2 / 7
キュウリグサ
しおりを挟むあれはたしか、実家の庭の草抜きを手伝いにいったときだった。
3月のうららかな日で、私こと檜千弦はまだうら若き20代。当時の姓は「桜井」だった。
4歳になる前くらいだった芽久美は、「わたしもやるー」と言いながら、おばあちゃんの大きな園芸用サンダルに足を入れ、よちよち歩み寄ってきた。
「ママァ、このお花かわいい!」
「花…? うわ、随分小さいね?」
よく目を凝らさないと、それが花であることが認識できないほど小さい。直径はせいぜい3ミリ程度だと思われる。
「でも形はワスレナグサそっくり。かわいいね」
「ワスレナグサ?」
「このお花を大きくしたみたいな花だよ。色も似てる。何て花だろう?」
軍手を脱いで、エプロンのポケットに入れていた携帯を取り出して調べようとしたら、母が「それはキュウリグサだね」と教えてくれた。
「小さい子はそういうのに興味持つからね。あんたもライターなら、そのくらい知っときなさい」
「へいへい」
そこで「ライターらしく」いろいろ調べてみたら、ワスレナグサと同じムラサキ科の植物で、葉をもむとキュウリのようなにおいがすることが名前の由来だということだ。
地方によってはタビラコ(田平子)と呼ぶこともあるらしいけれど、こちらは「コオニタビラコ」「ホトケノザ」などととも呼ばれるキク科の植物に使う方がポピュラーな名前らしい。
ややこしいけれど、「ほうじ茶」のことを「番茶」と呼ぶ人もいる、そんな感じの呼称なのかな。
芽久美はキュウリグサを1本だけ手に取ってちぎるように抜くと、それをじっと見て、「ワスレ…ワスレ…?」とブツブツ言い出した。
「ワスレナグ?」
「それ。どういうお花か見たい」
「うーん…」
母はプランターや植木鉢でさまざまな植物を育ててはいたが、たしかワスレナグサはなかった。
とりあえず携帯で画像検索をして写真を見せると、「わー、きれー。そっくりー」と大はしゃぎだった。
こうなると、ちょうどいい季節だし、ホームセンターの園芸コーナーにでも連れていって、実物も見せてあげたくなる。
***
「かわいいお花。ちいちゃんと、メグみたいね」
智也さん(亡夫)は私のことを、名前の千弦から取って「ちい」と呼んでいたので、当時は芽久美もふざけて私をそう呼ぶことがあった。
悪意のある呼び方ではないので本当は構わないのだが、一応けじめはつけなければと思い、「ママのことは、ママかおかあさんって言おうね」と注意した。
すると、「はあい、ゴメンナサイ」とぺこっとするしぐさが私の両親に大うけだった。そこで調子に乗ってまた「ちいちゃん」と呼び、私に同じことを注意され、謝る――を3度ほど故意に繰り返した。
謝りつつも「ちいちゃん」と呼ぶ顔が、いっちょ前に誘い受けのような表情なので(考え過ぎかな)、私としてもノってしまう。
子供って、本当にこういうの好きよね。娯楽の一環としてやっている感じ。
「あんただって小さい頃は、こんな感じだったわよ~」と母は言うが、はてさて、全く覚えがない。
そして、「形が似ている大きいものと小さいもの」を見ると「ちいちゃんとメグみたい」というのも、マイブーム(古いか)的にはまっているようだ。
おやつに100円ショップで買った「タマゴボーロ」の袋に、大きいひよこと小さいひよこの絵が描いてあったのを見たときも、「これ、ママとメグ!」とか、「こっちがちいちゃんで…」とか言って大はしゃぎだったけど、「そもそもひよこは大きくなったらニワトリになるのでは…」と突っ込むのは野暮な行為だろうか。
0
あなたにおすすめの小説
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる