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 出張先から戻って、アパートに帰ってくると、キッチンからマリアが顔をのぞかせた。

「あら、ミサキ。久しぶりね」

「マリア、久しぶり。今、出張先から帰ってきたんだ」

「お帰り。疲れたでしょ」

「そうね。強行突破だったから、ちょっと疲れたかな。それより、立ち退きの件聞いた?」

「聞いたわ。実はね、彼氏の家に住むことになったの」

 マリアは幸せそうに左手の薬指の指輪を見せた。

「えっ! 結婚するの?」

「そう。暖房とか立ち退きの件で相談している間に、もう結婚しよう、という話になって。こんなに悪いことが続くってことは、別の道に行った方がいいっていうお告げなのかな、と思ってね」

「よかったね! マリア。おめでとう!」

「ありがとう、ミサキ。遊びに来てね」

「もちろん、行く行く!」

 マリアが結婚するのは嬉しかったが、一緒に住めなくなるのが悲しかった。

「いつ出るの?」

「一週間後よ」

「えっ、そんなにすぐ! 悲しいな。じゃあ、出る前にお別れ会ってことで夕飯一緒に食べよう。私、日本食作る」

「いいわね。スシ食べてみたいわ」

「おっけー。スシナイトにしよう!」

「楽しみね」

 
 数日後、ニューヨークにある食材で手巻き寿司を作って、二人で食べながら夜中まで話続けた。

 そして、マリアが出ていく日。

 玄関の前でハグをする。泣いている私の頭を優しくさすってくれながら、マリアは「一生のお別れじゃないんだから、大丈夫よ」と言ってウィンクをした。

 優しそうな彼氏がマリアのスーツケースの取っ手をつかむと、マリアは私に手を振って、二人は玄関から出て行った。


 独りぼっちになった私は、自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げて、物件探しを始めた。

 二時間程探したが、一つも見つからなかった。既にカルロスが言っていた二週間の猶予期間は過ぎていた。
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