短編集「なくしもの」

あおみなみ

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パスケース

【終】ネット検索

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 アトリは入浴後、「定期」「落とし物」などのワードを、地名を添えて、いろいろ検索してみた。
 顔も知らぬ「アカリ」という少女が、パスケースをなくして困っていること、さらには見つかったことについて書き込んでいないだろうか?と、一通り調べてみたのだ。

 結果、SNSはやっていないのか、書き込んでいないのか、そういったところではめぼしい情報はなかった。
 代わりに、大きな塾の、アカリが住んでいると思われる街の教室で、アカリと同姓同名の少女の名前で書かれた合格体験記が見つかった。まあ高確率で本人だろう。そこにも顔写真はなかった。

 アカリの学校は伝統のある進学校だ。
 SNSで「〇〇小、△△中、▲▲高112期。●●大学(予定w)」などと、自撮り満載で個人情報を出している生徒も皆無ではないが、そうそうはいないのだろう。
 アカリもまた、(あのパスケースの趣味はなかなかぶっ飛んでいたが)まじめで堅実で、SNSで自己主張するタイプの少女ではなく、多分、高価なものをなくしておろおろして、親御さんにも叱られちゃったりしたんじゃないかな?などと、アトリは自分の経験に照らして想像してみた。

◇◇◇

 それでいて、落とし物や紛失物がSNSを通して持ち主に戻るという事例もあるようだ。
 見ず知らずだったであろう人たちが、「本当にありがとう。助かりました」「いえいえ」などの心温まるやりとりを見ることもある。人間の善意がいしずえになっているような、そんなさりげないやりとりがアトリは好きだ。

 アトリは、アカリが軽はずみに個人情報をさらすタイプでなかったことに安心しつつ、「でも「助かりました」とかひとこと言われたら、ちょっとうれしかったかも」と、ちらりと考えるなどしてみた。

【了】
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