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1章
第13話 二人の笑顔
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ミヨコ姉への弁解を終えた頃、訓練を早めに切り上げた騎士団員達が、次々と隊舎へと戻ってきたので、オレ、ミヨコ姉、ナナの3人で挨拶して行く。
「お疲れ様です!」
「皆さん、お疲れ様です」
「おつかれさまー」
オレ達が挨拶すると、手を挙げたり返事を返してくれる先輩方が次々と通り過ぎて行く中で、1人のオッサン――ジェイがオレ達の方へと近寄ってきた。
「よう、3人とも。今日祝われる準備は、出来てっか?」
「お疲れ、ジェイ。祝われる準備って何だよ?」
初めてきく単語に問い返すと、手をわちゃわちゃと動かしながら答える。
「そこはアレだよアレ……多分、色々あんだろ?」
「はぁ……ジェイって、話すこといつも結構適当だよね」
「あっ、オマエ今ため息ついたな! ガキのクセに生意気な!」
オレの頭に手を伸ばしながら、髪をいじり回そうとするジェイの手を、必死に両手で食い止めていると、クスクスと横から笑い声が聞こえてきた。
「ふふ。弟くんと、クロフォードさんって本当に仲良しですね」
「ナナもお兄ちゃんとなかよしー!」
ミヨコ姉の言葉に反応したナナがタックル気味に抱きついて来て、思わずむせる。
「ゲホッ……団長達はまだ訓練中?」
「ああ、まだしばらくかかんじゃねぇかな? 団長、ここ最近事務処理ばっかで、体鈍ってきたとか言ってたしな……まぁそれでも、バケモンみてぇにつええけど」
そう言って肩をするくめるジェイに、思わず苦笑いする。
先日、グンザークとの一戦で団長の強さについては目の当たりしていたが、それ以外にもゲーム内での団長の強さは突出していたのをよくよく覚えている。
そもそも神童と呼ばれる主人公を圧倒する強さだったのだから、伊達に世界最強の名は冠していない。
「んじゃそろそろ俺は、ひとっ風呂浴びてくるわ」
「うん。いってらっしゃい」
手を振りながら去っていくジェイを3人で見送ったあと、念のため2人に聞こうと思っていた事を尋ねてみる。
「そう言えば二人は昨日騎士団の人間と改めて初顔合わせしたけど、馴染めそう?」
そう尋ねると、キョトンとした顔をした。
「うん。皆いい人達だから、大丈夫だと思うよ? ね、ナナちゃん?」
「うん! みんなと仲良しだよ!」
Vサインをしながら満面の笑みを見せるナナと、穏やかに微笑むミヨコ姉。
それを見て、安堵する。
基本的に騎士団の人間は愉快な人が多いので、大丈夫だとは思っていたけれど二人はこれまで大人に虐げられてきたわけで……有り体に言って、対人恐怖症などになっていないか心配していた。
だが、そんな心配は不要だと気づき改めて安心する。
二人には、世の中はあの施設の中の様な狭く苦しい場所ばかりでは無いと知って欲しい……これまで辛かった分も取り返すくらいに、色々なものを見てほしい。
そう思った時、ある事が閃いた。
「そうだ、2人ともちょっと待ってて!」
「? どうかしたの、お兄ちゃん?」
オレが突然ソファから立ち上がった事に驚き、ナナが首を傾げる。
一方ミヨコ姉も一緒に立ち上がると、尋ねてきた。
「何か私も手伝うことあるかな?」
「ううん、2人はここで待ってて。すぐに戻るから」
そう言ってオレは、2人の入団祝いが開かれるまではまだしばらく時間がかかる事を確認し、急いで自室へと戻った。
◇ ◇ ◇
駆け足で自室(と言っても、先輩達3人と相部屋だけど)へ戻ると、オレは先日先輩から貰った物をベッドの枕元から取ると、急いで引き返す。
正直、これまでの人生で家族以外の人間と同室で、しかもベッドしか無い様な狭い部屋で寝るのは初めてだったけれど、一週間も過ごしていると案外慣れてきた。
――まぁ、夜中に飲み会をやって部屋が酒臭くなるのだけは慣れないけど。
「あっ、お兄ちゃんが戻ってきた!」
駆け足でロビーへと戻ってくると、2人は先程と変わらない位置で談笑していた。
ふと、ミヨコ姉の視線がオレから、オレの手に持っている物へ移る。
「弟君、その手に持ってるものは何かな?」
そう尋ねられたので、持っていた折りたたまれた紙を広げながら見せる。
「これは、この周辺がザックリと書いてある地図なんだけど、2人は見たことある?」
尋ねてみると、2人は首を横に振った。
正直、見たことあると言われていたら意気揚々と持ってきた意味がなかったのでよかった。
「ならよかった。せっかく何でこの近くにどんな物があるのか2人には見てもらおうと思って。これからは、色々近くの街以外にも外に出ることもあるだろうしね」
そう言いながら、オレはまず地図の周辺を海に囲まれた大陸を指し示す。
「多分知ってるだろうけど、ここがオレ達の住むオーランド王国があるガイア大陸だね」
「ふふ、流石にそれくらいは知ってるよ」
ミヨコ姉がクスリと笑いながら応えた。
「はは、だよねー。じゃあ、ここがどこかわかる人?」
そう言ってオレが地図の中心――大陸全体からみると右斜め下にあり、海に面した国を指し示しながらナナの方を見ると、ナナが手を挙げた。
「オーランドおうこくー!」
「はい、ナナの正解! 10ポイント上げよう」
「やったー!」
ナナが両手を上げて喜んでいるので、その頭をそっと撫でてあげる。
「じゃあ、ここはどこか分かる?」
地図上の海に面した、極小の点を指さすと、ナナが首を傾げた。
「んー、わかんない」
近くに寄ったり、目を細めたりしてみるナナだったが、結局わからなかったのか、眉をひそめながら答える。
「もしかして、ここ――天空騎士団のある島?」
「はい、ミヨコ姉正解! 10ポイント獲得」
「やった!」
笑顔でガッツポーズを取るミヨコ姉を微笑ましく見ていると――ミヨコ姉が少し体を屈めながらこちらをジッと見てくる。
「どうかしたの、ミヨコ姉?」
オレが思わずそう尋ねると、ミヨコ姉がやや顔を赤らめながら頬を膨らませた。
「えっと……わたしも、ナナちゃんと同じようにして欲しいなって……」
後半になるにつれ小さくなっていく声を聞いて、その意味が理解できると思わずほおが熱くなるのを感じる。
――何を言ってるんだ、この姉は!!
恥ずかしそうに視線をそらしながらも、一向にオレの前から頭を動かそうとしないミヨコ姉に……その頭頂部から香る柔らかな柑橘系の香りに思わず手を伸ばし……。
「オマエラ、何やってんだ?」
すぐ側でそんな声が聞こえて、慌てて手を引っ込めながら声のした方を見てみれば、ライラの姉御が胡乱《うろん》そうな目でオレ達を見ていた。
「いや、べ、別に何もしてませんよ? だよね、ミヨコ姉?」
「う、うん。弟君の言う通りです!」
オレ達が完全に挙動不審になりながらそういうが、姉御のオレ達を見る目は変わらなかった。
「どうでもいいけど、そろそろパーティの準備出来っから後5分くらいしたら食堂集合な」
背を向けて去っていく姉御の姿に、思わずホッとする……別に、やましいことをしてたわけじゃ無いけど。
なんて考えてると、姉御が足を止めてニヤついた笑みをする。
「あんま、ナナの前でヤラシイ事すんなよ?」
「なっ!」
姉御の発言にオレとミヨコ姉が言葉を無くしていると、姉御はワハハと笑いながら去っていった。
「……」
そして訪れる、気まずい沈黙。
――何をしてたわけでも無いけど、ミヨコ姉の顔が見れない……。
そう思っていると、横から袖を引っ張られた。
「どうした? ナナ?」
「ねえお兄ちゃん、ヤラシイことってどんな事?」
純真無垢な瞳でナナからそう尋ねられて……オレはトイレへと逃げ込んだ。
「お疲れ様です!」
「皆さん、お疲れ様です」
「おつかれさまー」
オレ達が挨拶すると、手を挙げたり返事を返してくれる先輩方が次々と通り過ぎて行く中で、1人のオッサン――ジェイがオレ達の方へと近寄ってきた。
「よう、3人とも。今日祝われる準備は、出来てっか?」
「お疲れ、ジェイ。祝われる準備って何だよ?」
初めてきく単語に問い返すと、手をわちゃわちゃと動かしながら答える。
「そこはアレだよアレ……多分、色々あんだろ?」
「はぁ……ジェイって、話すこといつも結構適当だよね」
「あっ、オマエ今ため息ついたな! ガキのクセに生意気な!」
オレの頭に手を伸ばしながら、髪をいじり回そうとするジェイの手を、必死に両手で食い止めていると、クスクスと横から笑い声が聞こえてきた。
「ふふ。弟くんと、クロフォードさんって本当に仲良しですね」
「ナナもお兄ちゃんとなかよしー!」
ミヨコ姉の言葉に反応したナナがタックル気味に抱きついて来て、思わずむせる。
「ゲホッ……団長達はまだ訓練中?」
「ああ、まだしばらくかかんじゃねぇかな? 団長、ここ最近事務処理ばっかで、体鈍ってきたとか言ってたしな……まぁそれでも、バケモンみてぇにつええけど」
そう言って肩をするくめるジェイに、思わず苦笑いする。
先日、グンザークとの一戦で団長の強さについては目の当たりしていたが、それ以外にもゲーム内での団長の強さは突出していたのをよくよく覚えている。
そもそも神童と呼ばれる主人公を圧倒する強さだったのだから、伊達に世界最強の名は冠していない。
「んじゃそろそろ俺は、ひとっ風呂浴びてくるわ」
「うん。いってらっしゃい」
手を振りながら去っていくジェイを3人で見送ったあと、念のため2人に聞こうと思っていた事を尋ねてみる。
「そう言えば二人は昨日騎士団の人間と改めて初顔合わせしたけど、馴染めそう?」
そう尋ねると、キョトンとした顔をした。
「うん。皆いい人達だから、大丈夫だと思うよ? ね、ナナちゃん?」
「うん! みんなと仲良しだよ!」
Vサインをしながら満面の笑みを見せるナナと、穏やかに微笑むミヨコ姉。
それを見て、安堵する。
基本的に騎士団の人間は愉快な人が多いので、大丈夫だとは思っていたけれど二人はこれまで大人に虐げられてきたわけで……有り体に言って、対人恐怖症などになっていないか心配していた。
だが、そんな心配は不要だと気づき改めて安心する。
二人には、世の中はあの施設の中の様な狭く苦しい場所ばかりでは無いと知って欲しい……これまで辛かった分も取り返すくらいに、色々なものを見てほしい。
そう思った時、ある事が閃いた。
「そうだ、2人ともちょっと待ってて!」
「? どうかしたの、お兄ちゃん?」
オレが突然ソファから立ち上がった事に驚き、ナナが首を傾げる。
一方ミヨコ姉も一緒に立ち上がると、尋ねてきた。
「何か私も手伝うことあるかな?」
「ううん、2人はここで待ってて。すぐに戻るから」
そう言ってオレは、2人の入団祝いが開かれるまではまだしばらく時間がかかる事を確認し、急いで自室へと戻った。
◇ ◇ ◇
駆け足で自室(と言っても、先輩達3人と相部屋だけど)へ戻ると、オレは先日先輩から貰った物をベッドの枕元から取ると、急いで引き返す。
正直、これまでの人生で家族以外の人間と同室で、しかもベッドしか無い様な狭い部屋で寝るのは初めてだったけれど、一週間も過ごしていると案外慣れてきた。
――まぁ、夜中に飲み会をやって部屋が酒臭くなるのだけは慣れないけど。
「あっ、お兄ちゃんが戻ってきた!」
駆け足でロビーへと戻ってくると、2人は先程と変わらない位置で談笑していた。
ふと、ミヨコ姉の視線がオレから、オレの手に持っている物へ移る。
「弟君、その手に持ってるものは何かな?」
そう尋ねられたので、持っていた折りたたまれた紙を広げながら見せる。
「これは、この周辺がザックリと書いてある地図なんだけど、2人は見たことある?」
尋ねてみると、2人は首を横に振った。
正直、見たことあると言われていたら意気揚々と持ってきた意味がなかったのでよかった。
「ならよかった。せっかく何でこの近くにどんな物があるのか2人には見てもらおうと思って。これからは、色々近くの街以外にも外に出ることもあるだろうしね」
そう言いながら、オレはまず地図の周辺を海に囲まれた大陸を指し示す。
「多分知ってるだろうけど、ここがオレ達の住むオーランド王国があるガイア大陸だね」
「ふふ、流石にそれくらいは知ってるよ」
ミヨコ姉がクスリと笑いながら応えた。
「はは、だよねー。じゃあ、ここがどこかわかる人?」
そう言ってオレが地図の中心――大陸全体からみると右斜め下にあり、海に面した国を指し示しながらナナの方を見ると、ナナが手を挙げた。
「オーランドおうこくー!」
「はい、ナナの正解! 10ポイント上げよう」
「やったー!」
ナナが両手を上げて喜んでいるので、その頭をそっと撫でてあげる。
「じゃあ、ここはどこか分かる?」
地図上の海に面した、極小の点を指さすと、ナナが首を傾げた。
「んー、わかんない」
近くに寄ったり、目を細めたりしてみるナナだったが、結局わからなかったのか、眉をひそめながら答える。
「もしかして、ここ――天空騎士団のある島?」
「はい、ミヨコ姉正解! 10ポイント獲得」
「やった!」
笑顔でガッツポーズを取るミヨコ姉を微笑ましく見ていると――ミヨコ姉が少し体を屈めながらこちらをジッと見てくる。
「どうかしたの、ミヨコ姉?」
オレが思わずそう尋ねると、ミヨコ姉がやや顔を赤らめながら頬を膨らませた。
「えっと……わたしも、ナナちゃんと同じようにして欲しいなって……」
後半になるにつれ小さくなっていく声を聞いて、その意味が理解できると思わずほおが熱くなるのを感じる。
――何を言ってるんだ、この姉は!!
恥ずかしそうに視線をそらしながらも、一向にオレの前から頭を動かそうとしないミヨコ姉に……その頭頂部から香る柔らかな柑橘系の香りに思わず手を伸ばし……。
「オマエラ、何やってんだ?」
すぐ側でそんな声が聞こえて、慌てて手を引っ込めながら声のした方を見てみれば、ライラの姉御が胡乱《うろん》そうな目でオレ達を見ていた。
「いや、べ、別に何もしてませんよ? だよね、ミヨコ姉?」
「う、うん。弟君の言う通りです!」
オレ達が完全に挙動不審になりながらそういうが、姉御のオレ達を見る目は変わらなかった。
「どうでもいいけど、そろそろパーティの準備出来っから後5分くらいしたら食堂集合な」
背を向けて去っていく姉御の姿に、思わずホッとする……別に、やましいことをしてたわけじゃ無いけど。
なんて考えてると、姉御が足を止めてニヤついた笑みをする。
「あんま、ナナの前でヤラシイ事すんなよ?」
「なっ!」
姉御の発言にオレとミヨコ姉が言葉を無くしていると、姉御はワハハと笑いながら去っていった。
「……」
そして訪れる、気まずい沈黙。
――何をしてたわけでも無いけど、ミヨコ姉の顔が見れない……。
そう思っていると、横から袖を引っ張られた。
「どうした? ナナ?」
「ねえお兄ちゃん、ヤラシイことってどんな事?」
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