チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

文字の大きさ
35 / 36
1章

第33話 代価と報酬

しおりを挟む
「みらいの、お話?」

 ナナの疑問の声に合わせて、ナナとミヨコ姉が此方を見ているのが分かった。

「そう未来の話。最初は私も荒唐無稽でバカバカしいと思ったのだけど、そこのボウヤは今月中に起きる出来事として、隣国の第一皇子の死と、ある貴族領の金山の発見を言い当てたのよね」

 それを聞いたユフィを含めた皆が、息を飲んだ。

「皇子の死に関しては、まぁ自身の手で殺せば言い当てられるけど、金山に関しては無理だし……他に記載されていた予知も、妙に現実味があったのよね」

 ジッとレイナに見られて、思わずオレは苦笑いした。

 正直、騎士団で碌に情報収集も出来ていない状況だった為、レイナに送った手紙の中身が本当に起こっているか不安ではあったが、どうやら間違いが無かったようで安堵する。

「偶然今回の予知が当たったのか、それとも本当に未来のことを知っているのかは分からないけど、どちらにせよ面白そうだったからこうして会いに来てみたわけ……まぁ実際会ってみた本人は、思ったよりも面白みが無かったのだけど」

 肩をすくめるレイナに、思わず頬を引きつらせていると、ミヨコ姉がジッと見て来た。

「弟くん、今の話は本当なの?」

 そう尋ねて来たミヨコ姉の瞳は、不安を表す様にどこか揺れていて、レイナが言った事を否定して欲しそうに見えた。

 だけどそれを分かっていても、オレはその問いに頷いた。

「本当の話だよ。彼女に魔術を教わる代わりに、これから起こる未来について話す事を交換条件にしたんだ」

「お兄ちゃんは、何でこれから起こることを知ってるの?」

 ナナが首を傾げながら尋ねて来たので、オレは以前ユフィに話したことと同じ――この世界について書かれた書物を読んだことがある旨を説明する。

「未来の事が書かれた書物ね……それをどこで読んだのかはすごく気になるけれど……」

 そう言われて、思わずレイナから視線を逸らす。

 どこで、いつ読んだのかと問われても当然答えられるわけもない。

「まぁ、それについては今は別に良いわ」

 そう言うと、レイナは乗ってきた馬車に近づくと、扉を開け放ち乗り込んだ。

 その行動の意図が今1つ理解できず、ポカンと見ていると、遠くから声が聞こえて来た。

「おーい、坊主たち大丈夫かー?」

 耳慣れたジェイの声が聞こえて来て振り返って見れば、団長を筆頭に団員の先輩方が執事の男性――グレイさんと共に歩いて来る所だった。

「私が居ない間に、お嬢様がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 そう言うとグレイさんは、オレ達に向けて頭を下げたので、慌てて首を横に振る。

「いや、そんな、迷惑って言うほどの事は……」

「そうよ、私がいつ迷惑をかけたって言うのかしら?」

 馬車から首だけ出したレイナが険しい顔をしたが、ソレを見たグレイさんは苦笑いをした。

 そんな中、団長が馬車の前へと一歩出ると一礼した。

「ヴァレンシュタイン様、お久しぶりでございます」

「あら、剣聖の坊やじゃない。確か10年ぶりだったかしら?」

「はい、私がまだ学生の時分でしたからその頃かと思います」

 その会話を聞いて、団長とレイナの間に直接の面識があった事に多少の驚きを覚えるが……考えてみれば、団長が彼女に師事する事を止めていたのは、実際にその人となりを知っていたからなのかもしれない。

「はぁ……何にせよ、私は疲れたからそろそろ帰るわ。アンタたちも、私から未だ魔術を習う気があるなら、荷物をまとめたらさっさと乗りなさい」

 そう言って、レイナは追い払うように手を振るが……彼女の中で気になる発言があった。

「えっと、教わる予定なのはオレ一人の予定だったんですが……」

「あら、そうだったかしら? でも私には、その子たちもついて来るつもりに見えるけど?」

 肩を竦めながらレイナが言った言葉に振り返ると、皆がオレの事をジッと見ていた。

「やっぱり私は、弟くん一人では行かせられないかな」

「ミヨコお姉ちゃんと、お兄ちゃんが行くなら、ナナも一緒に行く!」

「私は……ううん、私も一緒に行ってもいい? セン」

 ミヨコ姉、ナナ、ユフィがオレの事を真っ直ぐ見ながら尋ねてきて、予想外の発言に一瞬硬直した後、頭を掻いた。

「皆は知らないかも知れないけど、レイ……ヴァレンシュタイン卿から魔術を習う為には、代価が必要になるんだ。だから皆には……」

 残っていて欲しいと言おうとした所で、レイナが口を挟んで来る。

「あぁ、別に彼女達から代価は求めないわよ?」

「は?」

 思わず目を見開き、口を開けながらレイナの方をジッと見る。

「本来なら当然代価は貰うんだけど、まぁボウヤの払う代価で一緒に指導してあげて良いわ。その子たちのこと私、結構気に入ったし」

 そんな事をのたまうレイナに思わず目を見張っていると、ミヨコ姉達は何やら頷き合うのが見えた。

「それであれば、是非私達にも魔術を教えてください」

 そう言ってミヨコ姉が頭を下げると、ユフィとナナも合わせて頭を下げた。

「よろしくお願いします!」

「分かったわ、取り敢えず私は馬車で待ってるから急いで荷物をまとめてらっしゃい」

 そうレイナが言うと、ミヨコ姉達は再度一礼して去って行った。

 その間、オレの口は開きっぱなしである。

「あら、貴方も早く荷物取ってこないと置いて行くわよ?」

「……本当に、皆にも魔術を教えるつもりですか?」

 オレがジッとレイナの真っ赤な瞳を見ながら尋ねると、口の端を吊り上げながら頷かれた。

「ええ、そのつもりよ。何か不都合でもあるのかしら?」

 そうレイナから尋ねられて、思わず鼻白む。

 吸血鬼から魔術を習える機会と言うのは、非常に希少だ。

 そもそも只でさえ吸血姫達は、その長い人生と膨大な魔力によって、人よりも進んだ魔術の知識を持っている事が多い。

 しかも今回教わるのが、他の吸血鬼からも恐れられるレイナ・ヴァレンシュタインなのだから、その指導を受けられるのは千載一遇のチャンスではある。

 だから、彼女の提案を歓迎こそすれど、蹴る必要なんてまるで無いのだけど……それでもやはり、不安は胸の内で沸き起こる。

 何せ、彼女の気まぐれが起きればオレ達は容易に吹き飛ぶような存在なのだから。

「そんなに心配なさらずとも、大丈夫かと思いますよ?」

 オレの不安が顔に出ていたからか、柔らかい声でグレイさんが声をかけて来る。

「お嬢様は基本的に女性……それも、年若い女性には甘いですから。心配される必要はありません」

 こちらの不安を和らげるように少し笑いながらグレイさんが助言してくれて、改めて少し考え直してみる。

 確かにレイナは何を考えているか分からない吸血姫だし気分屋だが、これまでの行動から見ても悪人には見えない。

 ――それに、既に皆がやる気になっているのにオレが止めるのも難しいよな……。

 そう思い立つとオレは、一度深くレイナ――ヴァレンシュタイン卿へ深く頭を下げた。

「皆ともども、よろしくお願いします」

「……ふん。アンタからはきっちり代価を貰うから、心しておきなさい」

 そう告げるとレイナは馬車の中へと引っ込み、それを見たオレは既にまとめてある荷物を持ってくるために、寮へと戻ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...