チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

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1章

第5話 決闘の結末と最強の騎士

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「何を言っている?」

 心底理解できないという風に問いかけて来るグンザークがおかしくて、俺は笑いが止まらない。

「アンタは俺が出した雷槍……何に使ったと思う?」

「攻撃を当てるためのフェイントであろう?」

「違うな、全くの的外れだ……」

 そう言うと同時に俺の前方――グンザークの背後が、轟音と共に弾け飛ぶ。

「ノックしてたのさ、ずっとな」

 ニヤリと俺が笑うのと、ゲームで聞きなれたあの人の声が聞こえたのは同時だった。

 吹き飛んだ壁の先――白煙が晴れていくと、そこには研究員達が倒れていた。

「ったく、邪魔さえしなけりゃぶっ飛ばされずに済んだのによ」

「はぁ……あいからず貴方はガサツですね、ジェイ」

「いや、それは言いっこ無しっすよ団長」

 そんな軽口と共に現れたのは――空の様に青い甲冑に身を包んだ2人の男達。

「……なんだ、キサマらは」

 そう言ってグンザークが彼らに斧を向けるが……男達の方は、グンザークでは無くオレたちを見て目を見開き、同時に2つの魔力が膨れ上がるのを感じた。

「中で騒がしい音がしてると聞いて、急いで研究施設に押し入ってみたら、ガキどもがボロ雑巾になってる。言い訳をするつもりはねぇよな?」

 腰に下げた刀に手をかける男――ジェイを、横の団長と呼ばれた男が手で押さえた。

「……ジェイ、貴方は彼らの保護を」

「団長は?」

「私は、アレを捕らえます」

 そう言って世界最強の男が、腰に帯びた剣に手をかけた。

 ソレを見て、グンザークが構える。

「その青い甲冑……キサマら、天空騎士団か?」

「ええ。そして、貴方を捕らえる騎士団です」

「ぬかせっ!」

 魔力を膨れ上がらせ、斧を構えるグンザークと、あくまで自然体の騎士団長……その交錯は一瞬だった。

「死ねっ!」

 声と共に上段から打ち出されたグンザークの一撃だったが、ソレが地面に付くよりも早くに決着はついた。

「がはっ……」

 抜き手さえ見えない団長の一撃が確実に捕らえ、鮮血と共にグンザークを地面に沈ませる。

 戦うとか、抵抗とか、全てを置き去りにした無慈悲な一撃。

 その一撃を見て、オレは……。

「相変わらず団長はおっかねぇな……おい坊主達、無事か? っておい、誰か担架! 担架もってこい!」

 そう叫んでいる男の姿を最後に、オレの意識は底へと落ちていった。

◇◇◇

 ふわふわとまどろむ意識の中で、ふと夢の中で起きた事を思い返す。

 部屋でゲームをプレイしていたら、ゲーム内のキャラに出会った……そんな荒唐無稽な夢。

 だが結局、俺の力だけでは彼女たちを救う事はできず、最終的には他力本願になってしまった、そんな夢。

 ……だが俺は、彼女たちの運命を変えられたかもしれない事に満足する。

 意識が途切れる直前に見た男たち――天空騎士団の彼らに任せておけば、ナナは当然の事、ミヨコさんや……もしかしたら他の子どもたちも助かっているかもしれない。

 そんな、これまでエンブレで成し遂げられなかった小さな幸せが、成し遂げられたのかも知れないと思うと、胸には充足感が満ちる。

 寂しくない訳では無い、ただそんな感情よりも幸せな気持ちの方が上回っていて。

 仮に最後に願いが叶うのならば……。



――。



 そう、願いを残してオレの意識は、より深くへ…………。



「えいっ!」

「いったああああああ!」

 全身に電流の様に走った痛みのせいで、まどろんでいた意識が吹き飛び、脇腹を始点とした激痛は、後をひいていた。

 思わず涙目になりながら犯人を探そうとして――ベッドの脇で、驚いて目を見開いているナナがいた。

「えっと、だいじょうぶ?」

 オレの顔を覗き込んで来るナナを見て、何故だか急速に胸を締め付けられる様な気がしたが、それを振り払う様に、冗談で返す。

「ナナのせいで、脇腹が痛い以外は大丈夫」

「えへへ……ごめんなさい」

 少し体を揺らしながら笑った後、素直にナナが頭を下げた。

 そんな様子を見ていたら、体はまだズキズキと痛むし、何故か胸が苦しい気がしたが、可愛いから許す! 

 そんなバカな事を考えながら周りを見てみれば、数日前まで自分がゲームをプレイしていた自室……ではなく、見慣れない天井だった。

 まぁ、ナナを見た瞬間わかってた事だけど。

「それで、ここは一体どこなんかな?」

 そう聞きながら室内を見回してみれば、部屋は清潔感の有る白色を基調に、グリーンのカーテンなどがかけられている他、花瓶に花が添えられいる事からどこかにある病室と見て間違い無いだろう。

「その質問には、私が代わりに答えよう」

 突然割って入ってきた声の方を見てみれば、研究施設で気絶する寸前に見た精悍な顔つきをした男性と、グラマラスな体型をした白衣姿の女性が立っていた。

「えーと、貴方達は?」

 男性の方――天空騎士団の団長についてはよく知っていたが、もう1人の女性については設定資料でも見たことが無かったため尋ねてみる。

「失礼しました。私はここ――天空騎士団で団長を務めているレイ・アステルです」

「同じく天空騎士団所属で、あなたの主治医であるローズ・ソラウェルよ。ローズお姉ちゃんって呼んでね」

 対照的な2人が挨拶をしたので、オレも返そうかと思ったが……名前がない事を改めて思い出す。

「よろしくお願いします」

 名乗れないのでただ頭を下げると、ナナも何故か慌てたように一緒に頭を下げた。

「しかし、こんなに早くに目が覚めて良かったよ。正直、あと半月は目が覚めないと思っていたからね」

 苦笑いしながら言う団長を見て、思わず目を見開いてしまう。

 この世界では魔術による治療や、現代社会程では無いかも知れないが、それなりに外科的治療の文化もある。

 だから、半月目が覚めないと言う状況がにわかに信じられず思わず聞いてみる。

「えーっと、そんなに悪かったんですか?」

 そう尋ねるとレイ団長は困ったように肩をすくめ、ローズさんは眉をひそめながら口を開いた。

「ここに運び込まれた君の状態は、ひどいなんてもんじゃ無かったわ。左の腕および右足が骨折。あばらが4本ヒビが入ってたんだもの。……しかも、酷かったのは外傷より中身だったもんだから、私史上最悪の状態で運び込まれたと言っても過言じゃ無かったわよ」

 呆れた声でそう言われてみれば、確かに手足がまともに動かなかった様な記憶が蘇るが……幸い今はギブスで真っ直ぐになっている様に見えた。

「……それは、自分でも酷いと思いますが、魔術を使えば治るモノなんじゃないんですか?」

 ゲーム内での主人公達は、骨折だのという表現は無いものの、一旦回復魔法を唱えれば、ある程度の傷は瞬く間に治っていた。

「そんなわけないでしょ。確かに傷の治りは早くなるけど、貴方は明らかに外科的な処置が必要な状態だったし、そもそも回復魔術は子供に使うと成長を阻害するから良くないの!」

 そんな事を、顔を近づけながら力説される……正直、半ば以降はローズさんの整った顔を見てられなくて目をそらした。

「あー……外傷より、中身が酷かったと言うのは、どう言う事なんですか?」

 何となく想像はついていたけれど尋ねてみると、レイ団長とローズさんはベッドの端で足をプラプラして遊んでいるナナの事を見た。

「団長、ナナちゃんを……ミヨコちゃんの所に連れて行ってもらえる?」

「ミヨコさんも、救助されたんですか!? って、いったあああ!」

 衝撃的な内容に、思わず起き上がろうとして、全身の痛みがソレを拒んだ。

「もう、無茶しない! ミヨコちゃんなら……」

「ミヨコお姉ちゃんも助けてもらったよ!」

 元気に、満面の笑顔でナナがそう言ったのを聞いて……思わず力が抜けてベッドに倒れ込むと、歓喜と達成感がグチャグチャになった感情と共に、涙を流した。

 すると、ナナがオレの頬に不安そうな顔をしながら手を伸ばして、涙を拭ってくれた。

「お兄ちゃん、体が痛いの?」

「いや……これは、嬉しくて泣いてるんだ」

 ナナの顔を見てられず目元を覆いながら、だけど笑ってそう言った。

 何百、何千と彼女達を救うために試行錯誤し、それでも見られなかった結果を目の当たりにして……今までの人生で最も大きな感情のうねりを前にして、オレはしばらく泣き続けた。

「色々、大変だったのね?」

 ナナとレイ団長が居なくなった室内で、そっと優しい声でローズさんがオレの頭を撫でてくれた。

 その温もりによって、今までやって来たことの努力が、一部認められた様な気さえする。

「すみません、情けないところを見せて」

 恥も外聞も無くワンワン泣いてしまったので、気恥ずかしくなりながらそう言うと、ローズさんはクスリと笑った。

「別に良いのよ。君くらいの年齢なら、恥ずかしい事なんて何もないわ」

「ははは……」

 そんな事を言われて、思わず乾いた笑いが漏れる……実年齢はとても言えない。

「それで、君に話をしておかなくちゃいけない事が有るんだけど、その前に何か聞きたいことはある?」

 そう尋ねられてオレは、直ぐに応える。

「ミヨコさんは無事なんですか?」

 救出されたと聞いて思わずホッとしていたが、オレがここに連れて来られる前に見た彼女の状態と、これまで受けて来ただろう実験のことを思えば、楽観できない状況なのではと思い確認すると、ローズさんの顔が険しくなった。

「それは無事の定義にもよるけど、命に別状は無いし、意識も貴方より早くに目覚めたわ」

 そこで話を一旦区切ったローズさんは、オレの瞳をじっと見た。

「ただ、正直言って体の中の状態は貴方と同じか、それ以上にボロボロよ。その上、変な投薬でもされたのか今も睡眠と覚醒を繰り返してる……まぁ、これは半月もすれば改善されるとは思うけど……」

 半ば予想していた事ではあるが、ハッキリと告げられると自分の事以上にしんどい。

「もし……いえ、ごめんなさい。こんな事、今目覚めた貴方に聞くべきじゃ無かったわ」

「気にしないでください。何か聞きたい事が有るなら、お応えしますよ。助けてもらった恩もありますし」

 オレへ気遣いしてくれるのはありがたいが、正直あの2人に何かを聞かれるよりは、オレが応えた方が精神的にも知識量的にもいいだろう。

 ローズさんは、しばらく視線を彷徨わせた後、オズオズとためらいながら質問してきた。

「あの施設で、貴方達は何をされたの?」
 
 その問いは、今回の事件――いや、エンブレと言う作品の確信をついていた。
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