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第10章 それぞれの「だいじ」
初めてのデート
しおりを挟む「あなたのためを思って言う」のは、「あなたが私の望むようにしてくれれば、私はあなたに優しくしていられるから、回り回ってあなたのため」という意味かもしれない。
***
結論から先に言うと、あの後いろいろと話し合った結果、レイのお母さんはしばらくご実家に戻るそうだ。
そこは東京ではなく、西日本のある県らしい。
レイは「いずれ離婚する可能性もあるけど、とにかく今は母さんに落ち着いてほしいから」と言っていた。
「あのね、レイ。私、全然気にしてないよ」
「…まつりちゃんは、優しいね」
そう言って笑う顔がちょっと寂しそう。
うちのママが飛び抜けてにぎやかな人だから、アレと比べるのは間違っているかもだけど、お母さんが家からいなくなっちゃうのは、やっぱり寂しいんだろう。
私は私で、レイに「あんなこと」を言わせてしまったことが心苦しい
「気にしてない」のも「傷ついてない」のもウソだけど、何となく私の傷がいえるのが一番早い気がしたので、とりあえずウソをついた。
ぼかして話しててもらちが明かないので、少し整理してお話ししたい。
レイがお母さんのだまし討ちに怒って、ひとりで片山に戻ってきた話はもうしたよね。
あれからレイは、勉強道具とか一切合切持って、夜の9時ぐらいまで我が家で過ごすようになった。
レイのお父さんが3目くらいに、「帰ってくるときは絶対に連絡すると約束させたから、もういいだろう?
ずっと桐野さんにご迷惑をかけるわけにはいかない」と言ったんだけど、うちの両親やお姉ちゃんも、レイ君なら何日いたって大歓迎なんて調子のいいことを言うし、レイも「もう母さんは信用できない」と言って、結局、新学期が始まるまで、日中だけは「うちの子」だった。
◇◇◇
そういう状況を優香には教えたんだけど、そうしたら喜多川君や日高君にも伝わったようだ。
優香と喜多川君は、私(俺)たちまでお邪魔するわけには…って言って、遊びにくることはなかったんだけど、日高君だけはしょっちゅう来るようになった。
レイが「君、なんでまつりちゃんの家知ってるんだよ?」と言った。
そういえば日高君が転校してきてから、みんながうちに集まることはなかったなと気づいた。
「うちで勉強しよう」と言っても、大抵はレイが「うちの方が広いから」って引っ張っていっちゃったし。
「幼馴染ってことは近所だろ?斉木んちは知ってんだから、近所で表札探すだけじゃん。斉木って意外とバカ?」
日高君、また挑発的なことを…
日高君は日高君で社交性が高いので、うちの家族とはすぐ仲良くなった。
ママのおやつを大絶賛し、「あーあ、俺もまつりんちの子になりてー」などと言って、ママやお姉ちゃんに大うけだったし。
2時頃やってきて5時頃帰る感じだったけど、その間、勉強していても、ゲームをしていても、レイはちょっと不機嫌だった。
◇◇◇
新学期が明後日からという日、朝ごはん後にいつものようにうちに来たレイが言った。
「まつりちゃん、宿題も全部終わったし、今日は1日出かけない?今日は何でもおごるし、何でも付き合うから、いろいろリクエストして」
いつもみたいにハンバーガーを食べたり、図書館やプラネタリウムに行ったりして、できるだけ安く済ませるつもりだったけど、いつもよりおしゃれなカフェに入っちゃうし、ご飯も1人2,000円はかかりそうなところに入るし(中学生にはぜいたくな金額だと思わない?)、気付けばぱぱっと支払い済まされるし、せめて自分の分だけ出そうとしても、「いいから、いいから」と受け取らない。
かわいい雑貨屋さんに連れていかれ、「欲しいのがあったら、何でも買ってあげるよ」と言われたけど、これはさすがに「誕生日とかじゃないんだから、もらえないよ」って断った。
おごられっ放しは恐縮しちゃうけど、「このところまつりちゃんの家にご厄介になっているんだから、そのお礼だよ。桐野家を代表して受け取ってよ」だって。
私も何だかんだで、このところ少し不安定に見えたレイがずっと笑ってくれるのはうれしかった。
◇◇◇
私は鈍感系ヒロインなんかじゃない。
レイが片山に帰りたかった一番の理由が「私」だってことは分かってる。
明日香さんがレイをからかう様子から見ても、「そういうこと」なんだろう。
日高君が自分に興味を示しているのは、転校初日にいろいろ教えたからって思い込もうとしているけれど、それも無理がある。
あのレイがゆとりをなくし、ちょっと嫌な言葉を日高君に言ったりしているのは、要するに危機感の表れだろう。
今日の1日外出だって、日高君阻止の意図があるのは分かっている。
でもだからといって、自分にそんなに自信があるわけじゃない。
レイのことを好きな子たちに、すれ違いざまにひどいことを言われたとき、優香が「ブスって言う方がブスなんだから気にするな」って励ましてくれたことがあった。
そりゃ自分でも、ひと様が顔を背けたくなるような顔ではないと思うけど、チビだし、成績も不安定だし、特に取り柄もない。
しかも幼馴染ってだけで、今日だってあのレイをひとり占めしているんだから、見る人が見たらナニサマよ!って話だろう。
レイはまだ中学生で、世界が狭いだけ。もっといろいろな人と接することがあれば、その中から一番星みたいな最高の女の子を見つけるに決まってる。
だから、一緒にいられるのは中学生までだって諦めてる。
諦めてる、って言葉を使う程度には、私だってレイのこと好きだけどね。
◇◇◇
おいしいものを食べたり、きれいなものを見たりして、外出はとても楽しかったけれど、家に帰ると居間にレイのママがいた。
「母さん…」
「レイ、この間はごめんなさいね。私、まつりちゃんと話したいことがあるの。先に家に戻っていなさい」
「いや、オレもここにいる。それとも、聞かれてまずいような話をまつりちゃんにするつもりなの?」
「…そうね。考えてみたら、2人そろって聞いてもらったほうがいいかも」
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