チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

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1章

第17話 天神教徒

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 野菜類を教会内にある居住場所へ運び込終えると、オレとユフィはシスターに促されるままに2人で机を囲んでハーブティを飲んでいた。

「これ、すごく飲みやすいな」

 ふんわりと優しい香りと味のソレは、オレが想像していた苦味のあるハーブティとは全く違い、とても飲みやすい。

「そう? なら良かった、一応それもウチで育てたやつよ」

 ユフィの表情は殆ど動かさないながらも、オレの空になったティカップへ追加でお茶を注いでくれる。

 そんな彼女を見ながら、オレは先程聞いたことを改めて考える。

 ――天輪教。

 それが、ユフィ達が今信奉している宗派だという。

 だが、ゲーム内でのユフィが所属していた宗教は、天神教と呼ばれる宗派だった。

 ただ、彼女が私的な時に身につけていたロザリオは、天輪教のものだったため、何か理由があるのだろうと言う考察は出ていたが……オレの知る限り、その理由についてゲーム内で述べられることはなかった。

 だが、所属している宗派を変えることが並大抵のことではない事くらいは、理解ができる。

 では、なぜ彼女は宗派を変えたのか……ましてや、今天輪教に所属している彼女の方がゲーム内より遥かに幸せそうなのだから。

「ねぇ、突然黙り込んで何を考えてるの?」

 ユフィに顔を近づけながら尋ねられて、思わず言葉に詰まる。

「っつ、えっと……」

 いきなり宗旨替えを考えているかなんて聞くのは、いくらなんでも失礼に当たるのは分かっている。

 なら、別の聞き方をするしかない。

「……こんなことを聞くのも変かもしれないけど、天神教って知ってる?」

 ゲーム内で登場した教会――天神教について聞いてみると……ユフィが目に見えて眉を寄せて渋い顔をした。

「なんで、突然そんな事を聞いてくるの?」

 そう言ったユフィの声に、どこか苦々しいものが含まれている気がするのは、オレの気のせいではないだろう。

「あー……」

 何とか誤魔化せないか……そう考えたところで、彼女の閉じられた瞳を見る。

 ――彼女に、嘘や誤魔化しは無意味だ。

 なら、話せる範囲で本当の事を言うしかない。

「実は、天神教について良くない噂を聞いて、何か知ってるかと思って」

 そう言葉にした時には、彼女の黄金の瞳が開かれていた。

 金より輝き、透き通る様に美しいその瞳がオレの目を見返してくる。

「そう……ですか。あいにく、わたしが知ってる事は多くありません。ただ……」

「ただ?」

「彼らと私たちは決して相容れない存在です」

 そう吐き捨てるように言うとユフィは、天神教についての説明をしてくれた。

「天神教はほんの数年前まで、天輪教の分派だったんです。今ではすっかり力関係は逆転してしまっていますが……」

「……」

 皮肉げに言うユフィの話を聞いて、ふとした考えが頭をよぎる。

 ゲーム時点で天輪教が一切語られていなかったのは、恐らく天輪教が取り込まれてしまったか……消されてしまったのではないか?

 ただ、その結論に至る上でひとつ大きな疑問があった。

「なぜ、天神教は力を急激につけだしたんだ?」

「……原因は分かりません。ただ、彼らは各地の貴族と繋がって強大な力と資金を得て、今では国政にまで関わっているとの噂です」

「そうか……」

 貴族に取り入って力を得たのか、それともナニカの力を得たから求心力を得られたのか、その時系列については分からない。

 ただ一つ確かなことはこのまま連中を野放しにしておけば、ロクなことにならないということだけだった。

「それで、アナタ――センは、なんでそんな事を知りたかったの?」

「っつ……」

 ユフィが輝く金色の瞳でオレを見てきて、思わず息をのむ。

 聖魔眼――彼女が持つ、嘘や偽りを決して許さない瞳に対してオレは……。

 ――ドンドンドンッ

 どこからか、荒々しく扉を叩く音が聞こえてくる。

 それは一度だけでは終わらず、絶え間なく続いた。

「……また、来たのね」

 ボソリとユフィは呟くと、今いる部屋から講堂へと繋がる扉へ手をかけると、オレの方へと振り返る。

「悪いのだけれど、今日の話はこれくらいにさせてもらっても良い?」

「一体何が……?」

 オレが尋ねるよりも早く、ユフィはそそくさと部屋を出て言ってしまった。

 同時に、何か口論するような声が聞こえてくる。

「……この状況で黙って出ていくなんて、できないよな」
 
 思わず誰もいない部屋で苦笑いしながら、ユフィが出て行った扉を開けると、ユフィと修道服姿の男達4人が口論しているのが見えた。

 講堂内を見回してみる限り、他の信徒やシスターの姿は見えない。

 どこかへ出かけてしまったのだろうか?

 そんなことを考えている間に、男達の中の1人――みるからに人を見下す様な目をした青髪の男が、口を開く。

「我々はただを譲って頂きたいと言っているだけなのに、何故それを拒むのか理解に苦しむな」

 肩をすくめながら青髪がそう言うと、周りの男達が追従するが、対するユフィは臆する事なく反論する。

「失礼ですが、理解に苦しむのは私たちの方です。お婆さまが何度もお伝えしている様に、貴方達の様な方々に大切な遺物を渡すわけにはいきません!」

「貴様っ! たかが一シスター如きが神官様に何たる口の聞き方か!」

 取り巻きの男の1人が手を振り上げ――それを見た瞬間、何かを考えるより早く体が動き、一瞬で距離をつめると男の手を掴んでいた。

「ぐっ……何者だ!」

 ゆうに20cmは身長が大きいだろう男が怒鳴りつけて来るが、黙って睨み返す。

「セン……なんで出てきたの?」

 ポツリと、ユフィがつぶやく様に言ったのに対し、思わずオレは苦笑いする。

「むしろ、あのまま黙って帰るっていう選択肢はないでしょ」

 ギリギリと男の腕を締め上げながら言うと、ユフィは困惑顔を……男達はオレを警戒する様に見てきて、空気が不穏なものへと変わるのを感じる。

「……ガキ共が、こちらが温和に接していればつけ上がりおって」

 青髪の男が口走ると同時、ゾワリと産毛が逆立つ感覚があって、咄嗟に掴んでいた男の手を離すと、ユフィの前に立つ。

 ――なんだ、この威圧感は……。

 青髪男から感じる威圧感がドンドンと膨らんでいき……同時に、手足が震え始める。

 震えを必死に抑えようとすればする程、感じる威圧感は大きくなっていく。

「ガキの1匹も殺せば、気持ちが変わるか?」

 得体の知れない力とともに、オレの首元へ手を伸ばしてくる男を見て――オレは、グンザークにやられた事がフラッシュバックしてくる。

 ナナやミヨコ姉の前では極力出さない様にしていたが……グンザークにやられて入院していた時間は、有り体に言って地獄だった。

 みじろき一つするだけで絶叫したくなる様な痛みは、身と心にありありと恐怖を刻みつけていた。

 今回もグンザークの時のように壊されるのでは無いかと言う恐怖を一度想起してしまえば、前後がわからなくなる程の恐怖を感じる。

 それでも必死に、ユフィに感づかれないように立っていると、張り詰めた空気を引き裂く様に声が聞こえてきた。

「貴方達! 何をしているんですか!?」

 視線を声がした入り口の方へと向けて見れば、そこには先程までの温和な表情とは打って変わり険しい表情をしたシスターが立っていた。

「ふぅ……シスターリーフ、別に何もしていないさ。まだ、ね」

 青髪の男がそう言うのを無視して、シスターが駆け寄ってくるとユフィを抱きしめた。

「2人とも、何もされませんでしたか?」

「大丈夫です、お婆さま……」

 抱きしめられたユフィが、シスターを安心させる様にその背中を叩いた後、オレの方へと顔を向けてくる。

「自分も大丈夫です」

「そうですか……すいません、教会から離れてしまって」

 シスターがオレに頭を下げたところで……青髪の男が深いため息をついた。

「我々は遺物を譲って貰いにきただけだと言うのに、これではまるで我々が悪いかの様ではないか」

「……聖遺物は何があってもお譲りするつもりは無いと、何度となくお伝えしている筈ですが?」

「まぁ良いさ、今日のところは引き返そう。だが、次回こそは良い返事を待っているよ?」

 しばし値踏みする様にオレ達を見ていた男達だったが、不穏な言葉を残すと帰っていった。

「はぁっ……」

 思わず、張り詰めていた空気を吐き出すと、心臓がバクバクと早鐘を打っている事に気づく。

 同時に、奴らが大人しく帰って行ったことに安堵する自分がいる事に苛立ちを覚えた。
 
「……すいません、怖い思いをさせしましたね」

 シスターからそう声をかけられ、我に戻る。

「……いえ、お気になさらず」

 そう言葉にするが、声が暗くなるのは抑えられない。

 騎士団に入り、訓練することで少しずつ強くなっていける……そう感じていたが、自分の中にある恐怖を理解してしまったから。

 もし仮に、奴らとまた出会った時に……オレは、立ち向かうことができるんだろうか?

 そんな事を考えた所で、ユフィがこちらに顔を向けていることに気づき――オレは、彼女の視線から逃げる様に教会から立ち去っていた。
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