チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

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1章

第8話 新たな門出

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 ミヨコ姉と面会をしてから一週間が経ったある日、オレは朝からベッド脇で屈伸をしていた。

「私はまだ、安静にすべきだと思っているからね」
 
 目を細めたローズさんがそんな苦言を言ってきたので、苦笑いした。

「そんなに心配しなくても、無茶はしないですよ。徐々に体を慣らすつもりです。それに、お陰様ですっかり体調は良くなってますから」

 ギブスの取れた両腕をグルグルと回して、元気なアピールをしてみるも、ローズさんは頭を抱えた。

「とりあえず、団長には話を通してあるから、迎えが来るはずだけど……くれぐれも、無茶はしない様にね」

 そんな風に何度目かわからない念押しをされて、思わずほおをかく。

 ――そんなにオレって無茶しそうに見えるのかな?

 思わずそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。

「どうぞー」

 返事するやいなや、この一週間ですっかり見慣れた2人が入ってくる。

「お兄ちゃん、おはよー!」

「弟くん、おはよう」

 元気いっぱいに突っ込んできて抱きつくナナと、車椅子で移動しながらやんわりと微笑むミヨコ姉に挨拶する。

「おはよう、2人とも」

 ――今日のミヨコ姉は、顔色よさそうだな……。

 面会できるようになって一週間、その間にもミヨコ姉はフラッシュバックや薬の後遺症に悩まされていた。

 ローズさんいわく、いい方向へ向かっているのは間違いないとのことだったが、辛そうにしている姿を見ていると何とか出来ないか……そう思わずにはいられない。

 だが、ゲーム内の設定については詳しくても、医療に関する知識は皆無なオレが手助け出来るはずもなく……代わりに別のことをやることに決めた。

「弟くん、本当に騎士団へ入団するつもりなの?」

 少し心配そうな顔でミヨコ姉が聞いてくるのに対し、笑顔で返す。

「うん。正直いつまでもお世話になりっぱなしってのも、どうかと思うしね」

 ――昔から、働かざるモノ食うべからずって言うしね。

 だがオレの考えとローズさんの考えは違う様で、再度ため息を吐かれた。

「そんなこと、子供は気にしなくていいって言ってるのに」

 そんな風に言ってくれるけれど、オレ達が騎士団に迷惑をかけているのは事実だ。

 オレ、ナナ、ミヨコ姉の3人を除く総勢80人あまりいた施設の子供たちは、この国――オーランド王国が運営する真っ当な病院や孤児院へと移っていった。

 一方でオレ達3人は今もなお、騎士団の本拠地に滞在させてもらっている。

 理由としてはまずローズさんが優れた研究者兼、医者で有るという事も有るけれど、それ以上にミヨコ姉とナナーーそして俺の体内にも特別な組織が埋め込まれているせいで、御使の園の残党から狙われる可能性が高いという理由もあった。

 ここなら団長を始めとした、国内屈指の強者が揃っているため身を守る事を考えれば最も安全なのは間違いない。

 だけどその分騎士団には負担がかかって来るわけで、どうせ体が動けるようになったのなら騎士団の一員として働こう、そう考えたのである。

 まぁ、最初の内は逆に多くの迷惑をかけるだろうけど、そこは先行投資と思ってもらいたい。

 コンコンと、考え事を中断する様に部屋の扉が叩かれ、返事するよりも早くに扉が開く。

「おーい坊主ー、起きてっかー」
 
 どこか気の抜けた様な声と共に部屋に現れたのは、青い甲冑を身に纏った無精髭のオッサン――ジェイだった。

「もうとっくに起きてるよ、ジェイ」

「そうかそうか、よく起きれたな坊主」

 そう言いながら頭をワシワシと乱暴な手つきで撫でてくるジェイに、抗議する。

「やめろって、髪の毛がグシャグシャになるだろ!」

「ははは、どうせ鳥の巣みたいになってるくせしやがって」

 豪快に笑いながらなおも頭を撫で続けるジェイに、思わずため息をつく。

 ジェイ・クロフォード――天空騎士団のNo3にして、国内有数の騎士……なんだが、その性格はタダの飲んだくれの気のいいオッサンだ。

 とは言えオレも最初は目上だからクロフォードさんと呼んでいたけど、本人がむず痒いとのことで呼び捨てになり、今ではそれがすっかり定着している。

「んで、結局名無しのゴンタは名前決まったのか?」

「あー、それなら……」

 決まった――と言おうとした所で、ナナが割って入った。

「お兄ちゃんは、センお兄ちゃんって名前になったよ!」

 満面の笑顔で応えたナナを見て、思わずオレとミヨコ姉が目を合わせて笑い合う。

「セン、センか……覚えやすくていい名前じゃねぇか。坊主が決めたのか?」

 そうジェイに尋ねられたが、オレの代わりにミヨコ姉が首を横に振って応える。

「私達3人で考えて決めました」

「どうせなら、ナナとミヨコ姉と一緒に考えたかったからね」

 長らく決まっていなかったオレの名前について、3人で話し合いをした。

 適当な名前をオレが考えることも出来たが、どうせならオレと出会う前の2人の様に話あって付けたい……そう思った結果、紆余曲折を経て1076番の千を取ってセンという名前になった。

 ミヨコ姉は、あの施設とは関係ない名前にしては? と言っていたけど、オレとしては2人と同じ様にしたいと言う強い意志もあり、決まった。

「成程な。んじゃちょっくら悪いが、坊主を借りてくぜー」

 名前が有ろうが無かろうが関係なく坊主と呼ぶジェイに連れられ、オレは自室を出る――前に、挨拶した。

「行ってくるね」

 すると、ミヨコ姉、ナナ、ローズさんが手を振りながら見送ってくれた。

「いってらっしゃい」

◇◇◇

 天空騎士団では、オレがいた5階とミヨコ姉がいる6階が病室になっていて、4階以下には騎士団の事務室や室内競技場などがある。

 だがオレ達の目的地は屋外の為、1階へ降りて正面の出入り口を抜けると、目の前ある開けた訓練用のグラウンドへ移動する。

 グラウンドではまだ朝6時半だと言うのに、甲冑を着込んだ騎士達が模擬戦などを行っていた。

 模擬刀がぶつかり合う音、威圧し合う様な声――そしてそれに混じって聞こえて来るのは、海鳥の鳴き声と、波が岩に打ち付けられる音。

 音からも分かる様に、天空騎士団の本拠地であるここは、周囲を海に囲まれており、街へ繋がる2本の橋を除けば入る手段が無い要塞化された孤島だ。

 だが、高い建物のない開放された空や、僅かに塩辛さを感じる風、耳に優しい穏やかな波の音は、以前の世界では感じたことが無い開放感があった。

「どうだ? スゲェだろ?」

 どこか自慢げにジェイがそんな事を言ってきて……その顔は気に食わなかったけど、同意する。

「……まぁね」

 ただ、正直に応えるとまたドヤ顔をされそうなので、適当に相槌をうつと、ジェイがまた頭を撫で回してきた。

「ったく、素直じゃねぇな……おーい、オマエラ! 新入りがやってきたぞー!」
 
 ジェイが大きな声を上げると、それまで訓練していた人たちが手を止めて寄ってきた。
 
「うおっ、聞いてはいたけどやっぱちっちぇえな!」

「でも、魔力だけなら俺ら騎士団員と比べても上位に入るレベルらしいぞ」

「えっ、マジかよ! どんなチビだよ」

「あっ、噂の新人くんね! へぇ、結構可愛い顔してるじゃない!」

「あっらー、これはまた可愛い子じゃなぁい! 今度メイドさんのお洋服を着せてあげなきゃ」

 そんな事を口走る、団員の人たちから囲まれ、もみくちゃにされる……っていうか、最後の発言した野太い声のオッサンは誰だ!

 ……いや、まぁ特徴的な無駄にいい声だから予想は出来ているけど、関わりたくない。

 ――て言うか、いい加減暑苦しいから離れてくれ!

「おいテメェら、何サボってやがる!」

 そんな、鋭く尖った女性の声が響くと、ようやくオレは解放された。

 同時に隊員達で出来た輪がひらけ、声をだした人物の姿が見えてくる。

 ややくすんだ赤い長髪を縛り上げ、鋭い目つきで隊員達にガンを飛ばしている女性は――天空騎士団の副団長、ライラ・バランディーノさんだった。

 彼女の鋭い視線に団員達が姿勢を正している中、その視線がオレを見て、その後ジェイの方を見た。

「ソイツが、入団志望のガキか。そんなチビじゃあ、剣もまともに触れねぇだろ」

 そう言われて、確かに剣なんか握ったことも無いが、わずかにムッとする。

「いや姉さん、確かに坊主の体は小さいが、その分魔力の量とガッツは凄いぜ。何せ、あのグンザークとサシでやり合ったんだから」

「こいつがあの、指名手配犯のグンザークとやり合っただぁ?」

 疑う様な視線と共に顔を寄せてきライラさんの目をオレは、じっと見続けた。

「勝てたわけじゃ無いですけど、戦ったのは本当です」

 入団するためにも、ここで引いてなるものかと睨み返していると、ライラさんがプッと笑った。

「いや、そんなマジの顔になんなって、オマエの事は団長から聞いてるっての。ただのジョークだ、ジョーク」

 そう言ってライラさんが、オレに右手を差し出して来たので握ってみると、確かな力で握り返された。

「うっは、姉さん性格わっる!」

「ちっちゃい子イジメるの、はんたーい!」

 オレ達の様子を見ていた団員の方々から茶々が入ったので、ライラさんが八重歯を剥いた。

「うっせぇぞオメエら! チビの事は許しても、サボってるテメェらの事は許してねぇからな!」
 
 ライラさん――いや、ライラの姉御がそう言うと、隊員達からブーイングの声が上がっていたが、思わずオレは笑ってしまった。

 てっきり、もっと何か言われると思っていただけに拍子抜けな部分はあるけど、ここならオレもやっていけそうな気がする。

 ――そして、きっと2人を守れる位強くなれる気がする……。

 だからオレは、改めて深く頭を下げて挨拶した。

「今日から、よろしくお願いします!」
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