チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

文字の大きさ
26 / 36
1章

第24話 目覚め

しおりを挟む
 ――血と肉の焼ける匂いが、鼻を刺激する。

 ――視界は血と白煙で見えなくなっていたが、誰かの声が聞こえた気がする。

 ――誰の物なのか、何て言ったのかはわからない。

 ――だけど……何度も繰り返し聞いた声だったと思う。

 ――どこか、悲しげな声だった様に思う。

「センッ、正気に戻って!」

 濁った瞳で声のした方を見てみるが……焦点が定まらず、誰が何を言っているのか理解できない。

 ただ、彼女の背後に別の人影が見えた時、体は勝手に飛びかかっていた。

「ア゛ア゛ア゛亜阿ア゛あ゛あ゛あ゛」

 彼女の背後に立つ誰かへと上空から手を伸ばし――その腕を受け止められる。

「すみません、遅くなりました。そして、今しばらく眠っていなさい」

 その言葉が耳に入った直後、全身に強い衝撃が走り、視界が強制的に遮断された。

◆◆◆

 沈んでいた意識が、内臓をミキサーにかけられている様な不快感と、全身の神経を焼かれる様な激痛に目をさます。

「いっつあぁ……」

 思わず漏れた言葉を押し殺しながら周囲を確認してみれば、見慣れた騎士団の医務室がそこにはあった。

 あの状況から生きていた……その事に安心した途端、急速に胸の内を恐怖がしめつける。

 直前――意識を失う前のことは殆ど覚えていなかったが、あの神父と戦った時の自分がまともじゃない状態だったことは認識している。

 そして、した状態が以前よりも悪化しているだろうことも。

 自分の意識が侵食されていき、自分が自分ではないナニカ――化け物になっていく感覚に、手足が勝手に震えだす。

 痛いのは我慢できた、辛いのも何とかなる……だが元々あった肉体を無くしたオレが、意識さえなくなったらソレは誰になるんだろうか?

 そんな事を考えて、目の前が暗くなったような感覚に陥っていると、扉がノックされた後に開かれた。

「――弟くん?」

「お兄ちゃん!?」

 どこか影のさした表情で部屋へ入ってきて、目を見開くミヨコ姉と、口を大きく開いたナナがそこにはいた。

 二人の姿を見て、心が軽くなったのを感じると共に、全身に走る痛みをこらえながら口角を上げて、笑顔を浮かべる。

「おはよう、2人とも」

 なんて言うのが正しいのか分からなかったが、取り敢えず挨拶するとナナがオレに抱きつこうとして――それをミヨコ姉が止める。

 ミヨコ姉は不安とも、悲しみとも形容出来る様な眉をひそめた顔でオレを見てきた。

「目が覚めてよかった……」

 目元をぬぐい、嗚咽《おえつ》まじりにそう言ったミヨコ姉の言葉が、深く胸に突き刺さる。

 あの状況から、羽を使わずに抜け出す方法があったとは思えない――だけれど、羽を使うという事がどう言うことなのか、オレ以上に二人は実感としてかんじているだろうから……。

 だからオレは、深々と頭を下げた。

「……心配かけて、ごめんなさい」

 するとミヨコ姉は。その瞳に涙をにじませながら目を細めた。

「すごく、すっごく心配したんだよ?」

「うん……」

「弟くんが目覚めるまで3日間……ずーっと……もしかしたら、もう目が覚めないんじゃないかって……」

 そこまで言ったミヨコ姉は、声を押し殺しながら泣いていた。

「ミヨコ姉、ナナ。ごめんなさい」

 心から深く謝罪する。

 もし、オレが逆の立場だったらと考えると、きっと居ても立っても居られないから。

 涙を流すミヨコ姉を見ていると、思わずある考えが湧き出してくる。

 ――オレがやったことは……はたして正しかったのだろうか?

 教会が燃えているのを見た時から……いや、ミヨコ姉やナナがオレの目の前で傷つけられているのを見た時から、その疑問は常について回っていた。

 オレがもっと上手く立ち回れていれば、ナナやミヨコ姉は怪我をせずに済んだかもしれない。

 もっと上手く立ち回れていれば、ユフィやシスターが大切にしていた教会は、燃えずにすんだかもしれない。

 オレがあんなことを頼まなければジェイは……。

 そこまで考え至った所で、思わずナナに問いかける。

「ジェイは……ジェイは無事?」

 心臓が激しく脈打ち、言い様の無い不安で胸がしめつけられたが、答えを――オレの行動の結果を待つ。

「オジサンなら一緒に入院してるけど……お兄ちゃんより元気そうだよ?」

 その答えを聞いて、思わず安堵のため息をついた。

 幾つかの武器が体を貫通し、大量の血を流していたジェイの姿を見た時は……最悪の結末しかないと思っていたから。

 そんなことを考えていると、ミヨコ姉が涙を溜めた瞳でオレを見てきた。

「――弟くん、約束して」

 意志のこもった、強い声が耳に――胸に響く。

「今後、危ないことをする時は私かナナちゃん、後は騎士団の人でもいいから、誰かに相談して。私……これ以上弟くんが知らない間に傷つくのは、見てられないよ」

 ミヨコ姉がそう言うと、ナナも精一杯目を細めてオレを睨んでくる。

「お兄ちゃんは、すっごく悪い人だよ! そんなにいっぱい怪我して、ミヨコお姉ちゃんやナナを心配させたんだから!!」

 オレがケガしているのを見て涙を流し、怒ってくれる2人に先ほどとは別の感情に胸がしめつけられる。

「ありがとう……そしてごめんなさい。今後もし危ない事をするときは、2人か……誰かに相談するようにするよ」

 こんなオレでも心配してくれる人がいるのだという事に、体の痛みさえ忘れて感謝の気持ちがあふれ出した。

◇◇◇

 二人にはオレが眠っていた3日間に起きた出来事を、大まかに確認した。

 まず、ジェイが大怪我をする原因になった人たち(洗脳されていた人たちも含む)は身柄を拘束し、国へと引き渡したそうだ。

 ただ、オレが倒した神父については――生死の境をさまよっていたらしく、厳重な監視の中で入院していたそうだが、現在は騎士団の方で身柄を押さえ、尋問中とのことだった。

 ユフィやシスターが大切にしていた教会を燃やし、ジェイを傷つけた男が生きている……その事に複雑な気持ちはあったものの、それでもオレは少しだけ安堵してしまった。

 人を殺すこと――やはり、それに対する忌避感はとても大きい。

 もしジェイが死んでしまっていたとしたら……多分、奴をコロしに行ったかもしれない。

 ただそうじゃないのなら、例えどんな悪人であっても人を殺すことを、正しいとは思えなかった。

 ――そもそもオレ自身が善人じゃないのに、悪人だから殺すなんて……出来るわけないよな。

 問診が終わって1人になった病室で、思わず苦笑いをしてしまう。

 この世界に来る前のオレは、決して人に胸を張れる様な人間ではなかった。

 むしろ、関りのある人や家族からは疎まれていただろう。

 もしかしたら、居なくなってほしいと思っていた人もいたかもしれない。

 だからこそ、身勝手に人を傷つける事がいいことだとは思えなかった。

 もし、相手に大切な人が居たら?

 もし、相手を大切だと思っている人が居たら?

 心の底から大切だと思える……救いたいと思う人たちが今はいるからこそ、ついそんな事を考えてしまう。

 多分、オレは臆病な人間なんだろう……。

 オレが起きたことをローズさんへ伝える為に、二人が居なくなった部屋でそんな事を考えていると、病室の扉がノックされた。

「どうぞー」

 そう答えても、来客は中々扉を開けなくて、間違えて隣の病室に用がある人だったのかな? なんて事を考えていると、ためらいがちに扉が開かれる。

「こんばんは、セン」

 普段とは違う、少し低い声で扉を開けて入って来たのは、僅かに視線を下げたユフィの姿だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...