか!」
「せっかくのプレゼントだし、新しい方がいいと思って」
「ありがとうございます!大切に読みますね」
メッセージは少し悩んだが、『いつか君が気づいてくれたら』と括弧でくくって入れた。
一応そういうタイトルの小説も出しているので、そちらの意味に取るだろうが、もちろんそうではない。
常連の増田さん(近所の花屋の若奥さん)が来店し、チヅルの方をちらっと見て、席に着くなり「カフェオレをちょうだい」と言いながらカウンターに着いた。
「カフェオレ?珍しいね」
「だって、あのボウル素敵なんだもん」
目線の様子からすると、千弦が両手で包んでいるカフェオレボウルを見て、自分もカフェオレにしようと思ったらしい。
が、当然増田さんに出すのは全く別の、白いカフェオレボウルだった。
「え、あれ?白?」
「あ、あれはその――ひとつしかなくて」
「そうなの?ちょっとがっかり。まあ、マスターのは何でもおいしいからいいけどね」
「いつもごひいきにありがとうございます。先日ご主人も見えましたよ」
「あいつすーぐサボるから!この間の英明の卒業式のときも、バイトの子たちとてんてこ舞いだったのに」
◇◇◇
【千弦】
あのきれいな人、結婚してたのか――よかった!
やっぱりこのパステルブルーのボウル、きれいだな。
この間は「悲しい色」なんて言っていたのに、我ながら現金だけど。
これ、高いかな?
おうちでもこういうの使いたいから、どこで買ったか思い切って聞いちゃおうかな。
◇◇◇
【聡二】
カフェオレボウルについて、増田さんに深く追及されなくて助かった。
ほかの客には悪いが、やはりあれだけは千弦の長い指で包んでほしい。
今はそれを、ほんの少し遠くから見守るだけでいい。
【『カフェオレボウル』了】
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