チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

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1章

第19話 偏屈爺さんとの出会い

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 バカな自主練をして入院した翌々日の早朝、オレはある可能性に賭けてジェイと一緒に歩いていた。

「突然ロム爺に会いたいって、どう言う風の吹き回しだ?」

「……オレもジェイみたいに、自分に合う武器が欲しくなってね。それに団長からは許可を貰ってるよ」

「いや、それは知ってっけど……ロム爺は容赦ねえぞ?」

 やや心配そうにジェイが心配してくるが、オレは肩をすくめる。

 ロム爺――それは、騎士団で武器や防具のメンテナンスをしているドワーフの鍛冶士だ。

 訓練場の一角にある武器庫に併設された工房に居るが、その人柄は偏屈の一言に尽きる。

 そして、ほとんどの隊員達からは嫌われていた――。

「才能皆無だって言われても、泣くんじゃねぇぞ」

「そんなに子供じゃないっての!」

 軽口を叩きながらレンガ作りの武器庫へと入ると、ズラリと武器・防具の類が壁や棚に整然と並んでおり、それを横目で見ながら奥へと進んでいくと声がした。

「まーた訓練をサボっておるのか、キサマ」

 太く、しわがれた声のした方へと目を向けてみれば、騎士団用の青い防具を整備している茶髪のドワーフが居た。

 ドワーフの身長はおそらくオレと大差ないが、その手の大きさや腕の筋肉は倍以上も太い。

「失礼な、今日は別にサボりじゃねえよ。こいつがどうしてもロム爺に会いたいって言うもんでな、連れてきたまでだ」

「ワシに会いたい奴じゃと?」

 ジェイに背中を押されてロム爺の前に立つと、鼻で笑われた。

「はっ、そう言えば先日ガキが加わったと言っておったの。……あやつも、何を考えておるんだか」

 それだけ言うと、ロム爺はオレから視線を外し、再び防具を弄り始める。

 ……まぁ、こうなる事は想定していた。

 ロム爺は、武器・防具のスペシャリストだ。

 同時に、武器・防具を扱うものの素質を見抜くスペシャリストでもある。

 成長した主人公が物語の中盤にロム爺に会った時には、「団長以来の逸材」と一目で言われていたが……当然、オレはそんなものであるわけがない。

 ……いや、まぁ少しは期待していたんだけどさ。

「取り込み中の所申し訳ありませんが、オレの武器を作って貰え……」

 そう途中まで言った所で、顔の真横を何かが通り過ぎて行った。

「ワシは、ガキのお遊びに付き合うつもりはない」

 苦々しげな顔でそう告げるロム爺を見た後、オレの顔の横を通り過ぎていったもの――棚に突き刺さったナイフを見る。

「おいセン、怪我はないか!?」

 ぺたぺたとジェイがオレの顔を触ってくるが……オレの視線は飛んできたナイフに目がいっていた。

「ったく、だからこんな所来るべきじゃ無いって言ったんだ。ほら、帰んぞ。なに、武器の扱いが知りてぇならオレが刀の使い方をみっちり……」

「はん、その坊主に刀を扱う才能は無いと思うがの」

「うっせぇ偏屈ジジイ! ほら、さっさと帰んぞセン」

 ジェイとロム爺が何やら言い争いをしていたが、オレはそれを捨て置いて、棚に突き刺さったナイフの元へと近寄る。

 何の変哲もない、握りから刃まで金属で出来たナイフ。

 刃渡り12cm程の無骨なソレは、引き抜いてみれば不思議と手に馴染んだ。

「おい、セン! さっさと行くぞ!」

「ごめん、今いく!」

 既に武器庫の外へ出ようとしているジェイに返事をした後、ロム爺の方へと振り返るが、ロム爺は変わらず防具の手入れをしていた。

 ――偶然か?

 そう思ったが、剥き出しのナイフを手ぬぐいで包むと、ジェイの背中を追いかけて外へ出た。

「ったく、本当にろくでもない爺さんだぜ……あれで、鍛治の腕が悪かったらすぐに追い出してやるんだけどなぁ」

 そんな事をジェイはボヤいていたが、オレの考えていたのは全く別のことだった。

「おい、ボーッとしてるけど大丈夫か? もし体調悪い様なら、団長にはオレから言っておくが」

「いや、大丈夫だよジェイ。ちょっと考え事をしてただけだって」

「そうか? オレはこれから一眠りしてくるけど、もしダメだったら言えよ? ……しっかし、流石に刃物を投げるなんて事しなかった筈なんだけどなぁ」

 ぶつぶつ言いながらジェイは、隊舎の方へと帰っていった。

 一方のオレは、先程投げられたナイフを再度見ながら訓練場へと歩みを進める。

 ゲームにおいて主人公のステータス情報は、常にステータスウィンドウをみれば確認できた……だが、一部のステータスについては特定のキャラクターに確認する事でも知ることが出来た。

 その筆頭が、ロム爺だ。

 何度もクリアし、武器の熟練度を上げた主人公で会いに行くと、オススメの武器を紹介される。

 だが、ゲームにおいてはステータスを見れるし、全ての武器の熟練度を一定以上にできるため、ただのお遊び要素でしかなかったが……。

 先日、木剣で叩きまくっても傷ひとつつかなかったカカシを前に、ナイフを取り出す。

 ――ロム爺からの反応には5段階存在し、熟練度が高ければ高いほどその反応は良くなるが、熟練度が低かった場合にも違った反応を見せて来る。

 当然オレは全ての武器における全ての反応を網羅しており……ナイフの熟練度が下から2番目の状態でロム爺に会いに行くと、ナイフを黙って投げてよこされる事を覚えていた。

 偶然ゲームと同じ行動をした、ただの気まぐれなのかもしれない。

 だが、もしかしたら……そう思いながら、ナイフを体の動くままに構える。

 ――不思議と体は、何度も練習したようにスムーズに動く。

 相手から獲物を見せない様に右手を引き、左手は軽く握って構えた。

 一つ、二つと深呼吸をした後……一気に距離を詰め、斬りつけるっ。

 右下から左上に切り上げた姿勢から元の体制に戻ると、カカシが地に落ち――はしなかったが、深々と傷跡が刻まれていた。

「……なるほどな」

 思わず、ナイフを一振り、二振りとしながら感触を確かめる。

 これまで、一度もナイフなんて持ったことがないにも関わらず、不思議と持ち慣れているような……デジャブの様な妙な感覚。

 その正体は、十中八九この体の元の持ち主によるものだろう。

 ゲーム内でナナは、研究所で槍術の基礎を習ったというくだりがあった。

 そのため、昨日の内にミヨコ姉とナナに研究所で武器の訓練をした事があるかと確認してみたところ……案の定、やった事があったらしい。

 オレがいきなり体力的に強くなったり、技術的に上手くなるのは難しい……加えて、ゲーム内で登場したスキルを再現しようとしても現状のオレでは不可能な事は確認している。

 だが、元々この体にあった能力ならば……そう考えて頭を捻ってみた甲斐は、どうやらあったようだ。

「とは言え、とてもグンザーク達とわたりあえるレベルでは無いけどな……」

 ゲーム上の熟練度のMAXを999として考えると、オレの熟練度は精々50かそこら辺。

 年齢から考えればいい方かも知れないが、一般兵と同じかそれより劣る程度のレベルなのは間違いない。

 だが、確かに一つ新しい武器を手に入れた事もまた、紛れもない事実だった。
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