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1章
第25話 温もり
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「こんばんは、セン」
挨拶と共にオレの居る病室にやって来たのは、初めて会った時と同じ白い修道服に身を包み、美しい銀色の髪を携えたユフィだった。
うつむきながら入ってきた姿は、意識を失う前に見た鬼気迫るものでは無いが、彼女の不安を表す様にその指先が握ったり伸ばされたり、せわしなく動いていた。
「こんばんはユフィ、どうかした?」
何故彼女が挙動不審なのか判断がつかなかったが、彼女の不安をあおらない様に、極力穏やかに笑いかけるも、声をかけられたユフィはビクリと体を震わせた。
「えっと……体調は大丈夫?」
「見ての通り良くは無いけど、まぁその内治るんじゃないかなぁ」
「そう……なら、良かった」
平坦な――敢えて感情を表に出さないその声に、彼女の不安がありありと出ている。
だがなぜ彼女はそんなに不安になっているのか……いや、これは不安じゃなくてオレに恐怖を抱いている?
そう思った所で、ふと意識を失う前の事を思い出す。
――彼女は、オレがオカシクなるのを目の当たりにしてしまったんだ。
その事に思い至ると、彼女の不安げな表情も、挙動不審なことも納得できた。
――まぁ、しょうがないよな。
内心、苦笑いしてしまう。
神父との戦闘中の事は、ほとんど朧《おぼろ》げにしか覚えていない。
だが、自分が何をしたのかはよくわかっている。
連中――御使いの園の連中に埋め込まれたアレを無理やり引き出し……結果、暴走したんだろう。
ゲーム内でのナナやミヨコ姉が暴走している状態を知っているからこそ、どんな状態だったのかは容易に想像できる。
――アレは、人である事を捨てさせるためのモノだ。
「その、怖い思いをさせてゴメン。事情は……団長に確認とらないと話せないけど、ごめん」
「えっ?」
俺が言葉と共に頭を下げると、ユフィが口を開けてポカンとした顔をしている。
――あれ? もしかしてオレ何か早とちりした?
そんな事を考えていると、ユフィがクスリと笑った。
「何でセンが謝るの? むしろ、おばあ様を助けてくれてありがとう」
そう言ってユフィが少しぎこちない笑顔と共に頭を下げると、肩ほどまでで切り揃えられた美しい銀髪が流れ落ちた。
「えっと……助けられたならよかったよ。ただ本来なら、騎士団の意向を確認して一緒に行くべきだったかなぁとは思うけどね」
今回の件については、完全なオレの独断専行となってしまっていた。
ただでさえジェイに迷惑をかけていたのに、あの時点でそれ以上の問題を持ち込むのが正しいかは別にして、相談はしておくべきだっただろうと思う。
「ううん。あの時センが駆けつけてくれなかったら危なかったから……本当に、ありがとう」
再度頭を下げたユフィが、その顔を上げた時――その瞳は、先程までと違ってしっかりと見開かれていた。
「あのねセン。あなたに、私の……秘密にしていた事を打ち明けるから、聞いてもらえる?」
少し不安げな、それでいて確かな意思を宿した瞳にオレは頷き返した。
「ありがとう。普段閉じている私のこの目についてなんだけど……」
そんな前置きをしたうえで、ユフィは自分の眼――聖魔眼についての話を始めた。
――彼女の最大の秘密と言っても良い、人の感情を読めると言う事実を。
幼少の頃の経験を交えながら話す彼女の姿をみてオレは、思わず脳裏に主人公へ同じ話をするユフィの姿を一瞬思い出す。
だが、今話をしている彼女の姿はゲーム内の彼女ほど悲壮感が漂っておらず、そのことに内心ホッとしていると……続いて彼女が発した言葉に心臓が跳ね上がった。
「――それでセン。ここからが本題なんだけど……貴方の目的は一体何?」
嘘を許さない瞳で、彼女はジッとオレをみてくる。
だが、目的と言われても彼女が何を聞きたいのか察しがつかなかった。
「……えっと、目的って何の事?」
「とぼけては……いないみたいだから言うけど、アナタはなんで最初に会った時から私の事を知っていて、力に成ろうとしてくれたのか教えてほしいの。その裏には何か目的があるんじゃないの?」
そう尋ねられて……思わず苦笑してしまう。
ゲームの時と違い、今のユフィは絶対に眼を使わないという強い意識は無く、そうであるからこそこうやって気づかれるのも時間の問題だろうとは思っていた。
だからオレは、彼女へあらかじめ考えていた内容を伝えることを決意する。
「……多分信じられないと思うけど、オレも極力嘘のない範囲で応えるよ」
「すべての真実を話すって訳では、無いのね?」
苦笑しながらユフィに言われて、思わず頭をかく。
「そこは……ゴメン」
正直に頭を下げると、ユフィは首を横に振った。
「ううん、見えてる嘘を言われるよりはずっといいから、気にしないで」
そう応えられてオレは、話を始める。
「まず、オレがユフィを知ってた理由は、以前ユフィ達が出て来る物語を読んだ事があるからなんだ」
オレが言った言葉を聞いて、ユフィは首をわずかにかしげた。
「……私たちが出る物語?」
「うん、そう。とは言え、出て来るのは今のユフィ達じゃなくて、未来のユフィ達だけどね」
肩を竦めながら言うと、目を閉じて暫くユフィは何か考えていた。
「えっと……色々聞きたいけど、続けて」
「わかった。えっと……その物語にはユフィを含めた多くの人が出て来るんだけど、それがあまり良くない終わり方をしたんで、何とかしたい……それが目的といえば目的かな」
そう嘘のない範囲で正直に説明すると、ユフィが頭を抱えた。
「えっと、要するにセンは未来から来たってこと?」
「いや、あー……でも近いかな。違うのは、その物語にオレが居ないだけで」
苦笑いしながら応えると、ユフィは目を見開いた。
「えっ? なんでその物語にセンが居ないの?」
純粋に疑問に感じたのだろう、少し声を高くしながら質問して来るユフィに対し、思わず言葉が詰まる。
まさか、この世界には元々存在しない人間だからとも言えず……嘘のない範囲で応えることにした。
「……その未来では、既にオレは死んでるからさ」
「っ……」
そう答えると驚きからかユフィが言葉を詰まらせ……目を伏せた。
「そっか……。だからあんなに……」
聞こえるか聞こえないかの小ささでユフィはそう言った後、少し眉をひそめながら笑った。
「ねぇセン。1つだけ教えて」
「……応えられることなら、いいよ」
「うん。その……センが読んだ物語でも、私たちの教会は燃やされてたの?」
「っつ……」
そう尋ねられて、今度はオレが言葉に詰まった。
彼女に対する答えは、教会が燃やされたと言う記載は無かっただ。
世界の誰よりもあのゲームをプレイし、あらゆる資料に目を通していたけれど、そんな記載はなかった。
だが、だからこそ教会が燃えたのはオレのせいかも知れなくて……。
オレのせいで、皆が傷ついたかも知れなくて――。
沈んでいく意識の中そう考えた所で、体が温かい感触に包まれた。
「ごめん、セン。別にセンを責めたかったわけじゃない……ううん。もしかしたら、今まで攻めてたのかも知れない。だけど……そんな風に自分を責めて欲しいわけじゃないの」
諭すような、囁くような声を聞いて顔を上げてみれば、ユフィがオレの事を抱きしめていた。
「でも、オレはユフィ達に酷い事をしたのかも……」
「そんなわけない! センが悪意を持って私達に接していなかった事は、誰よりも……あなた自身よりも、その心を見ていた私が知っているから!」
そんな風に慰められて……この世界に来て初めて、本音に近い所の自分が受け入れられた気がして、思わずオレはその温もりの中で涙を流した。
挨拶と共にオレの居る病室にやって来たのは、初めて会った時と同じ白い修道服に身を包み、美しい銀色の髪を携えたユフィだった。
うつむきながら入ってきた姿は、意識を失う前に見た鬼気迫るものでは無いが、彼女の不安を表す様にその指先が握ったり伸ばされたり、せわしなく動いていた。
「こんばんはユフィ、どうかした?」
何故彼女が挙動不審なのか判断がつかなかったが、彼女の不安をあおらない様に、極力穏やかに笑いかけるも、声をかけられたユフィはビクリと体を震わせた。
「えっと……体調は大丈夫?」
「見ての通り良くは無いけど、まぁその内治るんじゃないかなぁ」
「そう……なら、良かった」
平坦な――敢えて感情を表に出さないその声に、彼女の不安がありありと出ている。
だがなぜ彼女はそんなに不安になっているのか……いや、これは不安じゃなくてオレに恐怖を抱いている?
そう思った所で、ふと意識を失う前の事を思い出す。
――彼女は、オレがオカシクなるのを目の当たりにしてしまったんだ。
その事に思い至ると、彼女の不安げな表情も、挙動不審なことも納得できた。
――まぁ、しょうがないよな。
内心、苦笑いしてしまう。
神父との戦闘中の事は、ほとんど朧《おぼろ》げにしか覚えていない。
だが、自分が何をしたのかはよくわかっている。
連中――御使いの園の連中に埋め込まれたアレを無理やり引き出し……結果、暴走したんだろう。
ゲーム内でのナナやミヨコ姉が暴走している状態を知っているからこそ、どんな状態だったのかは容易に想像できる。
――アレは、人である事を捨てさせるためのモノだ。
「その、怖い思いをさせてゴメン。事情は……団長に確認とらないと話せないけど、ごめん」
「えっ?」
俺が言葉と共に頭を下げると、ユフィが口を開けてポカンとした顔をしている。
――あれ? もしかしてオレ何か早とちりした?
そんな事を考えていると、ユフィがクスリと笑った。
「何でセンが謝るの? むしろ、おばあ様を助けてくれてありがとう」
そう言ってユフィが少しぎこちない笑顔と共に頭を下げると、肩ほどまでで切り揃えられた美しい銀髪が流れ落ちた。
「えっと……助けられたならよかったよ。ただ本来なら、騎士団の意向を確認して一緒に行くべきだったかなぁとは思うけどね」
今回の件については、完全なオレの独断専行となってしまっていた。
ただでさえジェイに迷惑をかけていたのに、あの時点でそれ以上の問題を持ち込むのが正しいかは別にして、相談はしておくべきだっただろうと思う。
「ううん。あの時センが駆けつけてくれなかったら危なかったから……本当に、ありがとう」
再度頭を下げたユフィが、その顔を上げた時――その瞳は、先程までと違ってしっかりと見開かれていた。
「あのねセン。あなたに、私の……秘密にしていた事を打ち明けるから、聞いてもらえる?」
少し不安げな、それでいて確かな意思を宿した瞳にオレは頷き返した。
「ありがとう。普段閉じている私のこの目についてなんだけど……」
そんな前置きをしたうえで、ユフィは自分の眼――聖魔眼についての話を始めた。
――彼女の最大の秘密と言っても良い、人の感情を読めると言う事実を。
幼少の頃の経験を交えながら話す彼女の姿をみてオレは、思わず脳裏に主人公へ同じ話をするユフィの姿を一瞬思い出す。
だが、今話をしている彼女の姿はゲーム内の彼女ほど悲壮感が漂っておらず、そのことに内心ホッとしていると……続いて彼女が発した言葉に心臓が跳ね上がった。
「――それでセン。ここからが本題なんだけど……貴方の目的は一体何?」
嘘を許さない瞳で、彼女はジッとオレをみてくる。
だが、目的と言われても彼女が何を聞きたいのか察しがつかなかった。
「……えっと、目的って何の事?」
「とぼけては……いないみたいだから言うけど、アナタはなんで最初に会った時から私の事を知っていて、力に成ろうとしてくれたのか教えてほしいの。その裏には何か目的があるんじゃないの?」
そう尋ねられて……思わず苦笑してしまう。
ゲームの時と違い、今のユフィは絶対に眼を使わないという強い意識は無く、そうであるからこそこうやって気づかれるのも時間の問題だろうとは思っていた。
だからオレは、彼女へあらかじめ考えていた内容を伝えることを決意する。
「……多分信じられないと思うけど、オレも極力嘘のない範囲で応えるよ」
「すべての真実を話すって訳では、無いのね?」
苦笑しながらユフィに言われて、思わず頭をかく。
「そこは……ゴメン」
正直に頭を下げると、ユフィは首を横に振った。
「ううん、見えてる嘘を言われるよりはずっといいから、気にしないで」
そう応えられてオレは、話を始める。
「まず、オレがユフィを知ってた理由は、以前ユフィ達が出て来る物語を読んだ事があるからなんだ」
オレが言った言葉を聞いて、ユフィは首をわずかにかしげた。
「……私たちが出る物語?」
「うん、そう。とは言え、出て来るのは今のユフィ達じゃなくて、未来のユフィ達だけどね」
肩を竦めながら言うと、目を閉じて暫くユフィは何か考えていた。
「えっと……色々聞きたいけど、続けて」
「わかった。えっと……その物語にはユフィを含めた多くの人が出て来るんだけど、それがあまり良くない終わり方をしたんで、何とかしたい……それが目的といえば目的かな」
そう嘘のない範囲で正直に説明すると、ユフィが頭を抱えた。
「えっと、要するにセンは未来から来たってこと?」
「いや、あー……でも近いかな。違うのは、その物語にオレが居ないだけで」
苦笑いしながら応えると、ユフィは目を見開いた。
「えっ? なんでその物語にセンが居ないの?」
純粋に疑問に感じたのだろう、少し声を高くしながら質問して来るユフィに対し、思わず言葉が詰まる。
まさか、この世界には元々存在しない人間だからとも言えず……嘘のない範囲で応えることにした。
「……その未来では、既にオレは死んでるからさ」
「っ……」
そう答えると驚きからかユフィが言葉を詰まらせ……目を伏せた。
「そっか……。だからあんなに……」
聞こえるか聞こえないかの小ささでユフィはそう言った後、少し眉をひそめながら笑った。
「ねぇセン。1つだけ教えて」
「……応えられることなら、いいよ」
「うん。その……センが読んだ物語でも、私たちの教会は燃やされてたの?」
「っつ……」
そう尋ねられて、今度はオレが言葉に詰まった。
彼女に対する答えは、教会が燃やされたと言う記載は無かっただ。
世界の誰よりもあのゲームをプレイし、あらゆる資料に目を通していたけれど、そんな記載はなかった。
だが、だからこそ教会が燃えたのはオレのせいかも知れなくて……。
オレのせいで、皆が傷ついたかも知れなくて――。
沈んでいく意識の中そう考えた所で、体が温かい感触に包まれた。
「ごめん、セン。別にセンを責めたかったわけじゃない……ううん。もしかしたら、今まで攻めてたのかも知れない。だけど……そんな風に自分を責めて欲しいわけじゃないの」
諭すような、囁くような声を聞いて顔を上げてみれば、ユフィがオレの事を抱きしめていた。
「でも、オレはユフィ達に酷い事をしたのかも……」
「そんなわけない! センが悪意を持って私達に接していなかった事は、誰よりも……あなた自身よりも、その心を見ていた私が知っているから!」
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