短編集「めおと」

あおみなみ

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花婚式 4th Wedding Anniversary

7:00

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 時間は大分さかのぼるが。

 今朝、非常にラフに髪をまとめていたら、恵介に「だらしないなあ」と、毛先を軽く引っ張られた。

「やめてよ、結構痛いんだから」
「ごめんごめん。でもさ、最近のあずみ、どうしてそんなハンパな頭ばっかりなの?」
「ハンパとは?」
「前はさ、もっとこう、ラフだけど工夫した感じのお団子だったじゃん。あれめっちゃかわいくて…」
「あそこまでするのは結構手間かかるんだよ。いいじゃん、髪まとめてるだけでもマシって思ってよ」

 私はもともとショートヘアだったが、恵介が結婚前、「あずみはロングの方がもっと似合うと思うけどなあ」と言った後、試しに伸ばし出したら満更でもなく、ってな感じで、今の「背中の半分くらいのところ」のロングで落ち着いている。
 で、切ろうと思ったらいつでも切れるなんて思っていたら、このご時世で美容院にも行きづらくなってしまった。 

「そうだけどさ…子供いるわけじゃないんだから、もっと自分に手をかけてもいいんじゃない?」
「…何それ?子供いない女は無造作ヘアも自由にできないわけ?」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて…」

 そこで黙るなよ!じゃ、どういう意味から説明しろよ!――と私も何となく言いづらい。

「…行ってきます」
「……行ってらっしゃい」

 今日は「お見送りのキス」はない。
 私はバイトが休みなので、家事をゆっくりやって、動画配信でめぼしい映画でも探してみるくらいしか予定がない。

 結婚4年目の記念日は「花婚式はなこんしき」というキラキラした名前がついていることは、少し前に調べて知った。
 今日がその花婚式なのに。

◇◇◇

 私たちには子供がいないが、意識して作っていないわけではない。できないのだ。
 定義はいろいろあるみたいだけど、「避妊しない状態で1年」妊娠しない状態だと、不妊とされるようだ。
 かといって、時間もお金も労力もかかると考えると、なかなか不妊治療にも踏み切れない。

「子供なんていなくたって、2人で仲よく楽しく暮らしていければいいよ」
「少子化解決に貢献できない分は、ほかで頑張ればいい」
「気にしない、気にしない」
 結婚して間もなく丸3年ぐらいの頃から、恵介のこういった言葉がグサグサ刺さるようになってきた。
 「気にしない」って口に出してりゃ世話ないじゃん。どうして普通にしてくれないの?という思いが強くなってきた。

 また、不妊治療に積極的になれない理由はもう一つ――というか、これが一番重要なのだが――あった。
 要するに「犯人捜し」をしたくないのだ。
 どちらにも問題がなかったとしても、なかなか妊娠しにくいカップルというのも一定数いるらしいが、それはそれでモヤモヤが残る。

 そして、どちらかに問題があったら?
 自分に問題があったら恵介に申し訳ない。
 恵介は恵介で、自分側に問題があったら、私以上に辛い思いをするかもしれない。
 自分も傷つきたくない、彼を傷つけたくないとなると、「できるときはできる」程度の待ちの姿勢でいるしかなく、結婚4年となると、諦めムードも漂い始めてきた。

 私は恵介が好きだから結婚した。
 そこにはあんまり打算はなかったと思う。

 恵介も、打算があったら私なんか選ばなかったろう。
 美人でもなければ有力者の娘でもなく、稼げる資格があるわけでもない。
 自慢ではないが、私と結婚して得られる特典なんて、ほとんどなかったはずだから。

 それでいて、「子供いないんだから」の一言に、すねて傷ついて見せたりもする(いや、実際傷ついたけど)。
 言わんとするところは十分分かる。「子供の世話をしなくていい分、いろいろできるでしょ」程度なのだろう。
 世の中、子供がいたってパリッとした身なりで仕事と家事・育児を要領よく回している女性だってたくさんいる。それは個人の資質の問題もあるけれど、自分のための時間は、子供がいる女性より取りやすいのはたしかだろう。

 ましてや恵介は、おおらかでこだわりのない性格なので、私が寝坊してしまっても、「朝のもなかなか乙でせう。」などと、某コミックのヒロインの物まねをしながらカップラーメンすすって、「じゃね」と言いながら、とんこつラーメンの口で私のほほにキスして出勤するほどだ。

 かなり大事に――というか甘やかされているくせに、無神経な一言にかみついたりして、とんだ悪妻じゃないか。

 花婚式とかチャラチャラしたことを言う前に、やるべきことがあるようだ。
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