短編集「めおと」

あおみなみ

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遅刻します

盆休み

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 人口25万に少し欠ける程度だが、有名企業も多数擁する瀬瑞市は、税収的にはまずまず潤っている――はずだ。

 が、それとは無関係に、JRでメインの駅である瀬瑞駅前は、再開発の話を聞くような聞かないような程度で、いまひとつ垢ぬけないというか、発展が見られない。
 駅前には、人気ブランドのテナントが多数入っている10階建てのデパート「丸和まるわ」と、8階建ての立派な建物で「厳密にはデパートではないがデパートのように見えるスーパー」という業態の「サンサンストア」があり、何となく繁華街らしい体裁を保っていた。

 須谷ミスズは半年前に出産をしたこともあり、丸和内のブランドショップより、サンサンストアのベビー用品店や食料品、生活財の売り場によく足を運んでいた。

 といっても、「どちらかといえば」が頭につく程度の頻度である。
 彼女は市の教育委員会に勤務しているが、市役所は瀬瑞駅からバスで2つ離れたところにあり、住まいは駅とは逆方向にバスで20分程度のところだったため、駅前の商業施設に寄るのが難しいのだ。

 そんなミスズではあったが、ひょんなことから4日連続で「サンサンストアに寄ってから出勤」しなければならない事情ができてしまった。

◇◇◇

 市役所というところは、一斉に盆休みを取ることはないが、親戚づきあいなどの関係で、いわゆる8月盆の時期に休暇を取る職員は多い。
 ミスズと夫はあまりそういうしがらみがないので、他の職員とはずらし、ともに8月末に夏休暇を取ることにした――のはいいのだが、通っていた保育園が私立だったため、盆の時期に一斉に休むという。

 瀬瑞の公立保育園は1歳からしか入園できないため、とりあえず認可園の中では最も早い「生後7週目」から預かってくれるということで、愛育会あいいくかいめばえ保育園に入園の希望を出し、受理されて喜んだときは、こんな事態は想定していなかった。

 保育園スタッフにも休暇が必要だとか、園児の保護者でその時期休みを取る者が多いからという理屈は分かるが、そのあおりが全部自分たちに来たようで、ミスズは正直、愉快ではなかった。

「あそこってキリスト教会で経営しているんでしょ?何でお盆に休むかね…」
「うん、まあ、言いたいことは分かる…けど…」

 カズヒコは常々、日本のぬるい宗教観というか、「お寺さんがやっている幼稚園で住職がサンタクロースを務める」みたいな逸話が大好きだった。ミスズもそういった話には好感を持つ方だが、それはそれ、これはこれだ。

 普段は保育園を信頼しているし感謝もしている。また、もともと人のいい2人は、保育園をそう悪しざまに言うことはないが、やはり不満は募った。

 こういうときは大抵、ミスズの両親が協力してくれていたが、折あしく、その時期は旅行に行く予定だという。「旅行キャンセルしようか?」などと母親に言われて慌てて制したくらいだった。

 カズヒコの実家は父親の1人世帯の上、そもそもあまり折り合いがよくないので、協力は頼めない。

◇◇◇

 そんな中、代替の保育園としてミスズがやっと見つけたのが、「サンサンストア」の最上階にあるフィットネスクラブの託児施設だった。
 クラブの会員よりは割り増しになるものの、託児所だけ入会することもでき、そこそこの金額で預かってくれるらしい。見学したところ、清潔でスタッフも感じがよく、環境的にはまあまあに思えた。

「ここ悪くないと思うんだけど、どうかな。帰りに買い物もできるし」
「そうだな。ただ、朝だけは時間休とらないと行けないか…」
「ま、ネックはそこだけだよね」

 フィットネスクラブを含むサンサンストアのオープンが10時なので、朝そこに寄ってからの出勤となると、2時間程度の時間休を取らなければ間に合わない。
 朝と帰りの前後45分、育児休暇を取っているミスズでも、1時間の遅刻は免れない。
 お互いの職場で上司や同僚に相談し、「ま、割とまったりした時期だから、それくらいはいいんじゃない?」と言ってもらえたので、お言葉に甘えることにはしたが、ゆとりがないことには変わりなかった。

 じゃんけんの結果、初日と3日目はミスズ、2日目と4日目にカズヒコがマリナを連れていくことになった。
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