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1章
第23話 十字架
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「来いよエセ神父、テメェはぜってえ許さねえ」
速さでは敵わない、力でも敵わない、魔法の腕も良くて互角……力量差は明白だ。
だが、今オレはここを引くつもりはない。
「……それは私を、ひいては天神教を馬鹿にしているのですか?」
鋭い瞳で睨まれるが、怒りという意味ではこっちはとっくに突き抜けている。
せめて相手の感情を動かすように、冷静な判断を少しでも見失うように、鼻で笑いながら言い放つ。
「だとしたら?」
そう尋ねた瞬間、目の前の神父から発される圧力が跳ね上がった。
全身の毛は肌で感じる圧力によって逆立ち、空間さえも掌握されたかの様に呼吸するのさえ苦しくなってくる。
「キサマのその態度……万死に値する!」
言葉と共に霞《かすみ》の様に神父の姿がかき消えた――と認識したと同時、心臓を守るようにナイフを滑らせると、鋭い衝撃が腕に走る。
「っく……」
地面を削り、大きく後退しながらも辛うじて打撃を防ぐが、上下左右あらゆる角度から間断なく降り注ぐ暴力の雨は、目で追うことさえできない。
「どうした異教徒! その程度の力で私の前に立ち塞がったのか!」
目で追うのも困難な速さにも関わらず、その攻撃は例外なく致命的な打撃で、全身に巡らせた対物理用の障壁も瞬く間に削られていく。
一方でオレの攻撃は空を切るばかりで、掠りもしない。
だがそれでもオレは、不敵に笑いながら唾を吐き捨てる。
「はっ……教会の神父様はやっきになっても子供1人倒せないらしい」
発した声は震え、ただの負け惜しみにすぎなかったが、それでも神父が青筋を立てるのが分かった。
「……その口、すぐにきけない様にしてやる」
先程までとは異なり、両の拳に目に見えるほどの魔力……蒼く揺れる魔力を宿した神父は、音もなく目の前からかき消えた。
「どこに……?」
左右へ首を振った直後……背後から声がした。
「どこを見ている」
「っつ……」
全身を突き抜ける悪寒に合わせてナイフを振り抜くが……宙を浮いていた神父にかわされる。
「吹き飛べ」
限界まで引き絞られた神父の右脚がオレの腹にめり込むと、骨を砕きながら内臓まで到達して……瓦礫の山を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。
「うえっ……」
勢いよく燃え続ける残骸の山に叩きつけられたオレは、体の至る所に破片が突き刺さりながら焼かれ、思わず吐瀉物を撒き散らす。
「……っつ」
身じろぎするのさえ苦慮する中、神父が近づいてくる。
「……穿、て、雷槍!」
今できる最速で魔法陣を構築し、攻撃するが……それも悠々とかわされる。
激しく出血しているせいか、視界が定まらないが、それでも震える足で立ち上がった。
――まだ、オレは……負けてない。
「キサマには、せいぜい苦しんでもらわんとな」
神父はそう言うと、燃え盛る木片を持ち魔力を纏わせると……高速で投擲する。
「ぐっ……」
痛みと酸欠により不安定になっていた、全身を覆う魔力障壁は木片を阻む事ができず、深々とオレの左腕に突き刺さった。
それを見て、神父が口の端を釣り上げる。
「ホラ、まだまだ行くぞ」
「っ……」
貫通した破片のせいで思うように動かない体を懸命に動かし回避するが、次々と飛んでくる木片の幾つかが腕や脇腹を貫通する。
その度に脳を突き刺す様な痛みが走るが、それでも何とか足と致命傷となる攻撃だけは避けていく。
「っはぁ、っはぁ……所詮神父じゃ、騎士は殺せないみたい、だな」
血反吐を吐きながら、出血と痛みのせいで視界もおぼつかないけれど、それでもオレは憎まれ口を叩く。
「遊んでやっていれば……よほど、死にたいらしい。――もういい、死ね」
更に神父から感じる圧力が上がるとともに、チラリと背後を確認してみれば、既にシスターとジェイの姿はなかった。
――どうやらシスターは隙を見て、瀕死のジェイを連れてこの場から逃げてくれたようだ。
時間は、もう稼いだ。
人を巻き込む心配も……ない。
――ドクン
頭が理解すると同時、心臓が……その奥にあるアレが、跳ね回る。
「我が拳を持って、懺悔しろ」
高速で奴の体が近づいてくるのを感じると同時、胸の内で堰き止めていた感情と魔力を、放出する。
同時、意識が深い闇に飲まれていく。
「ああぁあぁあ亞ぁぁaaaaアッ」
全身が稲光に包まれる中、突っ込んできた奴の背後へ移動した。
「なっ!」
痛みも、損傷も無視した体は、限界を超えた動きで、ガラ空きの背中を斬りつける。
「がっ……」
即座に奴は体制を立て直して振り返るが、その時には既に移動していた。
頭を支配する暴力の渦に身を任せ、奴を――目に見えるもの全てを切り刻む。
「あっ、がっ、ぐっ……」
上腕、太もも、胸、背、頬、指……。
手当たり次第に斬りつけ、切り刻む。
「くくく……」
ヤツの血が吹き出し、顔や腕にかかるたびにその官能的な温かさに酔いしれていく。
「はハハハハハhahaハッ」
自分が何をしているのか、何が起こっているのかさえわからないままに、本能に任せて刃を振るい切り刻む。
「なめ……るなあああああっ」
神父がこれまでを遥かに上回る勢いで拳を突き出し……それをかわそうとするが……足に突き刺さった破片の所為で動けず顔面へと直撃し、弾き飛ばされた。
視界が縦に三回転ほどした後、地面に叩きつけられるが……既に体は痛みを感じなくなっていた。
「……」
自身の血によって、視界が真っ赤に染まる中立ち上がると……口からはドス黒い液体が漏れ出す。
加えて頭の角度が歪んで見えていたため、自分の頭を掴むと、力任せに修正する。
「化け物が……」
「……」
ユラユラと定まらない視界の中で、一歩一歩真っ赤に染まったヤツへと近づいていく。
「遊びは終わりだ……」
そんな言葉とともに、神父の魔力が引き絞った右拳に集約され――突き出される。
「猛虎、蒼連撃!」
そんな掛け声と共に放たれた一撃は、間違いなく高速――本来なら避けるのさえ困難で、鋼さえ容易く打ち砕いたのだろうが……。
「なぜ、当たらない! 何故かわせる!」
高速の17連撃――そんな何度となく見慣れた打撃は一つとして当たることなく、オレはがら空きの胴体へナイフを突き入れる。
「ゴフッ……」
深々と突き刺したナイフをこね回そうとして――その腕を掴まれる。
それでも何とか腕を動かそうとするが、無理に動かしたせいか肩の関節が外れて動かなくなる。
「キサマ、は、なんなんだ」
そう問いかける男の顔には先ほどまでの嗜虐的な笑みはなく、ありありと恐怖が浮かんでいた。
そんな動揺する神父を無視して、突き刺さったナイフの先端へ魔法陣を構築し0距離で雷矢を撃ち放ち――反動で弾き飛ばされる。
「っ……」
背中から勢いよく弾かれたオレは、巨大な十字架に勢いよく叩きつけられる。
前方は放った魔法の衝撃で土煙が上がっていたが、それもすぐに晴れると……奴はまだ立っていた。
「……神、よ」
しかしヤツの腹は真っ黒に焦げ付き、半ば炭化している。
「……」
その姿を確認したオレは叩きつけられた、身の丈ほどもある十字架を力任せに引き抜くと、それを引きずりながら神父へ近づいていく。
「……どうして貴方は、私にこんな試練を」
上空を見上げ言葉を発する男へと、一歩一歩近づいていく。
神父つられて空を見上げてみれば、星々が輝いていた。
「……ドス黒く、膨大な魔力。馬鹿げた肉体の頑強さ……。もしやキサマ、研究所から逃げ出したという実験体か!?」
まともに動かなくなった足を引きずりながら腕を振り上げて、十字架を頭の上へと掲げる。
「……ははは、はははははは。なるほど、神は見捨てていなかった! 私は、御身の計画の一部になると言うことですね!」
先程までの恐怖に震えていたのとは違い、両手を広げて歓喜の笑顔で迎え入れてくる男に対しオレは、手に持った十字架の狙いを定め――。
「やめてっ、センッ!」
――つんざく様な悲鳴が聞こえる中、勢いよく振り下ろした。
速さでは敵わない、力でも敵わない、魔法の腕も良くて互角……力量差は明白だ。
だが、今オレはここを引くつもりはない。
「……それは私を、ひいては天神教を馬鹿にしているのですか?」
鋭い瞳で睨まれるが、怒りという意味ではこっちはとっくに突き抜けている。
せめて相手の感情を動かすように、冷静な判断を少しでも見失うように、鼻で笑いながら言い放つ。
「だとしたら?」
そう尋ねた瞬間、目の前の神父から発される圧力が跳ね上がった。
全身の毛は肌で感じる圧力によって逆立ち、空間さえも掌握されたかの様に呼吸するのさえ苦しくなってくる。
「キサマのその態度……万死に値する!」
言葉と共に霞《かすみ》の様に神父の姿がかき消えた――と認識したと同時、心臓を守るようにナイフを滑らせると、鋭い衝撃が腕に走る。
「っく……」
地面を削り、大きく後退しながらも辛うじて打撃を防ぐが、上下左右あらゆる角度から間断なく降り注ぐ暴力の雨は、目で追うことさえできない。
「どうした異教徒! その程度の力で私の前に立ち塞がったのか!」
目で追うのも困難な速さにも関わらず、その攻撃は例外なく致命的な打撃で、全身に巡らせた対物理用の障壁も瞬く間に削られていく。
一方でオレの攻撃は空を切るばかりで、掠りもしない。
だがそれでもオレは、不敵に笑いながら唾を吐き捨てる。
「はっ……教会の神父様はやっきになっても子供1人倒せないらしい」
発した声は震え、ただの負け惜しみにすぎなかったが、それでも神父が青筋を立てるのが分かった。
「……その口、すぐにきけない様にしてやる」
先程までとは異なり、両の拳に目に見えるほどの魔力……蒼く揺れる魔力を宿した神父は、音もなく目の前からかき消えた。
「どこに……?」
左右へ首を振った直後……背後から声がした。
「どこを見ている」
「っつ……」
全身を突き抜ける悪寒に合わせてナイフを振り抜くが……宙を浮いていた神父にかわされる。
「吹き飛べ」
限界まで引き絞られた神父の右脚がオレの腹にめり込むと、骨を砕きながら内臓まで到達して……瓦礫の山を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。
「うえっ……」
勢いよく燃え続ける残骸の山に叩きつけられたオレは、体の至る所に破片が突き刺さりながら焼かれ、思わず吐瀉物を撒き散らす。
「……っつ」
身じろぎするのさえ苦慮する中、神父が近づいてくる。
「……穿、て、雷槍!」
今できる最速で魔法陣を構築し、攻撃するが……それも悠々とかわされる。
激しく出血しているせいか、視界が定まらないが、それでも震える足で立ち上がった。
――まだ、オレは……負けてない。
「キサマには、せいぜい苦しんでもらわんとな」
神父はそう言うと、燃え盛る木片を持ち魔力を纏わせると……高速で投擲する。
「ぐっ……」
痛みと酸欠により不安定になっていた、全身を覆う魔力障壁は木片を阻む事ができず、深々とオレの左腕に突き刺さった。
それを見て、神父が口の端を釣り上げる。
「ホラ、まだまだ行くぞ」
「っ……」
貫通した破片のせいで思うように動かない体を懸命に動かし回避するが、次々と飛んでくる木片の幾つかが腕や脇腹を貫通する。
その度に脳を突き刺す様な痛みが走るが、それでも何とか足と致命傷となる攻撃だけは避けていく。
「っはぁ、っはぁ……所詮神父じゃ、騎士は殺せないみたい、だな」
血反吐を吐きながら、出血と痛みのせいで視界もおぼつかないけれど、それでもオレは憎まれ口を叩く。
「遊んでやっていれば……よほど、死にたいらしい。――もういい、死ね」
更に神父から感じる圧力が上がるとともに、チラリと背後を確認してみれば、既にシスターとジェイの姿はなかった。
――どうやらシスターは隙を見て、瀕死のジェイを連れてこの場から逃げてくれたようだ。
時間は、もう稼いだ。
人を巻き込む心配も……ない。
――ドクン
頭が理解すると同時、心臓が……その奥にあるアレが、跳ね回る。
「我が拳を持って、懺悔しろ」
高速で奴の体が近づいてくるのを感じると同時、胸の内で堰き止めていた感情と魔力を、放出する。
同時、意識が深い闇に飲まれていく。
「ああぁあぁあ亞ぁぁaaaaアッ」
全身が稲光に包まれる中、突っ込んできた奴の背後へ移動した。
「なっ!」
痛みも、損傷も無視した体は、限界を超えた動きで、ガラ空きの背中を斬りつける。
「がっ……」
即座に奴は体制を立て直して振り返るが、その時には既に移動していた。
頭を支配する暴力の渦に身を任せ、奴を――目に見えるもの全てを切り刻む。
「あっ、がっ、ぐっ……」
上腕、太もも、胸、背、頬、指……。
手当たり次第に斬りつけ、切り刻む。
「くくく……」
ヤツの血が吹き出し、顔や腕にかかるたびにその官能的な温かさに酔いしれていく。
「はハハハハハhahaハッ」
自分が何をしているのか、何が起こっているのかさえわからないままに、本能に任せて刃を振るい切り刻む。
「なめ……るなあああああっ」
神父がこれまでを遥かに上回る勢いで拳を突き出し……それをかわそうとするが……足に突き刺さった破片の所為で動けず顔面へと直撃し、弾き飛ばされた。
視界が縦に三回転ほどした後、地面に叩きつけられるが……既に体は痛みを感じなくなっていた。
「……」
自身の血によって、視界が真っ赤に染まる中立ち上がると……口からはドス黒い液体が漏れ出す。
加えて頭の角度が歪んで見えていたため、自分の頭を掴むと、力任せに修正する。
「化け物が……」
「……」
ユラユラと定まらない視界の中で、一歩一歩真っ赤に染まったヤツへと近づいていく。
「遊びは終わりだ……」
そんな言葉とともに、神父の魔力が引き絞った右拳に集約され――突き出される。
「猛虎、蒼連撃!」
そんな掛け声と共に放たれた一撃は、間違いなく高速――本来なら避けるのさえ困難で、鋼さえ容易く打ち砕いたのだろうが……。
「なぜ、当たらない! 何故かわせる!」
高速の17連撃――そんな何度となく見慣れた打撃は一つとして当たることなく、オレはがら空きの胴体へナイフを突き入れる。
「ゴフッ……」
深々と突き刺したナイフをこね回そうとして――その腕を掴まれる。
それでも何とか腕を動かそうとするが、無理に動かしたせいか肩の関節が外れて動かなくなる。
「キサマ、は、なんなんだ」
そう問いかける男の顔には先ほどまでの嗜虐的な笑みはなく、ありありと恐怖が浮かんでいた。
そんな動揺する神父を無視して、突き刺さったナイフの先端へ魔法陣を構築し0距離で雷矢を撃ち放ち――反動で弾き飛ばされる。
「っ……」
背中から勢いよく弾かれたオレは、巨大な十字架に勢いよく叩きつけられる。
前方は放った魔法の衝撃で土煙が上がっていたが、それもすぐに晴れると……奴はまだ立っていた。
「……神、よ」
しかしヤツの腹は真っ黒に焦げ付き、半ば炭化している。
「……」
その姿を確認したオレは叩きつけられた、身の丈ほどもある十字架を力任せに引き抜くと、それを引きずりながら神父へ近づいていく。
「……どうして貴方は、私にこんな試練を」
上空を見上げ言葉を発する男へと、一歩一歩近づいていく。
神父つられて空を見上げてみれば、星々が輝いていた。
「……ドス黒く、膨大な魔力。馬鹿げた肉体の頑強さ……。もしやキサマ、研究所から逃げ出したという実験体か!?」
まともに動かなくなった足を引きずりながら腕を振り上げて、十字架を頭の上へと掲げる。
「……ははは、はははははは。なるほど、神は見捨てていなかった! 私は、御身の計画の一部になると言うことですね!」
先程までの恐怖に震えていたのとは違い、両手を広げて歓喜の笑顔で迎え入れてくる男に対しオレは、手に持った十字架の狙いを定め――。
「やめてっ、センッ!」
――つんざく様な悲鳴が聞こえる中、勢いよく振り下ろした。
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