「いち」の年 DECADE

あおみなみ

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あとがき&元ネタ集

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 『「いち」の年 DECADE』へのお立ち寄り、さらにはあとがきまで完走していただきまして、まことにありがとうございます。

 どれとは言いませんが、ごくごくごくごく一部だけ実際のエピソードを含みつつ、小・中学校で一緒だった愛すべき元クラスメートたちを思い出しながら、いろいろと妄想が膨らみました。

◇◇◇

今ふと思い出したのですが、中学時代の教育実習生で、隣県の短大で養護教諭(いわゆる保健室の先生)になるための勉強中だというおねーさんがいて、最初の挨拶でこんなことを言いました。

『今、短大に通っていますが、中学時代が一番楽しくて、光っていました。みんな平等で、努力すれば報われて(以下略)』

 「中学時代はみんな平等」のくだりに違和感を覚えたせいもあり、しつこく覚えています。

 彼女は地区で一番の女子高からその短大に行ったようです。私自身は彼女の通っていたところより1ランク下の女子高に行きましたが、大学受験期、彼女の通っていた短大が、うちの学校からでも割と楽に入れる(公募推薦枠が多く、いわゆる一般入試の偏差値も控え目)学校であることを知りました。

 邪推ですが、彼女は高校に入学後、「努力しても報われないこともある」ことを知ってしまったのでしょう。
 それ自体は別に青春の蹉跌みたいなものですからいいとして、という言葉を使った時点で、「私は難関校に入れた、入れない子は努力していない」とマウントを取っていると思われかねない、実は結構ヤバい挨拶だったんではと今になって思います。
 当時も、さすがに人には言いませんでしたが、「あの人中学時代、陰で結構嫌われていたんじゃないかな」と思いました。

◇◇◇

 私自身の中学時代はそんな感じで、全く光ってはいませんでしたが、今こうして小説書きの趣味ができてみると、なかなかのネタの宝庫です。そして、嫌いだったやつを絶対的な悪者にして溜飲を下げるには、今の私は年を取り過ぎてしまったんだなあと悟ります。
 大嫌いだった人ほどしっかり観察していたり、そもそもキャラ設定がつけやすい強烈な個性があったりするのですが、「でも、いいところもあったかも」とか、「自分の僻目のせいでそう思えるだけで、悪い子ではなかったかも」とシャバいことを考えてしまい、キャラが結構マイルドになります。
 年を取るとね、脂っこいものが受け付けなくなるんですよ、ええ。

◇◇◇

 話は変わりますが、アニメ『ハイスコアガール』4話で、とても印象に残っているシーンがあります。

***

ゲーム命の主人公・矢口春雄が、小さな駄菓子屋に寄り道し、吹雪の中を下校中の同級生・日高小春を店に入ってくるように誘います。
彼は「ストツーダッシュ(スリーじゃないんかい…)」をプレーするために駄菓子屋に来るのですが、そのあたりを熱く語られても全く理解できない小春。

小春:学校帰りにゲームなんていいの?
春雄:堅いかってぇこと言うなよ。むしろみんなは家帰って何やってんのか不思議で仕方ねえ。日高は家帰って毎日何やってんの?
小春:え…お母さんと『水戸黄門』の再放送見て、ニュース見て、お父さんのお店(酒販店)少し手伝って、勉強して…?」
春雄:ふうん。俺は家に帰る前も、帰った後も、ゲームばっかだ!(満面の笑み)
小春:威張ることなの?
春雄:なあ、ちょっとやってみるか?

***

 拙作中の「真面目っ子は娯楽が少ない」って、私自身が当時好きだった男子に言われて屈辱を覚えた言葉だったのですが、今なら「何が娯楽かは私が決める。ほっとけ!」とお返ししたいところです。
 そんな感じで、私は完全に上記の小春ちゃん側の人間でしたが、それはそれで結構楽しくやっていました。『ハイスコア…』の小春ちゃんは、自分の無趣味を少し気にしていたことと、やってみたら意外と素質があったこととで、結局ゲームにのめり込んでいきます。
 そしてこのシーンを見ると、なぜ小春ちゃんがその後春雄に惹かれるようになるかも理解できた気がしました。春雄はいい意味で「ゲームのことしか頭にない」ので、「つまんねえ」とか「それで生きてて楽しいか?」なんて失礼なことは言いません。
 自分が面白いと思っているものに触れていない人を「人生損してる」と言ったり、人が好きなものに「そんなのどこがいいの?」みたいなことは、割と軽い気持ちで言いがちではないでしょうか。それを「言わない」というだけでも、春雄はなかなかポイントが高いと思ったのです。

◇◇◇

話が脱線しまくりの上、結構長くなってしまったついでに、元ネタ補足も入れたいと思います。

◆プロローグより
○「1185いいハコって、ライブハウスかよ」
鷲崎健・浅沼晋太郎の『思春期が終わりません』より

〇事件は現場で起きたんじゃない」
『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)の青島俊作(織田裕二)の台詞「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」
しかし映画、もう26年も前だったんかい…(遠い目)

◆「花田君と応援旗」より
〇あのアニメーションのオープニング
『まんが日本昔ばなし』のオープニング。
実際のモチーフは松谷みよ子さんの『たつのこたろう』


◆「ふたつの授業」より
〇木曜日の特番
1973年4月~1994年3月に放送されていた『木曜スペシャル』
『元祖どっきりカメラ』『アメリカ横断ウルトラクイズ』などでおなじみで、超常現象や歴史ミステリー的なノンフィクション、大がかりな奇術などもよく放送されていました。ある意味、これが放送されていた当時のキッズの、ある種の情操教育に一役買っていたかもしれません。

〇イルカと漁民の話
実際には、アメリカの動物愛護団体のメンバーが、捕獲されたイルカを網を切って逃がした「壱岐イルカ事件(1980年2月29日)」についての文章だった可能性が高いのですが、確認できませんでした。
このときの担任が、成績の悪い生徒には暴言を吐く割に、妙なヒューマニズムを発揮し、最後に「イルカ派」についたのが、悪い意味で印象的でした。
ちなみに「花田君」のモデルになった男の子は「漁民派」で、援護射撃をしたのは全く別の女子で、「カナエちゃん」のモデルである子は「イルカ派」、私は「(漁民寄りの)どちらでもない」でした。


◆「おともだちから」より
〇ドラマ化されて大ヒットしたグルメ漫画の原作者
松重豊さん主演『孤独のグルメ』
谷口ジローさんが作画を担当した『孤独…』も大好きですが、泉雅之(原作の久住昌之さん+作画の泉晴紀さんのユニット)名義で出された『かっこいいスキヤキ』がまた傑作でした。


◆「アカリは20X1年にX3歳になる」より
エピソードタイトルは、1976年のアラン・タネール監督作『ジョナスは2000年に25才になる』のもじりです。
1991年、湾岸戦争、2001年、9.11同時多発テロ、2011年、東日本大震災、そして2021年――って、まるっきりベタな映画のあおりフレーズみたいに、末尾「1」の年に重大事件が起きています…。
ただいま現在2024年ですが、21年を振り返ってみると、感染症流行の真っただ中、1年遅れで2度目の東京オリンピックが開催されました。
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