チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい～放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定！？　モブキャラからの成り上がり人生～

猫又ノ又助

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1章

第34話：吸血姫の城

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　伯爵事件を解決するために、俺たちはレイナ・ヴァレンシュタインの居城――ヴァレンシュタイン城で、想像を絶する苛烈な修行の日々を送ることになった。

　城の門をくぐった瞬間から、空気は一変した。外

　外の世界とは隔絶されたその空間は、壮麗な美しさの中に、底知れない異質さを秘めていた。城の中を案内された俺たちは、まずその広大さに目を瞠る。吸血鬼の城っていうのは、ただ大きいだけじゃない。空間そのものが複雑に捻じ曲げられているような、奇妙な感覚に襲われた。

「ここがキミたちの修行場ね。期間は……まあ、アタシが飽きるまで、ってところかしら」

　レイナがそう告げた時、俺は少しだけ覚悟が足りなかったことを悟った。彼女の言う「修行」は、俺たちが騎士団で経験してきたものとは全く次元が違ったんだ。

　最初のうちは、基本的な魔力操作から始まった。だけど、それは人間の魔術の常識を遥かに逸脱していた。レイナは、俺たちの魔力の「流れ」そのものに介入し、まるで体内の血を操るかのように、ねじ曲げ、加速させ、そして止めることを要求した。

「人間の魔術なんて、所詮は外界の力を借りるだけの小手先よ。アタシたち眷属の魔術は、自らの命そのものから力を引き出すもの。それが理解できないのなら、キミたちはその身をもって知るがいいわ」

　レイナの言葉は常に冷徹で、少しでも集中が途切れれば、容赦なく魔力の奔流が俺たちの身体を襲った。それは物理的な痛みというよりは、全身の細胞が沸騰するような、あるいは凍てつくような感覚で、意識を保つのがやっとだった。

　特に、レイナが注目したのは、俺の中に眠る「羽」の力だった。

「その異質な力は、キミの奥底に隠れてるわね。引き出しなさい。それが制御できないのなら、いずれキミ自身を食い尽くすことになるわよ？」

　彼女は、俺が羽の力を発動しようとすると、わざと不安定な魔力をぶつけ、制御を乱させた。何度も体が内側から弾け飛びそうになり、気を失いかけた。その度に、レイナの「つまらない」という声が聞こえ、俺は無理やり意識を引き戻された。だけど、そのおかげで、俺は少しずつ、羽の力の「本質」を理解し始めていく。

　ユフィの「瞳」の能力も、レイナの指導で大きく変化した。

「キミの瞳は、世界の『淀み』を視る。ならば、その淀みを操り、敵の魔力の流れを乱しなさい。あるいは、未来の微細な兆候を読み、予測不能な攻撃を放つがいいわ」

　ユフィは、魔力そのものを見抜く能力と、レイナの教えを組み合わせることで、戦場での情報収集だけでなく、敵の魔法を瞬時に解析し、打ち破る術を身につけていった。彼女の瞳は、以前にも増して深く、神秘的な輝きを放つようになった。

　ミヨコ姉は、その魔術の才能をさらに開花させた。

「キミの魔力は、様々な可能性を持つ。だけど、決して無理をするべきじゃないわ」

　レイナは、ミヨコ姉の優しい心を刺激するように指導した。ミヨコ姉は、俺たちを守りたいという強い思いから、どんなに苦しい訓練にも耐え抜いた

　そして、ナナだ。彼女の純粋で強大な魔力は、レイナの指導で驚くほど制御できるようになっていった。

「キミはまだ幼い。だけど、その魔力は混沌そのもの。形を与えなさい。感情のままに力を解き放てば、いずれ全てを破壊するでしょう。だけど、それを統べることで、誰にも真似できない純粋な破壊者となれるわ」

　ナナは、レイナの言葉を素直に受け入れ、遊びの延長のように魔法を操っていった。彼女の魔法は、見た目からは想像もつかないほどの破壊力を秘め、その制御能力はすでに驚愕するレベルになっていた。

　修行中、俺はレイナにゲームの「未来の物語」を語り聞かせた。特に重視したのは、半年後に迫った伯爵令嬢の両親の死だ。ゲームでは「外交の為の遠征中の事故死」とされていたが、俺の知る限り、それは伯爵令嬢の叔父にあたる人物による他殺が原因だった。

「ほう、伯爵夫妻はそのように死ぬと……面白いわね。だけど、未来は常に確定しているわけじゃない。キミの介入が、どのような『波紋』を生むか、アタシも楽しみだわ。特に、そのヘイズ伯爵夫妻の『事故』とやらはね」

　レイナは、俺の知識を深く考察し、時には俺の知らないゲームの裏設定や、隠された真実を示唆することもあった。彼女は、俺の知っている「未来」が、単なる可能性の一つに過ぎないことを教えてくれたんだ。俺たちが、この世界で起こす一つ一つの行動が、未来を少しずつ変えていくことをね。

　時にレイナのあまりにも過酷な指導に心が折れそうになった時、誰かが助け舟を出し、互いを励まし合った。俺たちは、ヴァレンシュタイン城で、単に魔法を学ぶだけでなく、家族としての絆を何よりも強くしていった。

　そして、その苛烈な修行の日々が終わりを告げた時、俺たちは確信した。

　これまでの俺たちとは違う。レイナ・ヴァレンシュタインの元で得た力は、俺たちの想像を遥かに超えるものだった。

　伯爵事件が迫る中、レイナから告げられた。

「さあ、キミたちの力を試す時よ。吸血鬼の元で学んだ人間がどれほどのものか、教えてあげるがいいわ。特に、卑劣な鼠を駆逐するには、ちょうど良い機会でしょう？」

　俺たちは、レイナの言葉を胸に、静かに城を後にした。
　そして、ゲームのシナリオ通りに進むはずだった伯爵令嬢の両親の「事故死」という悲劇を回避するため、伯爵の事件に本格的に介入することになる。

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