短編集『市井の人』

あおみなみ

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電話口でおやすみ

塾通いとぼーっとした姉

1980年代前半、とある田舎町。
部活をやめ、塾通いを始めた中2の「俺」に、俺の不在中にばかり同級生?から電話がかかってくる。
そのわけは。

***

 中学2年になってから、学習塾に行き始めた。

 もともと陸上部で割と部活人間だったんだが、3年生たちと合わなくて、ここまでしんどい思いをしてまで続けなくてもいいかなって心境になったので、やめた。
 部長もその他の3年生も、俺らが1年ときはそうでもなかったんだが、俺らの2年上の代が引退したあたりから、妙に先輩風吹かすかんじになったんだよね。
 ほかの連中は「あんなもんだろ?」って気にしてなかったんだけど、俺はいちいち食ってかかるようになっちゃって、ナマイキだとみなされると、余計に当たりが強くなるって悪循環だ。

 仲間は「あと半年ガマンすれば、先輩たちも引退するし」「部活やってた方が受験に有利だぞ?」とか引き留めたけど。

 親にも同じようなこと言われたから、「じゃ、塾通う」って勢いで言ったら、急に「あらそう?なら…」って態度変えた。
 親って――っていうほどほかの家のことは知らないが、塾とか予備校とか大学とか、なぜか金かかることを子供に喜んでやらせるよね。

 ちょっと前見てたテレビで、人気アナウンサーの人が、「お子さんが塾に行きたいというから行かせてる、みたいなことを言う親御さんがいるけど、その親御さんはお子さんが『小遣い10万くれ』って言っても聞くんですかね」と言ってて、ちょっと笑った。
 俺の場合、“本当に”俺の希望なので、そりゃ母ちゃんは大喜びだし、親父も、「そうか。まあ頑張れ」と、ちょっと柔らかい顔で言った。
 塾行きたいってのは勢いだったけど、もともと勉強は嫌いじゃないし、積極的に行きたいって思える高校も決まっている。言われなくても頑張るよ。

◇◇◇

 ところで、俺には3歳年上の姉がいる。

 特に美人でも優等生でも不良でもなく、ぼーっとした女だ。意地の悪いことは言わないから、人間としては嫌いではない。
 ただ、友達の話とか聞いてると、「姉は横暴、妹は生意気」って毛嫌いするのが普通みたいで、「俺は結構好き」とは言いづらい。

 うちは両親共稼ぎだから、このぼーっとした帰宅部の姉が夕飯作って待っててくれるが、作るものにムラがある――と思ったら、うまいモンは大抵出来合いだって。
 用意してくれるだけありがたいから、多少アレでも文句言わずに食う。
 それに、「これうまいね」と言うと、「お肉屋さんで買ったからだね」とか言われて気まずくなるので、うまかろうがまずかろうが黙ってる。

▽▽

 両親ともに帰ってくるのは8時過ぎだ。
 両親の不在中電話に出るのも姉の役目だった。

 姉も電話出るときだけは、少しだけシャキッと「整っている」ように見える。言葉遣いも、声の調子もな。
 メモを取りながらうまくさばいているのを見ると、ちょっと感心する。人間誰でも取り柄ってあるもんだ、なんて。

 たまに友達から俺にかかってくる電話も取り次いでくれるが、必ず「今のって姉ちゃん?」とか聞かれる。「そうだよ」って答えると、「ふうん…あ、でさ…」って感じが話が進むので、「何でそれを聞いた?」とすら気にならない程度だった――あの日までは。
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