チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

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1章

第14話 騒がしい宴会

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 トイレから戻ってみると、既にロビーにはミヨコ姉とナナの姿はなく、代わりにレイ団長が立っていた。

「やっと見つけた、一体どこに行ってたんだい? ミヨコちゃんに聞いてみたら、センの事なんか知らないとそっぽ向かれたんだけど」

 不思議そうな顔で団長に聞かれ、思わず汗が流れる。

 ――多分、ナナからの質問に尻尾巻いて逃げた事をミヨコ姉怒ってるんだろうなぁ。

 そう薄々思いながら、何でもない風を極力装い答える。

「えっと、ちょっとトイレに行ってただけです」

「そうか。もう皆準備終わって待ってるから、一緒に行こう」

 そう言って団長に連れていかれた先の扉を開けると――川の字に並んだ長テーブルの上には色とりどりの食事が並んでおり、先輩隊員たちは既にそれぞれが向かい合う形で席についていた。

 目を壁際に向けてみれば、紙や木で出来た装飾が並んでおり、団員が座っている川の字全体を見えるように頂点部分に横一文字に設けられた、ミヨコ姉とナナが座っている席の頭上には、『祝ミヨコちゃん、ナナちゃん入団おめでとう』と言う横断幕が掲げられている。

「……あれ? オレの入団祝いは?」

 思わずそんな言葉を漏らしたところ……近くに居た先輩隊員が、横断幕をよく見ろと笑いながら指差してくる。

 いや、よく見ろって言われても……ってあった、すげぇ小さい字で注釈みたいに(ついでにセンも)って書いてあった!

「いや、流石にこれは扱い酷すぎじゃない!?」

 思わず心から叫んだところ、食堂内で笑いが起こった……横を見てみれば、団長まで笑いを堪えてるし!

 マジで、ここの隊員達はいい性格してるよ!

「ふふ……いや、ごめん。センの席は、自分とナナちゃんの間の席だから」

 団長に案内されながら、全員が座っているのを正面から見渡せる席に到着すると、ナナとミヨコ姉が目を輝かせていた。

 ――よかった、ミヨコ姉の機嫌が治ってる。

 内心そんなことを考えながら、左端から姉御、ミヨコ姉、ナナ、オレ、団長という形で席につくと……大声で祝福された。

「ミヨコちゃん、ナナちゃん、センくん入団おめでとー!!」

 掛け声と共にクラッカーや色とりどりの魔法が打ち上げられ……って、一部の魔法がオレの頭上を掠めてったんだが!

 思わず飛んできた出どころを睨みつけると、飛ばしたと思われる張本人達――同室の先輩とジェイはそっぽを向いていた。

 ――あの不良隊員達……姉御に有る事無い事チクって、後で黙らせてもらおう。

「それじゃあ主賓も揃ったことだし、皆盃を掲げ!」

 号令とともに団長がビールジョッキを掲げると、皆それぞれの飲み物を掲げる。

 勿論、俺達はジュースだ。

「ミヨコちゃん、ナナちゃん、センの入団を祝してーっ」

「「「かんぱーいっ」」」

 皆が打ち鳴らしたジョッキの音が広い食堂に響き渡り、直後から一気にガチャガチャとやかましくなり始めた。

 ……まぁ、普段からこんなもんだけど。

「騎士団には慣れたかい?」

 目の前の皿に乗ったでかいエビを食うために、無心で殻を取っていたら、団長にそう問いかけられる。

「んー、まだ一週間くらいですけど、先輩たちがうるさいんで……まぁ」

 なんせ入寮初日から子供のいる部屋で酒盛りや、隠し芸大会をはじめる様な連中がいる部屋だ。慣れたくなくても慣れてくるだろう。

 お陰で連日寝不足だが……まあ、そんなノリも嫌いじゃない。

「ははは、まぁ皆悪い連中では無いから、許してやってくれないかな」

「まぁ、そこは一応分かってます」

 特殊な環境で育っていてかつ、未だ本来の入団基準である18歳に満たない年齢でありながら、隊員のみんなはこうして暖かく迎えてくれている。

 その事には、心から感謝してた。

「それは良かった。今後とも何かあったら、言ってくれていいよ……特にジェイが何かやった時とかね」

「ははは……何かやってない時とか無いですよ」

 そう言いながらオレが指差した先では、早速ジェイが酒を飲みながら騒いでいた。

「ははは……後で、また注意しとくよ」

 団長がから笑いと共に頭を抱えたのを見て、思わず肩をすくめる。

 ――と言うか、あのオッサンは1人部屋のくせに毎度部屋に侵入してくるからなぁ。

 そんなことを考えながら横を見ると、カニの殻を割ったせいで指先が汚れたナナと、その手を拭いてあげているミヨコ姉の姿があった。
 
「そういえばナナとミヨコ姉は、2人だけの部屋なんだよね?」

 天空騎士団では、幹部が1人部屋、女子は2人部屋、男子は4人部屋と待遇が分かれている。

 男女の格差については、単純に男女比が2:1位だからしょうがない……んだと思う、多分。

「そうだね。ナナちゃんと同室って初めてだから、楽しいよ」

「ナナもベッドがフカフカだし、お姉ちゃんに添い寝して貰えるし、幸せだなぁ……そうだ、お兄ちゃんも今度一緒に3人で添い寝する?」

「ぶふぉっ……」

 ナナの言葉を聞いて、思わず口にしていた水を吹き出してしまう。

 ――いや、ナナと添い寝はまだしも、ミヨコ姉とは……。

 そんなことを考えていると、何やら直前まで騒いでいた野郎どもの内何人かが、ガタッと席を立ちあがった。

「ミヨコちゃんと添い寝! それは羨ま……いやけしからん! 断じて許さんぞ!」

「そもそも今もナナちゃんの隣に座って、お兄ちゃんと呼ばれているだけでも処刑物だと言うのに、まだ罪を重ねるのかセン!」

「騎士団の……いや、人類の名誉にかけてセン、お前は倒す!」

 ビシッと謎のポーズを決めながら先輩たちから指を突きつけられるが……いや、どうなんだよこの男ども。

 ナナは10歳で、ミヨコ姉はまだ12歳だぞ、いくら何でもロリコンこじらせすぎだろ!

 思わず席を立ってロリコンどもとオレが視線で牽制し合ってると、姉御が席を立った。

「しゃあねえ、部下の躾は上の役割か……ちょっくら何人かシバイてくるわ」

 そう言って、姉御が野郎どもの処罰に行った。

 かっけぇっす姉御!

 そしてロリコンどもはどうか、安らかじゃ無く眠ってくれ。

 そんなことを考えながら合掌してると、ミヨコ姉がクスクスと笑った。

「弟君はすっかり人気者だね」

 そう言われて、俺は思わず首をかしげる。

「いや、人気なのはミヨコ姉とナナでしょ」

 実際男どもが騒ぎ立てるのも2人の事だし……そう思って言うが、ミヨコ姉が首を横に振る。

「私たちは女性の先輩方とは仲良くさせてもらってるけど、あんまり男性の団員の方達とは話せてないから」

 ちょっと寂しそうな顔で言われるが、それは姉御や女性隊員の皆さま――そして何よりもオレが、ミヨコ姉に近づけさせてないだけである。

「だから、弟君が少し羨ましいなって。ね? ナナちゃん」

「うん、お兄ちゃんは人気者だよ!」

 ナナにもそう言われて思わず照れてると、反対側――団長から肩を叩かれる。

「そんな人気者の君にお呼びがかかってるよ」

 そう言って団長が指さした先……ひと際やかましい一角には、案の定ジェイ達の一団が手を振っていた。

「はぁ……団長、ミヨコ姉たちの事は任せましたよ」

「はは……了解」

 そう言って送り出された先は、それはもう酒臭かった。

「おう、やっと来たか坊主」

「酒臭くて鼻が曲がりそうだよ、ジェイ」

「細かい事は気にすんなって、ほらお前も飲め――ないから、飯食え飯。そんなんじゃデカくなれねぇぞ」

 バシバシと、背中に跡が付きそうな勢いで叩かれながら、ジェイの横に座る。

「いや、デカくなれって言うんなら、夜中人の部屋で騒いで眠りを妨害しないでくれって」

 そう言うと、ジェイにまたバシバシと背中を叩かれる。

「ハハハ、細かいこと気にすんなって。肉食うか? 肉」

「細かくないって……まあ、肉は食うけどさ」

 ジェイに取り分けられた肉を食ってると、別の先輩達が「こっちもうまいぞ」とか言って食い物を取ってくれる。

 いや、自分の分くらい自分で取れるから……と思っていると、背後から野太い声が聞こえてきた。

「センちゅああん、こっち向いてー」

 その声を聞いた瞬間、体に悪寒が走り、思わずジェイの後ろへ隠れる。

「ジェイ、身代わりになってくれ」

 そう言うと、ジェイが苦笑いする。

「いや、アイツは悪い奴じゃないんだよ……ちょっとだけ恰好が奇抜なだけで」

 ジェイの視線の先、野太い声を上げている元凶を見ると、ソコにはガタイの良いメイド服姿のオッサン――ガッチ・ゲイさんが座っていた。

「いやいやいや、あれは完全に大変な変態でしょあんなの!」

 ゲーム画面で出てた時は笑っていられたが、現実の今は言い知れない圧を感じる!

 そう拒絶するが、ジェイや先輩達から背中を押される。

「ちょっ、やめろ! やめて! 本当やめてください!」

「まぁまぁ、一回話してみればきっと分かりあえるさ」

 グッと親指を立てながら後押しされるが、周りの隊員達の口の端がヒクついてるのは気のせいだろうか?

 そして、何やら一部の女性の先輩から熱い視線を向けられているのは勘違いなんだろうか!?

「ガッチさんとセンきゅんの絡み……ありね」

「……わたし、いま凄くいい事思いついたの。セン君って結構可愛い顔してるじゃない? だから、女装――メイド服が似合うと思うの! ナナちゃんやミヨコちゃんの2人にも着せて、3姉妹のメイドにするっていうのもありじゃない?」

「「それ、ありね!」」

「いや、ねぇよ!」

 そう叫んでる間にも、ガッチさんのケツの様に盛り上がった大胸筋が近づいてくる……と言うか、腕の太さがオレのウエスト位あるんだが。

「えっと……ガッチさん、初めまして」

 背後の先輩達が退散するのを気配で感じながら、恐る恐る声をかけると、ガシッと腕を掴まれる。

「やっと来てくれたのね、マイエンジェル! さぁ、私と一緒にいっぱいお話しましょ」

 本能的にヤバい――そう思ってジェイたちに助けを求めるために振り返ると……連中は大爆笑してた。ふざけやがって!!

「あー、すいません。ちょっとトイレに行きたくなって……」

「あらそうなの? なら私も一緒にお供するけど?」

「アッーーー!」

 ガッチさんの返答を聞いた瞬間、思わずオレは奇声を発しながら、その場から全力で逃げ出した。

 なお、後日あらためて話をしたガッチさんは、女装好きでお姉口調なだけの普通にいい人だった。

 いや、ゲームで出てきたから知ってたけどね。
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