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妻は1時間弱で帰ってきた――と思う。「買いもしないもの見てるだけで、時間食っちゃった」と苦笑いしつつ、生活雑貨のストック箱に、洗剤と柔軟剤の詰め替え用を各2本入れた。ほかにもちょっとしたおやつやつまみも買ったらしい。
「そういえば、スマホ忘れちゃったから電子マネー使えなくて、現金で払ったよ」
「あ――そうか。そういや忘れてたね」
渡そうと思って追いかけたけど……と言いかけたが、何となく言うのをためらった。
妻は俺のそんな様子を気にするでもなく、こんな話を始めた。
「あとね、行く途中で偶然、高校時代の同級生に会ったの」
「高校……?」
妻は女子高校の出身(卒アル確認済み)で、大学で俺と知り合った。
俺が見ていないのいいことに、うそをついているのか?
「友達と温泉行く」といってフリン旅行するたぐいのごまかしか?
俺の頭はこのように大分とっちらかっているので、とりあえず黙って聞くことにした。
「もともとこの辺に実家があるのは知ってたけど、たまたま帰ってきてたみたいで」
「へえ、偶然だな。日曜だからか?」
「そうかもね。ご主人と一緒に帰ってきてたみたい」
「ご主人……?」
「そう。でもまだ起きてこないから、一人で100均行くことにしたんだって。あの店、彼女が家を出てからできたみたいで興味あったって」
「そうなんだ……」
さらに分かったこと。
妻は会計の段階でスマホがないことに気付いたが、本当は買い物が終わってから、近くのドーナツショップで元同級生とお茶を飲んでから帰るつもりだったらしい。
しかしスマホがないのは不安なので、とりあえず帰ることにしたということだ。
「じゃ、今からまた出かけるの?」
「ううん。ご主人ももう起きてるかもしれないし、邪魔しちゃ悪いよ」
「だよな……」
「そのうちまたチャンスあるだろうしね。仲は悪くなかったし」
「仲は悪くなかったし」ということは、大親友というわけでもない。
そして、この先全く会えなくなるような状況でもないということか。
「変なこと聞くけど……」
「ん?」
「その人ってすごく背高かったりする?」
ちなみに妻の身長は160cm弱ってところだ。
「まあ、女性にしちゃ高いかな。165くらいじゃない?」
「ああ、なるほど」
5cmそこそこだから、極端な差はない。
せいぜいどちらが大きいかが一目瞭然って程度だろう。
男性並みに高く思えたのは、俺に変な先入観がかかっていたからかもしれない。
「それがどうしたの?」
「いや、特にアレだけど、ちょっと気になって」
「変なのー」
妻はいつもの自然体の「ふふっ」という笑顔で、非難するでもバカにするでもなく、そう言っただけだ。
◇◇◇
「そうそう、彼女ね、高校時代から変な特技があるのよ」
「どんな?」
「妊娠した人が何となく分かるんだって。お姉さんとか……先輩とかのも言い当てて、今も久々に会う人に『ひょっとしておめでた?』とか言って、びっくりされるって」
まだ病院に行く前どころか検査薬を使う前のタイミングで、後々本人たちから「何で分かったの?」と連絡が来たりするそうだ。
高校時代から、とか、ややタメがあっての「先輩」というのは少々気になるが、そこはさておこう。
「あの、ひょっとして……」
「うん。私もそろそろ検査薬使おうかなと思ってたタイミングだったからね……」
妻はそこで、少し恥ずかしそうにうつむいた。
「あー……その……うん、そうだといいな」
この「あー」は、喜びと納得の「AH」だろう。俺は心地よいくすぐったさに包まれる感覚だった。
「うん!」
妻は元気いっぱいにそう言って、うれしそうに顔を上げた。
【了】
「そういえば、スマホ忘れちゃったから電子マネー使えなくて、現金で払ったよ」
「あ――そうか。そういや忘れてたね」
渡そうと思って追いかけたけど……と言いかけたが、何となく言うのをためらった。
妻は俺のそんな様子を気にするでもなく、こんな話を始めた。
「あとね、行く途中で偶然、高校時代の同級生に会ったの」
「高校……?」
妻は女子高校の出身(卒アル確認済み)で、大学で俺と知り合った。
俺が見ていないのいいことに、うそをついているのか?
「友達と温泉行く」といってフリン旅行するたぐいのごまかしか?
俺の頭はこのように大分とっちらかっているので、とりあえず黙って聞くことにした。
「もともとこの辺に実家があるのは知ってたけど、たまたま帰ってきてたみたいで」
「へえ、偶然だな。日曜だからか?」
「そうかもね。ご主人と一緒に帰ってきてたみたい」
「ご主人……?」
「そう。でもまだ起きてこないから、一人で100均行くことにしたんだって。あの店、彼女が家を出てからできたみたいで興味あったって」
「そうなんだ……」
さらに分かったこと。
妻は会計の段階でスマホがないことに気付いたが、本当は買い物が終わってから、近くのドーナツショップで元同級生とお茶を飲んでから帰るつもりだったらしい。
しかしスマホがないのは不安なので、とりあえず帰ることにしたということだ。
「じゃ、今からまた出かけるの?」
「ううん。ご主人ももう起きてるかもしれないし、邪魔しちゃ悪いよ」
「だよな……」
「そのうちまたチャンスあるだろうしね。仲は悪くなかったし」
「仲は悪くなかったし」ということは、大親友というわけでもない。
そして、この先全く会えなくなるような状況でもないということか。
「変なこと聞くけど……」
「ん?」
「その人ってすごく背高かったりする?」
ちなみに妻の身長は160cm弱ってところだ。
「まあ、女性にしちゃ高いかな。165くらいじゃない?」
「ああ、なるほど」
5cmそこそこだから、極端な差はない。
せいぜいどちらが大きいかが一目瞭然って程度だろう。
男性並みに高く思えたのは、俺に変な先入観がかかっていたからかもしれない。
「それがどうしたの?」
「いや、特にアレだけど、ちょっと気になって」
「変なのー」
妻はいつもの自然体の「ふふっ」という笑顔で、非難するでもバカにするでもなく、そう言っただけだ。
◇◇◇
「そうそう、彼女ね、高校時代から変な特技があるのよ」
「どんな?」
「妊娠した人が何となく分かるんだって。お姉さんとか……先輩とかのも言い当てて、今も久々に会う人に『ひょっとしておめでた?』とか言って、びっくりされるって」
まだ病院に行く前どころか検査薬を使う前のタイミングで、後々本人たちから「何で分かったの?」と連絡が来たりするそうだ。
高校時代から、とか、ややタメがあっての「先輩」というのは少々気になるが、そこはさておこう。
「あの、ひょっとして……」
「うん。私もそろそろ検査薬使おうかなと思ってたタイミングだったからね……」
妻はそこで、少し恥ずかしそうにうつむいた。
「あー……その……うん、そうだといいな」
この「あー」は、喜びと納得の「AH」だろう。俺は心地よいくすぐったさに包まれる感覚だった。
「うん!」
妻は元気いっぱいにそう言って、うれしそうに顔を上げた。
【了】
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