指切りのない約束「4月第1週の日曜日、会えますか」

あおみなみ

文字の大きさ
1 / 4

どこか変わった女の子

しおりを挟む
 4月5日、日曜日。
 幸い天気に恵まれた。

 俺こと木下大智きのしたたいちは、高校入学祝いに買ってもらった一眼レフのデジタルカメラを携えて、市のはずれにある町合まちあい公園にやってきた。
 ここには立派な植物園やサボテン園(温室)があり、無料でいろいろ楽しめるので、植物をいろいろ撮ってみようと思ったのだ。

 特に植物が好きだったわけではないが、「このカメラは花などの接写もおすすめです」と言われ、俄然試してみたくなった。
 ただ、「レンズを別付けすれば」が前提のようで、買ってくれた父親は、パンフレットに載った各種レンズの金額を見て「ゲッ」という顔をして、
 『俺はカメラには詳しくないから、極めたいなら自分で勉強しろ。金もバイトでもするか、大人になるまで我慢するかだな』と、その先は丸投げという調子で言われた。

 カメラ本体は大した額ではないが、新高校生には高額だったので、本体を買ってくれただけでも感謝している。
 ただ、スマホよりもかしこまって「写真撮ってる」気分になれるアイテムとして欲しかっただけで、俺もそこまで本格的には考えていなかった。

◇◇◇

 この街は、日本でもどちらかというと北の方にあるから、例年、本格的な花見の季節というと4月中旬になる。
 それでも天気のいい日曜日ということもあり、家族連れやカップルの姿は目立った。
 地方紙で紹介されていた珍しいサボテンとか、桜の開花状況を見にきたりとか、どちらかというと目が上を向いている気がする。

 だから俺はあえて足元に目を落としてみた。
 詳しくはないので名前までは知らないが、雑草みたいなものでも、目を凝らして見ると、意外とかわいらしい花をつけている。

(あ、これは知ってるぞ。“スミレ”だ)

 それは公園できちんと管理しているわけではなく、飛び種か何かでテキトーに咲いてしまったらしい花だった。

 スミレと一口に言ってもいろいろある。
 それが「なにスミレ」なのかは知らないが、『地味だけど、結構きれいだな」というめちゃくちゃ素朴な感想を持って、俺はしゃがんでカメラを向けた。

 俺がアングルを変えながら、何枚かカシャカシャ撮っていると、「きれい…だよね…」という、なぜか息も絶え絶えの女の声がした。

「え? ああ…」
「私も…撮ろっかな…」

 声の主は、多分同い年ぐらいの少女だ。
 学校指定らしきジャージを着ていて、小さなリュックをしょっていた。
 息が上がっているのは走ってきたからだろうというのは、走りやすさそうな運動シューズを履いていることと、紅潮した顔からも分かる。

 少女は何枚か写真を撮ると、近くの花壇の縁石に腰を下ろして、リュックから取り出した水を飲んだ。呼吸も整ってきたようだ。

 自分は特にスポーツはしないからアレだけれど、それにしたって順番がおかしくないか? と思った。
 もし自分なら、まず呼吸を整えて、水を飲んでから写真を撮るだろう。
 スマホを適当に構えただけだったし、「まず写真」となる理由が分からない。

「あ、あのさ」

 初対面の子に自分から話しかけるなんて滅多にしないが、そういう疑問が湧いたことと、年齢が近そうであるという気楽さから、思わず声をかけていた。

「なあに?」
「何で写真撮ったの?」
「君だって撮ってたじゃない」
「俺は――写真撮りにきたから…」
「私は…あ、そうか。私は走りに来たんだった。確かに変だよね」
「いや、別に撮っちゃ悪いって意味じゃなくてさ…」

 少女は何か言いかけたけれど、俺の背後から聞こえてきた『あー、こんなところにいたのね』という女性の声に反応し、「あ、ごめんごめん。探した?」と答えながら、そちらに行ってしまった。

「ただ撮りたくなっちゃったから撮ったんだよ。じゃね」

 その一言だけを残して。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...