チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

文字の大きさ
18 / 36
1章

第18話 新しい一歩

しおりを挟む
 騎士団へと戻ったオレは、心配するナナやミヨコ姉を他所に1人雨が降る訓練場で、カカシを相手に木刀を振るっていた。

 型も何もない、ただ闇雲に振り回す不恰好な剣。

 もし姉御に見つかれば怒鳴られる様な無様さだったが……それでも、そんな事でもしていなければ、恐怖に心が屈してしまいそうだった。

 グンザークと戦った時のオレは、ミヨコ姉とナナを守るためにどうなっても良いと……死んでも良いと思って戦うことで、恐怖に打ち勝つことができていた……そう思っていた。

 だが、現実は違う。

 あの時はただ、恐怖から目を逸らしていただけだった。

 羽の力を使い、正気を失うことで恐怖を感じない様にしていただけで、克復出来ていたのとはまるで違う。

 羽という狂気がなければ、ここに居るのは精神的にも肉体的にも弱い、タダのガキだ。

「クソっ!!」

 力の限り振るった木刀は、カカシの胴へと吸い込まれ――衝撃と同時に、握りが甘かった木刀が手から弾き飛ばされ、水音を立てながら後方へと飛んでいった。

「っつ……!」

 マメが潰れたのか、雨に混じって赤い色が掌を伝っていく。

「ちくしょう……」

 1時間も訓練していないのに息が上がる体、僅かな傷でさえ痛みに顔を歪める自分に思わず嫌悪する。

「ちくしょう……」

 ぬかるんだ地面に足を取られそうになりながら、泥まみれの木刀を拾い上げると、再度力一杯に振るう。

「ちくしょう!」

 弱い自分を、恐怖を覚えてしまった自分を追い払う様に剣を振るう。

 オレは、主人公の様な天才ではない。

 オレは、団長の様に強くはない。

 でも、心のどこかで人より優れた魔力がある自分はそこそこ強いのだと……そう勘違いをしていた。

 だけど、本当のオレは――。

「ああああああっ」

 気勢を上げ、両断するつもりでカカシに木剣を叩きつけるが……オレにはカカシを断ち切るどころか、傷をつけることもできなかった。

◇◇◇

 泥の様に沈んでいく意識の中で、ふと温かいものが頬に触れたような気がした。

 暖かく、温かいその感触は心地よくて。

 冷たい泥の中で差し込んだその温もりに吸い寄せられるように、意識が浮上していく。

「……ここは?」

 真っ白な天井が視界いっぱいに広がるとともに、体が温かい――見慣れた真っ白い布団に包まれていることに気づく。

 ――そうか、ここは騎士団の病室の……。

「弟くん、目が覚めたの!?」

 周囲を確認していると、ミヨコ姉が声を上げた。

「ミヨコ姉……」

 上半身を起こしながら、彼女の名前を呼ぶが……何を言えばいいのかわからず押し黙ってしまう。

 今のオレの状況は、何となく察しがついている。

 多分……雨の中、永遠不細工な八つ当たりを続けていたオレはその内ぶっ倒れて、運び込まれたのだろう。

 ……あまりに無様で、格好悪くて、ミヨコ姉の顔が見れない。

「弟くん……無事でよかった」

 そう言って優しく微笑むと、ミヨコ姉がオレの頬に触れた。

 同時、先ほど感じた温もりがミヨコ姉の物だったのだと気がつく。

「……ごめん、心配させたよね」

 感情を押し殺しながらそう言うと、ミヨコ姉が複雑な表情をした。

「心配は……うん、凄くしたよ。ねぇ弟くん、今日出かけてから様子が変だったけど、一体何があったの?」

 ギュッとオレの手を握って、澄んだ瞳でオレの目を覗き込んでくるけれど……思わずオレはその手を払い除けてしまう。

「別に、何も無いよ」

「そんなわけない! 帰ってからの弟くん、凄く変だったよ!」

 変――そう、変だったかもしれない。

 意図して考えないようにしていたが……オレは元々、ろくに喧嘩もしたことも無いような人間だ。

 そんなオレが訓練だの戦いだの何かを守るだの考えるなんて、変以外のなにものでもないだろう。

 だから、悪意をぶつけられれば恐怖も感じるし、心だって折れそうになる。

 きっと、誰だって死にそうな思いをしてみれば……もう一度、そんなことが起こるかもしれないと考えれば、怖くなるはずだ。

「確かに……変だったのかもね。オレなんかが、誰かを守りたいなんて言うのは」

 人間には、身の程って物があるのかも知れない――。

 そんな事がチラッと頭の片隅を過った所で……温かい感触に包まれた。

「……ミヨコ姉?」

「ごめんね……」

 突然ミヨコ姉に抱きしめられ、呆然としていると謝られた。

「えっと……何が、ごめんなの?」

 ミヨコ姉の温もりを……心臓の音を聞きながら、問い返す。

「弟くんが頑張ってるのに、気づいてあげられなくてごめんね。弟くんが苦しんでるのに、気づいてあげられなくてごめんね。弟くんが泣くほど辛かったのに、近くにいてあげられなくてごめんね」

 そう言ってミヨコ姉がオレの頬に触れ……初めて、オレは自分が泣いている事に気づいた。

「私は、何も弟くんの為に何もしてあげられてないけど……でも、弟くんがあの研究所で、必死に私とナナちゃんを守ってくれたのだけは知ってるから。そして、今も私たちのために頑張ってくれてるのも知ってるから。だから、そんなふうに自分を卑下するみたいに言わないで」

「……っ」

 別に、見返りなんて求めてなんてなかった。

 ――彼女達を救いたい。

 それは、単なるオレのエゴでしかなかった。

 苦しむ彼女達をできるなら見たくない、ただそれだけだ。

 でも、ナナとミヨコ姉を助けるにあたって……救うことは容易じゃないということに気づいてしまった。

 もし、騎士団が来るのが少しでも遅れていれば?

 もし、途中でナナがオレ達の所に来なければ?

 オレやミヨコ姉は言うに及ばず、ナナまでも死んでいたかも知れない。

 それは――ゲームの時以上のバッドエンドで。

 あの時そうならなかったのは、たまたま運が良かっただけなのだと気づいてしまって……。

 オレが介在する事で、逆に彼女達がより不幸になる可能性もあると言う事に気づいてもしまって――これ以上何かをしない方が良いのではないかなんてことも、考えた。

 それが、オレの心に植え付けられた恐怖に起因することなのかも分からないままに。

 だけど……。

 だけど、こうして感じるミヨコ姉の暖かさは本物で。

 もし、オレが介入しなければ彼女がココにいる事はないと、オレだけは知っていて……。

「……ミヨコ姉は、ここにいて幸せ?」

「え?」

 オレの突然の質問に驚いたのだろう、その空よりも澄んだ青い瞳を大きく見開いた後――彼女は、優しく微笑んだ。

「うん。ナナちゃんが居て、弟くんが居て、騎士団の人達が居る……そんな今の状況がとっても幸せだよ。夢なんじゃ無いかって、思っちゃうくらいには」

 そう微笑む彼女の顔は――ミヨコ姉の顔は、これ以上ないほど澄んでいて。

 改めてオレは……自分がやったことは、間違いなんかじゃなかったんだと強く確信する。

 戦うことに対する恐怖は、ある。

 この先の未来に対する恐怖も、ある。

 だけどそれ以上に、彼女達を救いたいと――これ以上苦しんでほしくないと強く思う。

 なら恐ろしくても、怖くても前に進むしかない。

 がむしゃらで、不恰好で、ボロボロになっても、きっとオレにはそれしか出来ないから。

 痛いのも、怖いのも、辛いのも……あの何もできず、引きこもっていた日々よりはきっとマシな筈だから。

「そっか……」

 涙声ながらもオレがそう返すと、ミヨコ姉は一層オレの事を抱きしめてくれた。

 ――手を握りしめる。

 オレは、主人公の様に何でも出来るわけじゃない。

 オレは、団長の様に全てをねじ伏せる強さがあるわけじゃない。

 だけど……。

 だけど、きっとオレにしか出来ないことはあるから。

 だから、今は恐怖を飲み込んで前に進もう……そう思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...