あなたと過ごす最後の七日間

パプリカ

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一週間前に戻るとき、物の類いはすべてリセットされる。

ただ、もちろん記憶はそのまま。わたしは爆発事件の犯人の細かい情報を知っている。彼がどこに住んでいるのかも。

再び7月17日に戻ってきたとき、わたしの頭には次の作戦が出来上がっていた。

あのあとで配信された動画をチェックしたのだけれど、そこでは配信者が容疑者に携帯で連絡をとろうとしていた。相手に繋がることはもちろんなかったのだけれど、それを見たとき、わたしにも同じことが出来るんじゃないかなと思った。

前の計画のアップデート。

わたしは彼の電話番号を知っている。逮捕された直後に流出してた番号を覚えている。
だから、容疑者が捕まる前のいまでも、連絡をすることができる。

再開の月曜日、7月17日。
さっそくわたしは行動に移すことに決めた。

早ければ早いほうがいいに決まっている。緊張はする。面識のない人を脅すわけだから。
でも、この前のビルではなんとかそれらしく振る舞うことはできた。電話のほうが気楽に決まっている。

進行は前のと同じで大丈夫だと思う。謎の組織に所属する女、という設定で行こう。

夕食後、わたしはネットで見た電話番号を自分の携帯に打った。この時間なら家にいる可能性が高いと思った。あまり大声では言えない内容だから、外だと途中で切られてしまう。 

番号は通知することにした。非通知だと相手が出ない可能性があるから。わたしの電話番号を知られたところで、デメリットなんてなにもないし。

「……はい」

知らない番号からかかってきたからか、声にはやっぱり警戒感がにじんでいた。それでも出てくれたことにわたしは心のなかで感謝をした。

「はじめまして。わたし、芹沢莉子といいます」
「……芹沢?」
「夜遅くに失礼します。加々美春樹さんの番号で間違いありませんよね」

わたしは低めの声を意識して出していた。普段の声ではいたずらだとでもすぐに勘違いされてしまいそうだから。

「そうだけど」
「突然の電話に驚いているかもしれません。しかし、落ち着いてください。今回連絡をさしあげたのは、あなたにあるお願いをしたいからです」
「お願い?」
「はい。わたしはある組織に所属するエージェントです。いま国家を揺るがすような重大な仕事に携わっているのですが、それに協力をしていただきたく連絡をさしあげた次第です」
「え、なにそれ」

「とりあえず話を聞いてください。電話を切るのは、それからでも遅くはありません。このような言い方はしたくはないのですが、ここでの対応を誤れば、あなたの安全を保証することはできないのです」
「……組織って、なんの」
「残念ながら、それについては明かすことはできません。そのほうがあなたにとってもメリットがあると思います。こちらに入り込みすぎますと、いろいろな危険も付きまといますから」
「いや、ちょっと、何を言ってるのかわかんないんだけど。ごめん、ぼく忙しいから」

このままで電話を切られてしまう。ここはもっと、相手の逃げ場をふさがないと。

「わたしたちはあなたのことはすでに調査済みです。もし電話を切られるのでしたら、部下がそちらへとお邪魔することになりますが、よろしいですか」

わたしはその言葉に続いて、具体的な住所を口にした。

さすがに夜に見知らぬ訪問者が来ることは恐ろしいのか、電話は繋がったままだった。

「それが正しい判断です。まずはわたしの話に耳を傾けてください。よろしいですね」
「……」
「では、率直にお尋ねします。加々美さん、あなたは一連の爆弾事件の犯人ですね」
「っ!」

息を飲むような音がこちらにまで伝わってきた。

「わたしたちはあなたの敵ではありません。あなたを警察に通報する気などないのです。ご理解いただけますか?」
「……」
「ですが、それもわたしたちへの態度で変わるかもしれません。協力をするかどうか、その判断によってあなたの運命はかわります」
「……」
「ですが、ご安心を。わたしたちはなにも特別なことを要求するつもりはありません。大金は必要としていませんし、誰かを殺すような命令を下すつもりもないのです」
「じゃあ、なにをすれば」

会話が成立している。加々美さんはわたしが秘密組織のメンバーであることを信じているようだった。やっぱり、公になっていない情報というのは強い。警察ですら犯人が誰かなんて知らないわけだから、加々美さんの衝撃は大きかったはず。

これならうまく計画に乗せることができるかもしれない。

「これまでと同じことをしていただければ結構です」
「同じことって?」
「もちろん、爆弾です。それを使って、ある建物に損害を与えていただきたいのです」
「建物?」
「はい。それを実行していただければ、あなたの安全は約束します」

そう言ってわたしは一呼吸置き、数秒後に言葉を続けた。

「これから言う高校の校舎で、爆弾を爆発させてほしいのです」
「……え?」

わたしは自分の通う高校の名前を口にした。

「驚かれましたか?」
「ま、まあ」
「学校には幸い、監視カメラなどはありません。敷地は広く、こっそりと侵入するルートはいくらでもあります。爆弾が遠隔式であるなら、すぐに立ち去ることもできるでしょう」
「なんのために、そんなことを」
「理由を聞いてはいけません。あなたは指示された通りに爆弾を爆発させればいいのてす。もちろん、誰も怪我などしないように夜中に行ってください」
「報酬は?」
「ありません。強いて言えば、あなたの安全が保たれることです。こちらから警察に圧力をかけて、一連の爆弾事件の犯人は追わないようも言っておきます」

こうも平然と嘘をつき続けられることに、わたしは恐怖を感じていた。いくら大きな目的を達成するためとはいえ、なんだか自分がとても軽薄な人間に思えてくる。

「仲間にはなれないのかな?」
「え?」
「ぼくも君たちの仲間に入れて欲しいんだ。爆弾がもっと必要なら、いくらでも協力をするよ。仮にテロ組織であったとしても、全然構わないから」
「い、いまはそのような募集はしていないのですが」

予想していなかった展開。設定らしい設定なんてないので、深く追求されるとボロが出てしまうかもしれない。ここはさっさと電話を切ったほうがいいかもしれない。

「いえ、わかりました。では今回のケースを試験としましょう。無事に成功したなら、あなたをわたしたちの組織へと迎い入れることを約束いたします」
「本当に?」
「わたしは嘘はつきません。ただし、あくまでも成功した場合に限られますが」
「わかった。必ずやりきって見せるよ。いつまでに爆発させればいいの?」

ウキウキした様子が伝わってくるような声音だった。マンガのような世界に飛び込めると本気で信じている。ある意味こんな純粋な人だから、爆弾作りにのめりこんでしまうのかもしれない。

「出来れば、今日の深夜にでも。可能でしょうか」
「うん、ストックはあるから、いまから準備しておくよ」
「それでは成功をいの」

わたしが切る前に、通話は途絶えた。
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