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1章
第21話 家族
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青髪の男達が立ち去るのに合わせて、集まっていた群衆が立ち去っているのを確認したオレ達は教会の中へと入っていく。
教会内は外に比べれば荒れていなかったものの、美しかったステンドグラスは飛んで来た石で割られたのか、破片が室内に散乱していた。
「私が片付けておくので、2人は休んでいて下さい」
顔を逸らしながらユフィが部屋を出て行こうとしたので、慌ててその背中を追う。
「オレも手伝うよ」
「……どうも」
黙々と部屋を出て、掃除用具入れから箒を取り出したユフィは苦笑した。
「……見苦しいところをみせましたね」
「そんなことない……」
感情が抜け落ちた様なユフィの表情を見て、胸が締め付けられる様な気がする。
――それは、ゲーム内で何度となく見てきた彼女と被って見えて……。
だけど、オレにはユフィにかける言葉が見つからない。
「……おばあ様と二人で、静かに暮らしたかっただけなのに」
小さく漏らしたユフィの言葉を聞いて、掌に爪が食い込み血が流れだすほど拳を握りしめる。
「ごめん……」
心の底から、滲み出す様に謝罪をする。
オレの対応がもっと早ければ……オレがもっと上手く立ち回れていれば、こんな事には成らなかったかもしれないのに。
だが、ユフィはそんなオレの謝罪の言葉を首を横に振って否定した。
「別にセンが悪い訳じゃありません。悪いのは……あの人たちですから」
ユフィが紡ぎ出した言葉の中に、これまでユフィから感じた事がない感情……憎しみと呼ぶべき様な物を感じとる。
同時にユフィがどれだけこの場所を大切に思っていたかを、僅かながらに垣間見た。
彼女達の気持ちを本当の意味で理解する事は出来ない……だけど、もし仮に騎士団が同じような目にあったら? そう考えると、体が沸騰した様に熱くなっていく。
「……センは、騎士団の人間だったんですね」
突然、ユフィがそんなことを言う。
考えてみれば、ユフィに自分がどこに所属する人間か話した事は無かった。
「あ、ああ。騎士団に入ったのはついこの間の話だけどね」
なぜそんな事を聞いてきたのかわからいまま応えると、彼女が開いた黄金の瞳を揺らしながら、オレを見てきた。
「もし……もし、私がアナタに助けて欲しいって言ったら、助けてもらえますか?」
そう尋ねてきた彼女の声は、不安に揺れていて……それに対しオレは力強く頷いた。
◇ ◇ ◇
「この通りです! なんとか助けてください!」
教会の片付けをひとしきり終えたオレは、すぐに団長の部屋へ依頼に来たけれど、団長も副団長も別件で不在だったため、騎士団のNo3に当たるジェイの部屋へ頼みに来ていた。
「ミヨコ嬢ちゃん達が慌てて戻ってきたと思ったら、そんな事になってたのか……そりゃ話を聞いたら助けたいのは山々だけどよぉ」
頭を下げて頼みこむオレに対し、ジェイが渋い顔をした。
「お前も知っての通り、団長が不在のこの状況で勝手に騎士団を動かすわけにゃいかんし……ましてや話を聞く限り相手は、今のりにのってるアノ天神教だろ?」
状況を説明している中で、相手が天神教だと聞いたジェイは途端に渋い顔をした。
どうやら既に天神教は国内の貴族連中を取り込んでおり、やつらを相手にするということは、その貴族全般を敵に回すということだ。
当然その中には、天空騎士団への出資者も居て……。
「だから、悪いが騎士団として手助けをしてやることは出来ない」
そう言い切ったジェイの顔は、普段のふやけた表情とは違い、鋭い眼光と厳しい顔をしていた。
その表情は紛れもなく、総勢1000人以上に上る騎士団No3のもので……だが、それを見てもなおオレには引き下がることができない。
「……騎士団として手伝えないなら、オレだけでも彼女達の護衛につくことを許してください」
再度深く頭を下げるが、頭上からの声はソレを突き放した。
「それも許可できないな。お前は既に騎士団の一員で、しかもまだ見習いの身分だ。単独行動なんて許せるわけもない」
そう告げられて、カッと頭に血が上るのを感じる。
「だったら……だったら、見捨てろっていうのかよ! ふざけんな! 人を信用するのが苦手なあいつが、オレに頼ってきたんだ! それじゃあオレは、何のためにここに来たんだよ!」
感情が叫ぶままにまくし立てる言葉を、ジェイは黙って聞いた後……オレの髪をいつもの様にかき回した。
「ったく、お前は本当向こうみずのバカだな。……お前が護衛につくことは許せないが、代わりに俺が今日から護衛についてやるよ」
「……ジェイが?」
予想外の提案に、思わず目を見開く。
「ああ、騎士団としてこんな話――依頼は受けられねぇ。だが、俺個人として弟分の頼みを聞いてやるくらいは、まぁしてやってもいいだろ」
そう言ったジェイが、ニヤッと笑う。
「……大丈夫なのかよ?」
自分から頼んでおいて、思わずそんなことを尋ねてしまう。
ジェイは普段チャランポランだが、その実力は団長に次いで高い。
だから、彼が護衛につくなら下手な騎士が数人護衛につくより遥かに安心だけど……貴族に発覚した時の締め付けは、相当なものになるだろうし、その償いも楽には済まないだろう。
だから今更ながらに不安になり尋ねると、ジェイは何でもない様に笑った。
「ガキが大人の心配してんなって。だから、お前はくれぐれも1人で動こうとすんじゃねえぞ」
再度髪を乱暴にかき回すジェイの大きな手のひらを感じて、胸の内に感情の波が込み上げてくる。
「ありがとう、ジェイ」
深々と頭を下げたオレは、声が震えるのを抑えられなかった。
◇ ◇ ◇
ジェイの部屋を出て自室へと戻る途中、ミヨコ姉とナナが廊下に立っているのが見えた。
「弟くん……」
「お兄ちゃん……」
2人の顔はとても不安そうで……2人にそんな顔をさせたくなくて、オレは努めて明るい表情をする。
「ごめん2人とも、突然走って行っちゃって」
頭をかきながら軽く頭を下げるが、2人の顔色は晴れない。
「お兄ちゃん、何かあったの?」
純粋な瞳で、オレを見上げてくるナナを見て胸の内がズキリと痛む。
だが、2人に本当の事を話して迷惑をかけたくない。
もし、表に今回の話が出れば、オレとジェイは間違いなく何らかの罰を受けるだろうから。
「いや、別に何もないよ」
「……それは、嘘だよね?」
オレが誤魔化そうとすると、ミヨコ姉がピシャリと言葉を跳ね除けた。
「ナナも、お兄ちゃんは嘘をついていると思う」
ジッと山吹色に光るナナの瞳が見てきて、唇を噛み締める。
「弟くん……そんなに私たちは信頼できないかな?」
「そんなわけない!」
思わず、大きな声で否定する。
ゲーム内を除けばまだ1ヶ月足らずだけれど、それでも家族として彼女達と過ごしてきて、彼女達の事を現実の人間として知ることができた。
いつも明るい表情で、周りに元気を分けてくれるナナ。
いつも穏やかな表情で、オレとナナを見守ってくれるミヨコ姉。
オレからしてみれば天使の様な2人だったけれど、ゲームと違ってそれが全てじゃないことも知っている。
怒る事も有れば、泣く事も、苦しむこともある。
だけど、彼女達が心から信頼できる人だということも改めて知る事ができた。
――だけど。
「でも、話をしたら2人に迷惑をかけるかもしれないから」
そう言うと、2人が険しい顔をした。
「弟くん、私とナナちゃんは弟君にとっての何かな?」
突然そんな質問を投げられて、一瞬戸惑ってしまう。
「えっと……姉と、妹?」
「うん。家族、だよね? その家族である私たちが、弟くんが苦しんでることを迷惑だと感じると思うの?」
ミヨコ姉とナナがジッとオレを見てきて、思わず自嘲する。
オレが彼女たちのために、何でもしようと思うのと同じ様に、彼女たちがそう思ってくれているだろうという事を、まるで考えていなかった自分に呆れてしまう。
二人はもう、オレにとって唯一無二の家族なんだ――。
「ごめん……そして、ありがとう2人とも」
深く、深く頭を下げて2人を見るとニコッと笑っていて、思わずオレも笑顔になってしまう。
「お兄ちゃん、やっと笑った」
ナナに手を伸ばされて、オレもそっと手を伸ばしてしっかり握ると、今回の件について2人に話し始めた。
教会内は外に比べれば荒れていなかったものの、美しかったステンドグラスは飛んで来た石で割られたのか、破片が室内に散乱していた。
「私が片付けておくので、2人は休んでいて下さい」
顔を逸らしながらユフィが部屋を出て行こうとしたので、慌ててその背中を追う。
「オレも手伝うよ」
「……どうも」
黙々と部屋を出て、掃除用具入れから箒を取り出したユフィは苦笑した。
「……見苦しいところをみせましたね」
「そんなことない……」
感情が抜け落ちた様なユフィの表情を見て、胸が締め付けられる様な気がする。
――それは、ゲーム内で何度となく見てきた彼女と被って見えて……。
だけど、オレにはユフィにかける言葉が見つからない。
「……おばあ様と二人で、静かに暮らしたかっただけなのに」
小さく漏らしたユフィの言葉を聞いて、掌に爪が食い込み血が流れだすほど拳を握りしめる。
「ごめん……」
心の底から、滲み出す様に謝罪をする。
オレの対応がもっと早ければ……オレがもっと上手く立ち回れていれば、こんな事には成らなかったかもしれないのに。
だが、ユフィはそんなオレの謝罪の言葉を首を横に振って否定した。
「別にセンが悪い訳じゃありません。悪いのは……あの人たちですから」
ユフィが紡ぎ出した言葉の中に、これまでユフィから感じた事がない感情……憎しみと呼ぶべき様な物を感じとる。
同時にユフィがどれだけこの場所を大切に思っていたかを、僅かながらに垣間見た。
彼女達の気持ちを本当の意味で理解する事は出来ない……だけど、もし仮に騎士団が同じような目にあったら? そう考えると、体が沸騰した様に熱くなっていく。
「……センは、騎士団の人間だったんですね」
突然、ユフィがそんなことを言う。
考えてみれば、ユフィに自分がどこに所属する人間か話した事は無かった。
「あ、ああ。騎士団に入ったのはついこの間の話だけどね」
なぜそんな事を聞いてきたのかわからいまま応えると、彼女が開いた黄金の瞳を揺らしながら、オレを見てきた。
「もし……もし、私がアナタに助けて欲しいって言ったら、助けてもらえますか?」
そう尋ねてきた彼女の声は、不安に揺れていて……それに対しオレは力強く頷いた。
◇ ◇ ◇
「この通りです! なんとか助けてください!」
教会の片付けをひとしきり終えたオレは、すぐに団長の部屋へ依頼に来たけれど、団長も副団長も別件で不在だったため、騎士団のNo3に当たるジェイの部屋へ頼みに来ていた。
「ミヨコ嬢ちゃん達が慌てて戻ってきたと思ったら、そんな事になってたのか……そりゃ話を聞いたら助けたいのは山々だけどよぉ」
頭を下げて頼みこむオレに対し、ジェイが渋い顔をした。
「お前も知っての通り、団長が不在のこの状況で勝手に騎士団を動かすわけにゃいかんし……ましてや話を聞く限り相手は、今のりにのってるアノ天神教だろ?」
状況を説明している中で、相手が天神教だと聞いたジェイは途端に渋い顔をした。
どうやら既に天神教は国内の貴族連中を取り込んでおり、やつらを相手にするということは、その貴族全般を敵に回すということだ。
当然その中には、天空騎士団への出資者も居て……。
「だから、悪いが騎士団として手助けをしてやることは出来ない」
そう言い切ったジェイの顔は、普段のふやけた表情とは違い、鋭い眼光と厳しい顔をしていた。
その表情は紛れもなく、総勢1000人以上に上る騎士団No3のもので……だが、それを見てもなおオレには引き下がることができない。
「……騎士団として手伝えないなら、オレだけでも彼女達の護衛につくことを許してください」
再度深く頭を下げるが、頭上からの声はソレを突き放した。
「それも許可できないな。お前は既に騎士団の一員で、しかもまだ見習いの身分だ。単独行動なんて許せるわけもない」
そう告げられて、カッと頭に血が上るのを感じる。
「だったら……だったら、見捨てろっていうのかよ! ふざけんな! 人を信用するのが苦手なあいつが、オレに頼ってきたんだ! それじゃあオレは、何のためにここに来たんだよ!」
感情が叫ぶままにまくし立てる言葉を、ジェイは黙って聞いた後……オレの髪をいつもの様にかき回した。
「ったく、お前は本当向こうみずのバカだな。……お前が護衛につくことは許せないが、代わりに俺が今日から護衛についてやるよ」
「……ジェイが?」
予想外の提案に、思わず目を見開く。
「ああ、騎士団としてこんな話――依頼は受けられねぇ。だが、俺個人として弟分の頼みを聞いてやるくらいは、まぁしてやってもいいだろ」
そう言ったジェイが、ニヤッと笑う。
「……大丈夫なのかよ?」
自分から頼んでおいて、思わずそんなことを尋ねてしまう。
ジェイは普段チャランポランだが、その実力は団長に次いで高い。
だから、彼が護衛につくなら下手な騎士が数人護衛につくより遥かに安心だけど……貴族に発覚した時の締め付けは、相当なものになるだろうし、その償いも楽には済まないだろう。
だから今更ながらに不安になり尋ねると、ジェイは何でもない様に笑った。
「ガキが大人の心配してんなって。だから、お前はくれぐれも1人で動こうとすんじゃねえぞ」
再度髪を乱暴にかき回すジェイの大きな手のひらを感じて、胸の内に感情の波が込み上げてくる。
「ありがとう、ジェイ」
深々と頭を下げたオレは、声が震えるのを抑えられなかった。
◇ ◇ ◇
ジェイの部屋を出て自室へと戻る途中、ミヨコ姉とナナが廊下に立っているのが見えた。
「弟くん……」
「お兄ちゃん……」
2人の顔はとても不安そうで……2人にそんな顔をさせたくなくて、オレは努めて明るい表情をする。
「ごめん2人とも、突然走って行っちゃって」
頭をかきながら軽く頭を下げるが、2人の顔色は晴れない。
「お兄ちゃん、何かあったの?」
純粋な瞳で、オレを見上げてくるナナを見て胸の内がズキリと痛む。
だが、2人に本当の事を話して迷惑をかけたくない。
もし、表に今回の話が出れば、オレとジェイは間違いなく何らかの罰を受けるだろうから。
「いや、別に何もないよ」
「……それは、嘘だよね?」
オレが誤魔化そうとすると、ミヨコ姉がピシャリと言葉を跳ね除けた。
「ナナも、お兄ちゃんは嘘をついていると思う」
ジッと山吹色に光るナナの瞳が見てきて、唇を噛み締める。
「弟くん……そんなに私たちは信頼できないかな?」
「そんなわけない!」
思わず、大きな声で否定する。
ゲーム内を除けばまだ1ヶ月足らずだけれど、それでも家族として彼女達と過ごしてきて、彼女達の事を現実の人間として知ることができた。
いつも明るい表情で、周りに元気を分けてくれるナナ。
いつも穏やかな表情で、オレとナナを見守ってくれるミヨコ姉。
オレからしてみれば天使の様な2人だったけれど、ゲームと違ってそれが全てじゃないことも知っている。
怒る事も有れば、泣く事も、苦しむこともある。
だけど、彼女達が心から信頼できる人だということも改めて知る事ができた。
――だけど。
「でも、話をしたら2人に迷惑をかけるかもしれないから」
そう言うと、2人が険しい顔をした。
「弟くん、私とナナちゃんは弟君にとっての何かな?」
突然そんな質問を投げられて、一瞬戸惑ってしまう。
「えっと……姉と、妹?」
「うん。家族、だよね? その家族である私たちが、弟くんが苦しんでることを迷惑だと感じると思うの?」
ミヨコ姉とナナがジッとオレを見てきて、思わず自嘲する。
オレが彼女たちのために、何でもしようと思うのと同じ様に、彼女たちがそう思ってくれているだろうという事を、まるで考えていなかった自分に呆れてしまう。
二人はもう、オレにとって唯一無二の家族なんだ――。
「ごめん……そして、ありがとう2人とも」
深く、深く頭を下げて2人を見るとニコッと笑っていて、思わずオレも笑顔になってしまう。
「お兄ちゃん、やっと笑った」
ナナに手を伸ばされて、オレもそっと手を伸ばしてしっかり握ると、今回の件について2人に話し始めた。
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