未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ

文字の大きさ
23 / 36
第二章(改正版)

朝の踊り場 ※

しおりを挟む
 待ち合わせをしている駅にクロスバイクのスピードをあげながら走らせ、久場は冷たく強い風を浴びる。
 恋に浮かれた体には丁度いいくらいの冷気だ。
 由人の事を考えればいつでもエネルギーが体に満ちていく。
 そして流れていく冬の始まりの景色は、今まで感じたことがないくらいに輝いて美しい。
 太陽も風も、周りの木々や草花たち、あらゆる自然がエネルギッシュに光り、自分を応援してくれている様だ。
 光り輝く景色は、不思議と自分が恋をしている事を実感させる。

 久場と付き合いだしてかなり前向きになった由人だが、染みついてしまった臆病な性格は治らない。
 いまだに朝のラッシュの人混みは苦手で、早めの登校は続いている。でもそこが可愛らしい。
 駅に着いた久場は、改札口から離れた自転車置き場で由人を待ち構える。
 電車が駅に入り、改札口から由人が出てきて久場を見つける。
 パタパタと小走りをしてこっちにやってくる。
 由人は運動神経が悪いので、こけそうで心配になるが、こけてしまったらまた由人を背負い小さな尻を撫でる事も出来ると、よからぬ妄想までしてしまう。
「おはよう、久場くん」
「おはよう、由人」
 転けずに駆けてきた由人が、朝の挨拶をする。
 ほんのり桃色の頬をした可愛らしい恋人の顔を見れば、ついさっきまでの妄想などどこかへ飛んでいく。
 久場は、はめていた手袋を外して由人と手を繋いで歩き始める。
 特に話すことはない。
 由人はお喋りが苦手なので、久場も無理に話題を振らない。
 歩道の車道側を久場が歩き、右手だけでバランスを取りながら自転車を押している。
 由人は手袋を外させる事も片手だけで自転車を押させる事も、申し訳ないと思いながら、自分と手を繋ぎたがる久場が愛おしいし、冷え性の自分と違う彼の熱い体温は安心する。
 久場の愛情を感じながら黙って握られている。
 二人が通う高校は進学校で、部活の朝練は禁止されている。早朝に他の生徒と鉢合う事はない。
 学校に着き、自転車を停めてから校舎に入る。
 時間はまだ七時半を過ぎたくらいで、校舎内も朝の透明な空気があるだけでシンとしている。
 久場は由人の手を引いて、いつもの場所へ連れて行く。
 校舎の階段を登った三階、誰も来ない屋上のドアの前の踊り場まで上がる。
 体力の少ない由人の息は、はぁはぁと荒くなってしまう。
 踊り場に鞄を置き、階段に横並びに座ってから久場は、由人に水筒のお茶を飲ませ、由人の呼吸が落ち着くのを待つ。
 十月に早恵子たちに付き合っている事を報告した日に初めてキスをした。
 それから週三回、二人はこの踊り場で隠れてキスをする。
 久場としては毎日だってしたいが、真面目な由人にとっては学校は神聖な場所という固定概念があり、学校で毎日キスをするのを許してくれない。
 久場自身も、誰とでも付き合っていた頃の彼女たちに学校で戯れつかれる事を嫌っていたのでその気持ちは分かる。
 しかし本音を言えば、片時も由人を離したくない。
 教室でも膝の上に乗せて柔らかな頬を触りながらずっと見つめて話しをていたいが、由人の穏やかな学校生活を守る為には、堪えるしかない。
 早恵子たち以外には、この交際をわざわざ公にする必要はなかった。

「息、大丈夫?」
「うん」
 由人がこくんと頷き、大人しく待っている久場に顔を向け瞼を閉じる。
 久場は左手を床につき体を傾けながら、隣にいる由人にキスをする。
 柔らかい由人の唇の感触を、はむはむと楽しみながら啄むように唇を何度も重ねていると、由人は頬を上気させ、右手をおずおずと久場の背中へやり、ブレザーをキュッと掴む。
 その仕草が可愛くて久場の唇の端が吊り上がる。
 厄介な嗜虐心を押し殺して、じっとしている由人の上唇を、何度か唇で挟み、顔を離してやる。
 由人の瞼がゆっくりと開き、顔を覗いている久場と目が合うと、視線を泳がせながら照れくさそうに、はにかむ。
「はぁ、可愛い……」小さな頭を両腕で抱き寄せて逞しい胸にうずもらせる。
「久場くん、これ苦しいんだって、もう」
 抱きしめられたまま文句を言うけれど、由人はこうされるのが好きだということは分かっている。
 抵抗する事もなく胸に顔を埋めて、久場の匂いを嗅いでいる。
 久場も由人の髪を思う存分に嗅ぐ。由人の肌も髪もいい匂いがする。
 それは、家族が使っているジャスミン系のボディソープとシャンプーを由人も使っているからだそうだ。爽やかで少しだけ甘い香りは由人に合っている。
「由人、可愛い、好き、大好き」
「もう、言い過ぎだよ、恥ずかしいよ」
 抱き寄せたまま、頭に頬擦りをする久場に由人が可笑しそうに言う。
「吐き出してないとね、我慢出来なくなっちゃうから」
 久場の言葉に腕の中で由人が少しだけ硬直する。
 怖がらせるつもりはないが、聖人君子でいるつもりはない。
 由人に堪らない劣情を向けている事を分かっていて欲しい。
 抱擁も、キスも、重い愛にも少しずつ慣れていって欲しい。由人の頬に軽くキスをする。
「大丈夫だよ、学校ではこれ以上しないから」
「うん」
「じゃ、ちょっと寝る」
 久場は踊り場に寝転がり由人の細い足に頭を乗せて上を見上げる。由人が少し笑って見下ろしてくれる。
 久場が目を閉じると由人の手が優しく髪を撫でる。
 細い腰を力一杯抱きしめたい気持ちを、息を整えながら久場は静めていく。
 卒業するまでは由人にキス以上のことはしない。
 この我慢は、純粋無垢な由人を愛する為の大事な通過点なのだと自分に言い聞かせる。
 律儀な自分を褒めてくれている様に、優しく髪を撫でる由人の小さな手の感触は心地よく、久場はゆっくりと寝息をたてた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

処理中です...